第43話:夏の終点・二駅前

 第43話:夏の終点・二駅前


 八月二十九日。


 今日はイヤーマフラーズからお知らせが流れることになってる。

 ゲームでもよくある、日付は決まってないけど『〇月発売予定』的なざっくりしたやつ。

 とりあえず告知をして、期待値を上げて見に来る人を増やそうって戦法だね。


 とはいえ、日付だけじゃなくて内容もまだ決まってないんだよね。

 僕たちはティックノックだけど、イヤーマフラーズはUTVだし、どっちかもまだ。

 これから決めなきゃいけないことがたくさんあるし、ノートくんに負担かけちゃってるな。


 何時に上がるか知らないし、気付いた誰かが教えてくれるかな?

 まあ、気長に待ちましょうか。



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 正直集まる意味なんてなかったんだけど、アキがしつこくってしつこくって。

 マネージャーがプイッタに上げるだけなんだけど、本当になんの為なんだろう。


「えー? 詳細知らないし、聞きたいなって!」

「お酒飲んでも記憶残ってるタイプじゃなかったっけ……?」

「そのはずですね~」

「どゆこと? 皆は知ってるってこと? まさか仲間はずれに!」

「違うわ! 十月くらいにコラボやるって話したの覚えてないの?」

「ふふん、バカにしないでもらおうか! 覚えてないわ!」

「いやただのバカやんけ」

「あははは~♪」

「アキちゃんはおバカちゃんね」


 さすがのカコも、あれだけ喜んで暴れたのに記憶に残ってないのに引いてるっぽい。

 アキに対する甘やかしの手が完全に止まったから、たぶん間違いない。


「皆さんお疲れ様です」

「マネージャー、お疲れ様です」

「おつかれ!」

「です~」

「お疲れ様です」

「丁度その件に進展がありまして、『十月くらい』が『十月中』にやることになりました」

「おお!」

「日付の方は?」

「スケジュールの兼ね合いがあるので要調整ですが、八日か十五日を提案予定です。 次の話し合いで提案するつもりです」

「上旬から中旬なのね」

「ほえ~」

「場所はのなめスタジオで確定しました。 元々こちらで場所を提供する予定でしたが、のなめさん本人からの希望でして」

「一応男の子の部屋だし、問題あるんじゃ……」

「理由は聞きましたの?」

「えっと……妹さんが皆さんのファンで会わせてあげたいと」


 えー、そんな理由でってちょっと……。

 というか、配信現場に呼べばいいだけで、のなめスタジオでやる理由にならないんじゃ?


「まだ小学生で遠出させられないのと、どうやらお母様が是非打ち上げは家でと……ならのなめスタジオで良くね? となったそうです」

「なんで最後だけ投げやりで適当になってるの……」

「絶対考えるのをやめたパターンですわね」

「だね~」

「いいじゃん! 生のなめスタジオ見れるし、特製野菜ジュース飲めるかもよ!」

「いやまあ、確かに見てみたいけどさ」

「社長からゴーサインが出てるので、決定事項ですよ」

「まあ、ならしょうがない……のかな?」

「やったね!」


 あの社長のことだから、何か思惑があるってこと?

 正直判断に困るけど、社長の決定なら特別な理由がない限り覆せないんだろうな。


「コラボ内容は時間をかけて決めるので、もし希望があれば出してもらって大丈夫です。 絶対に採用されるという確約はできませんが」

「配信はティックノックとUTVどっちでやるんです?」

「私たちがコラボに呼ばれる形にしたいので、ティックノックで提案する予定です。 UTVと同時配信の案も出ましたが、視聴者が分散してしまうのと、コメントの処理がややこしくなるだろうと」

「まあそれは確かに」

「ただでさえ私達は配信初心者ですものね、無難な判断だと思いますわ」

「すぴ~……」

「チホちゃん、おっぱいが変な風に潰れちゃってるよ? 痛くないの? 起きれー?」

「くっ……殺せ……(ボソッ)」

「マネージャー?」

「い、いえ……なんでもないです」

「そう……?」


 いや、気持ちは分かる、分かるんだけど女騎士みたいな事言うとは思わなかった。

 マネージャーAAAカップだもんね、スーツもパンツスタイルだし。

 せめてスカートでも履けば、もっと女性らしく見られると思うんだけどな。


 たまにプイッターでサラリーマンと歩いてた! って写真上がってるしさ。

 そろそろどうにかした方が……ってマネージャーの事はどうだっていいんだよ、今は。

 ひとまずこれで、今決まってる事とか全部聞けたのかな?


「ひとまず決まってる範囲での共有は以上になります。 この後プイッタで簡単な告知を上げますが、個人のアカウントに質問が来た場合はイヤーマフラーズのアカウントに誘導してください」

「わかりました」

「はーい!」

「こちらで勝手に答えては駄目なのね、わかったわ」

「すぴ~」

「チホには私から言っておくから」

「よろしくお願いします。 では一旦失礼致します、後ほどまた顔を出しますので」

「「「はい」」」


 それからほどなくしてプイッタに告知が流れた。

 拡散もいいねもだけど、普段以上にコメントの付きがすごいことになってる。

 批判コメントがどれくらい来てるか、今から怖い……。



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「あら、プイッタから通知……なんザマしょ」


 スマホの画面を見ると、フォロワーがいいねしました、という通知が。

 珍しいザマス、滅多にいいねの通知なんて来ないのに。


「イヤーマフラーズ? のコラボ告知ザマスか。 相手は……のなめ様ザマス!」


 なんてことザマしょ!

 もう次のコラボ配信が決まったんザマスね!

 間違いなく視聴しないと駄目ザマス、のなめ様ファンとして!


 それにしてもアイドル声優ザマスか、良いザマスね。

 さすがに引き抜きはしないザマスが、ちょっとだけ話はしてみたいザマス。

 でも立場というものもありますし……どうすればいいザマしょ。


 とりあえず、このアキという子にコンタクトを取ってみるザマス。

 いち個人としてなら……大丈夫ザマしょ。



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 フォロワーの拡散によって、各方面に話題が飛んでいく。

 今のところ、賛否両論ありながらも肯定的な意見が多い。

 しかし、のなめが男と知る一部の狂信者は心穏やかではなかった。


「のなめが! 美女に囲まれてハーレムの主になったつもりか!」


 しまし、まだ会ってもいない。


「楽しくお茶を飲んでお菓子を食べてお喋りに興じる様を見せつけやがって!」


 しかし、まだ喋ってすらいない。


「こんなものを見せつけてファンに対してマウントを取った気で居るなら大間違いだ!」


 しかし、まだコラボ配信を行っていない。

 どころか、告知に添付された画像にはイラストと文字だけ。

 いったい何が見えているのか、甚だ疑問である。


「またしても俺様の世界に土足で踏み込んで来やがって! 声真似界だけじゃなく俺様のイヤマフまで!」


 のなめを親の仇のように嫌悪している男。

 底辺声真似系UTVer『まねマネ真似コピー』


「今までは俺様の空より広い心と深い慈悲で見て見ぬふりをしてやっていたが、もう駄目だ! 絶対に許さん!」


 わなわなと震える拳を机に叩きつけ、痛さに拳を摩る。


「俺様に精神的ダメージだけじゃなく肉体的なダメージまで与えやがって……いかに消してやろうか! 覚悟しておけ! ひゃははははは!」


 怒りに震える人間は彼だけではない。

 だが、一番の爆弾は間違いなく彼だろう。

 無力にも何もできず終わってくれればいいのだが、いったいどうなることやら……。

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