魔境編
広域
第7話 魔境
【魔境】
そこは、この世界で最も危険区域とされる森。
冒険者はもちろん。知性や理性がない低レベルの魔物までも本能的に近づこうとしない。
リューライはその魔境で、冒険者になるまでの2年間、修行をすると決めたのだった。
***
「父さん、母さん、いってきます!」
俺は、元剣聖である父さんに惜しくも剣で負け、更なる強さを求めて魔境と呼ばれる少し危険? だと言われている森へと出発しようとしている。
「本当に行くの? 本当に行っちゃうの?」
「今ならまだ引き返せるぞ!」
「そうよそうよ! まだ7歳だし、母さんと一緒にお菓子を焼いて食べましょ!」
「お菓子なんか焼くより、父さんと薪割りでもするか!」
昨日は深妙な面持ちで、一度は魔境へ行く事を許した父さんと母さんだが、今になってあれやこれやと落ち着かない。
「父さん、母さん、おれ、強くなって帰ってくるから! 父さんや母さんを、どんな魔物からも守れるくらい強くなってみせるから!」
俺の覚悟が揺るがないと悟ったのか、2人とも涙目で見送りの準備を始める。
「我が息子よ、父さんと母さんは、お前を信じて待つぞ! 生きて帰ったお前の顔を見るまでは絶対に泣かない。自分を信じて、力の限り戦ってこい! 父さんの息子だ、絶対に大丈夫だ!」
「いざとなったら転移魔法陣を使うのよ! いざとならなくても、使っていいのよ」
母さんの顔は涙でぐちゃぐちゃだ。
「魔境で何を食べるの? どこで寝るの? 何かに襲われても1人ぼっちよ? 本当に大丈夫? 少しでも危なかったらスグにコレを使って戻ってくるのよ」
母さんの気持ちが痛い程伝わってくる。
この2人は本当に優しい。
優しさが、愛が、全身から伝わってくる。
思わず涙が出そうになった。
「2年経ったら戻ってくるから!」
俺は今日から魔境で暮らす。
修行をする。
食料は自分で調達して寝床も作る。
いわゆる自給自足というやつに挑戦する。
前世ではキャンプやBBQをやった事がなかったので、色んな意味でも楽しみだ。
……と思っていたのだが、
[グォォーーー!!!!]
この森、地球と違って魔物がいるんだった!
早速か。
ブラックベア。
前に戦った時は死ぬかと思った、というか師匠が居なかったら死んでいた。
《こいつは前に戦った奴よりも少し強いな。》
(全力で行きます。)
サーーーーーーー
魔力を流す。
今では当たり前にできる。
前とは違う。
「身体強化!」
そして、
シャキーン!
ふふっ!
父さんに内緒で、家の倉庫からこっそり持ってきた剣だ。
バレたら怒られそうだな。
「その首、切り落としてやる!」
[グォォーーー!]
爪を使った攻撃。
前に受けたからわかる。
あれは痛い!
ふぅぅぅー、と息を吐いて呼吸を整えた。
「二の剣、登り地獄!」
登り地獄は下から上に剣を振り上げる技だ。
迫ってきている爪を弾けたらいいと思っていたのだが、
[グワァぁー……]
俺の剣は相手の手どころか、体を左右真っ二つに切り落としていた。
「あれ、なんで?」
塵となったブラックベアの代わりに地面に落ちているドロップアイテム、[黒爪]と紫色に濁っている魔石を見つめて呆然としてしまった。
《お前はこの2年、ひたすら魔力というものに触れてきた。そして俺が作ったゴーレムと戦った。おまけに剣聖とまで戦い、その技を取得した。魔境の中でもこの[広域]と呼ばれるところでは相手になる魔物はいないだろう。》
そうか、俺、ちゃんと強くなってたんだ!
《それはそうと、もう少しでこの辺りは暗くなる。早めに拠点を決めた方がいいんじゃないか?》
(そうですね。どこか安全なところ探さないと。おすすめの場所ありますか?)
《広域と中域の間に洞窟がある。その中はどうだ?》
(洞窟? 中にモンスターは?)
《もちろんいるぞ。たが、その洞窟はレベル2までしかでないんだ。そして洞窟内には無数の横穴がある。その中に入ってれば襲われないだろう。》
(じゃあ今からそこ行きましょうか。どれくらいでつきますかね?)
《あっ、やっぱり無理だ。》
(えっ?)
《あそこに行くまで1週間かかるんだった。》
中域まで1週間!?
どれだけ広いんだよ。
あと1週間安全なところはないって事か。
(ここら辺で安全なところは?)
《強いて言えば木の上だ。広域には飛ぶモンスターがいない。地上を這うモンスターしかいないんだ。でも、木を登ってくるモンスターならたくさんいる。どっちにしろ、寝てる間に見つかったら終わりだ。》
今の状況から考えると木の上で休むのが1番安全だろう。
(じゃあ木の上に簡単なツリーハウスを作ります。)
《ツリーハウス? 何だそれは。》
(ツリーハウスは木の上の家ですよ。秘密基地みたいでとてもワクワクします!)
小さい頃から夢見たツリーハウス。
《そんなものが作れるのか? 暗くなるまで1時間もないぞ。魔境は暗くなったら本当に何も見えなくなる。》
(はい。試したいこともありますし。)
俺は今まで無属性魔法は身体強化、アイテムボックス、強化エンチャントしか使ったことがない。
でも、師匠は無属性魔法では何でもできると言っていた。
そこで俺は、無属性魔法で物を動かせるのではないか、と考えたんだ。
そこら中に落ちてる木を集める。
掃除機のイメージだ。この手に吸い込む感じ。
そのためには手、そして木に魔力を流す。
すると、想像した通りにあたり一帯の木々が俺の元へきた。
そしてこれを木の上で小屋の形にする。
前世で小さい頃によく遊んだブロック型の組み立てるおもちゃをイメージした。
そんな感じで組み立ててみる。
「よし! できた!」
20メートルを超える大きな木の上には、男なら誰もが一回は憧れるであろう[ザ・秘密基地]なツリーハウスが出来上がった。
木登りなら今まで嫌と言うほどやってきた。
「身体強化!」
俺は20メートルの高さを3秒くらいで駆け上がった。
《おー!! 何だこれは!? 本当に木の上に小屋ができたじゃないか!?》
師匠が想像していた10倍はしゃいでくれた。
(じゃあ、今日はここで休みます。)
アイテムボックスから自作の寝袋を取り出して、あとは寝るだけ。
《お前が寝てる間は俺が警戒しとくから、安心して寝ろ。》
(ありがとうございます! おやすみなさい。)
《早く寝ろ。》
そうして俺は少しひんやりとする小屋で一休みした。
「あぁぁ〜、よく寝た。」
俺はコケコッコー、ではなくグォォーーー! という鳴き声で目を覚ました。
朝から恐ろしいな。
《おっ、起きたか。》
(はい。俺は中心を目指して移動していきますが、いいですよね。)
《あぁ、もちろんだ。》
俺は小屋ごとアイテムボックスに入れて歩き出した。
木の下へ降りると、
[キュル、キュルキュルー!]
見たこともないような見た目のモンスターが俺を見つけて鳴いている。
青色の胴体は狼のように毛が靡いていて、嘴がある。でも、翼はなく、大きな爪が左右3本ずつ生えている。
獰猛な見た目で、その目からはものすごい圧を感じる。
《[キュルたん]だな。》
(キュルたん?)
《こいつの名前だ。ちなみにこいつ、レベル3で[ブラックベア]よりも強いぞ。》
俺は思わずこの見た目からは想像もつかないような可愛い名前に動揺してしまった。
でも、ブラックベアよりも強い。
俺はアイテムボックスから剣を取り出して構える。
《こいつは相当速いから気をつけろ。》
(はい。)
「身体強化!」
俺はキュルたんを見て攻撃に差し掛かろうとしていたのだが、
「い、いない…………ぐはっ!」
いつの間にか背後に回り込まれていて、背中に強烈な蹴りを喰らってしまった。
油断した。
自分なら大丈夫と思い込んでた。
ここは魔境だ。
一瞬でも気を抜いたら殺される!
《何をしている。早く立て!》
(すいません。師匠。)
相手は目で追えない。
魔力を感じるんだ。
モンスターには独特の魔力が流れている。
それを感じて……
「そこだ!」
[キュル!?]
よし、カウンターをモロに当てた。
相手は動けなくなっている。
「三の剣、光の剣!」
ザクッという音と共に[キュルたん]は塵になっていく。
ドロップアイテム[キュルたんの毛皮]と魔石を落としたので、アイテムボックスに入れておいた。
(それで、中域まで行くのに1週間だっけ?)
《普通に歩けばな。身体強化をかけてダッシュしたら2日で着くだろう。でも、モンスターと戦いながら行くんだったら3日はかかる。》
(じゃあ身体強化をかけながらいこう。)
こうして俺たちは、中域を目指して再び走り始めた。
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