第3話 分かるけど分からない
「なんやよう分からんけど、とりあえず俺も自己紹介するわ。なんかすまんな、無理言うて」
繰り返されるそれに首を振り、お互い様だからと小さく頷く。
「俺はリッキー。リキでもええぞ。職業はともかく、ソロキャンパーやっとる」
「そうですか……」
「落ち込むなや。大丈夫や、全然分からんけど」
それ全然大丈夫じゃない。どうしよう、どうすればいいのか分からない。
顔を伏せると、ソロキャンパーを名乗るリッキーが僕の肩を叩いた。距離感が近いな、やっぱり関西人なのでは。でも違う。
「しゃあない。とりあえず大体理解した。言い分だけ」
「ですね」
顔を上げ、リッキーの顔をあらためて確かめる。
意思の強そうな顔つき、帽子を取ると短髪で刈り込んでいる。無造作なそれに帽子の跡がくっきりついていた。
そうだ、日本人っぽい。日本人かと問われたらたぶんそう、と答えると思う。海外からもたくさんの人が日本に来るようになって、僕達だってそれぐらいは分かる。
授業などで多様性について話を聞くことも増えた。先生の若い頃はもっと少なくて、今とは全然違ったらしい。
だけど目の前のリッキーは、そもそも名前が全然日本人ではなくて、けれど凄く関西人っぽいのに、違うらしい。
「地球ねえ……地球かあ……」
リッキーと名乗る彼は呟くように繰り返した。これが通じたら海外ということになる。唯一それだけが救いの道だったのに、
「意味が分からん。惑星って概念は分かる。けど知らん。お前物知りやな」
物知りで片付けられた。これで物知りなら、僕は物知り博士を超越した何かだ。博士の上がなんなのか、僕は知らない。
「つまり海外でもなくて地球でもないんですね」
「そう思うわ。俺が知らんだけで、実は地球って星に生きとって、お前のそのニホンって国が超ドマイナーなだけやったら、話は変わる。でや?」
日本が超ドマイナーならアメリカは結構ドマイナーになる。それを確かめると、
「アメリカってなんや。食いもんか」
斜め上の返答に、僕はため息しか出てこない。あとやっぱり、喉が乾く。だから麦茶を更におかわりした。
それを飲み干しても、やはりため息しか出てこない。
またリッキーが肩を叩いてきた。距離が近いな。やはり関西人では。でも違うらしい。
「しゃあない、好きなだけため息つけ。幸福が逃げるとかそんなことあらへん。生きとる証拠や。獣と違う証拠やから俺は安心しとる」
「そうですか……」
人です。確かに動物はため息はつかないだろう。けれどそれで、何が解決するって言うんだ。なんか教え的なものだけは日本っぽいの、なんでなん?
と、内心でエセ関西しても仕方ない。
リッキーは更に励ますよう口を開いた。
「人間のフリする輩もおるから、それやったら滅多打ちにせなあかん。ソロキャンパーやし、それぐらい出来るけど。カケル、お前にはまだ早い」
「ですか……どうしよう。ここがどこか、逆に聞いてもいいですか?」
もう、少し投げやりな気持ちになっている。
話が通じる人がいるのに、ここは日本でも海外でもない。地球ではないどこかで、どうして言葉が通じるのか。
「さよか。ええよ、簡単にな。よう聞けよ。四回ぐらいまでやったら、特別に話したる」
一回で充分だよ。四回話すのは、そっちが話したいだけのことじゃないか。やはり関西人では。でも違う。
それからリッキーはこの世界について説明し始めた。それを聞いて、僕はあからさまな現実を認識することになるが、やはりため息しか出てこない。
あとやっぱり喉が乾く。麦茶を追加注文して僕は黙って話を聞いていた。
森閑とした森の中、ソロキャンパーを名乗る彼と二人きりで。
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