第12話:焼肉タベロー

 第12話:焼肉タベロー


 土曜日にもまた次の動画を上げた。

 セリフ交換声真似第二弾。

 日○の長野○みおと、ドラゴ○ボールの孫○空。

 すごく短いセリフだけど、叫ぶ系のセリフを交換したら面白かった。


 『アウトだよー!』

 『クリ○ンのことかー!』

 他にもチョイスポイントはあったけど、この二つにしてみた。

 ちょっとだけフォロワーが増えてたから、刺さった世代が見てくれたのかな?


 今回のは絵柄も交換してみた。

 相変わらず下手だけど、雰囲気は出せたかな?

 次やる時は優香に声をかけてみるのもアリかもしれない。

 液タブ触りたいって言ってたから、いい機会だと思うし。


 そんな土曜日を過ごした次の日。

 今日は家族と焼肉に行くことになっている。

 入学祝いができなかったから、今日やってくれるって。

 本当に申し訳ないけど、すごく嬉しい。


「十八時にお店行くからね」

「うん……」

「わーい! 焼肉だー!」

「うむ」


 基本的に外食はしないから、お祝いごと以外では機会がない。

 だからかな、優香のテンションが高い。

 かく言う僕も、ちょっと楽しみ。

 お家ごはんも好きだけど、わいわい食べる外食も好き。


「お兄ちゃん、時間まで液タブ触らせて?」

「いいよ……?」

「やった!」

「集中しすぎて時間忘れないでねー」

「はーい!」


 優香がバタバタ走っていって、二人で僕の部屋に入る。

 PCの電源を点けてイラストメーカーを起動。

 椅子に座ってウキウキしている優香を横目にラノベ棚を漁る。

 まだ六時間くらい時間があるから、一巻から読み返そうかな。


 …………

 ……


 『インテリジェンスソードは前世の夢をみる』の三巻をぺらぺら……。


「お兄ちゃん、もうすぐ十八時になるよ」

「分かった……」


 じっくり読んでたから、進みが遅かったかな。

 シーン的にはすごい良いところだったけど仕方ない。

 フード付きの薄い七分丈の上着を羽織ってリビングに向かう。


「ん、降りてきたね。 みんな準備できたみたいだし行こっか」

「はーい!」

「うん……」


 揃って玄関を出てゆっくり歩きながら向かう。

 僕はお母さんと並んで、優香はお父さんと並ぶ。

 最近気付いたけど、僕ってマザコンなのかもしれない。

 自然とこの並びになる辺りが特に……大好きだから何も気にしないけど。


「今日は……どのお店……行くの……?」

「去年の冬頃にテレビで紹介されてたお店でね? 近くの商店街にあるんだって。 長いこと営業してるみたいなんだけど、ずっと住んでるのに知らなかったのよねー」

「へー……なんでだろ……」

「お家の場所から見ると、商店街の奥の方にあるんだって。 お買い物行く時は真ん中くらいにあるスーパーで折り返しちゃうからかしらね?」

「あたしも奥の方までは行ったことないかもー。 そっちの方に友達の家もないし」

「やっぱりそういうものよね? でもテレビに紹介されるくらいだから、ご近所ではすごい有名なお店なのかも」


 僕たちの住むお家の近くにある商店街は、日本で一番長いって言われてるらしい。

 実際には一つの商店街なんじゃなくて、二つの商店街が踏切を境に繋がってる。

 その計算方法ありなのかなって思うけど、ありらしい。

 一番端の方……歩いてどれくらいかかるんだろう……。


「良い運動になるじゃない。 お腹空かせて、いっぱい食べましょ♪」

「う、うん……」


 体力がある三人はいいけど……。

 そんなに体力のない僕は不安でしょうがないよ。


 …………

 ……


「ここかしら?」


 ようやく目的の焼肉屋さんに着いたみたい。

 商店街全体が緩やかな坂になってるから、ちょっと疲れた。

 『食べ放題! 1980円~ 肉三昧 焼肉タベロー』

 牛と豚がナイフとフォークを持ってる絵が描かれてる……共食い?


「並んでないみたいだけど、煙が出てるからもうお客さん入ってるのね」

「開店十八時なんでしょ? 人気なんだね! 楽しみ!」

「そうね、入りましょ♪」

「うむ!」


 お店の扉を開いて入店。

 一歩踏み込むとジュージューわいわい賑やかな音が充満している。

 入ってすぐ三十代半ばくらいの女性が顔を出してにっこり笑う。


「いらっしゃいませ! 何名様でしょうか?」

「四人です、タバコは吸いません」

「ありがとうございます! こちらの席へどうぞ!」


 歩き始める店員さんに続いて、四人席に案内される。

 特別広いわけじゃないけど、黒を基調とした清潔感のある店内だ。

 どことなくお家を思わせる雰囲気があって落ち着く。


「本日のご利用は通常でしょうか? 食べ放題でしょうか?」

「食べ放題で、3980円のコースでお願いします」

「食べ放題のみ全部盛り盛り3980円コースですね! 最初のワンドリンクのみ料金に含まれますが、二杯目以降は別料金になります! サイドメニューは一覧に載っている物以外は別料金になりますので、ご注意ください! 最初にお肉と野菜の盛り合わせをお持ちしますので、追加はそれ以降でお願いします! お飲み物はいかがいたしましょうか?」

「私は烏龍茶で」

「俺も」

「わたしはオレンジジュース!」

「コーラで……」

「かしこまりました、少々お待ちください!」


 軽く会釈してパタパタと厨房があるであろう方へ歩いて行った。

 お母さんと優香がわいわい話しているのを聞きながら、メニュー表を眺める。

 ネギ塩牛タンたくさん食べたいな……味変に力入れてるのかソースとか色々載ってる。


「お飲み物お持ちしましたー。 烏龍茶にオレンジジュース、あとコーラですね」

「あ、はい……」

「クッキーくん?」

「え……? ノートくん……?」


 メニュー表を下げて店員さんを見ると、お店の服を着たノートくんが居た。

 二人の時間が数秒止まる。


「なになに? 君がノートくんなの?」

「ほう」

「あ、クッキー、小山内くんの家族の方ですか?」

「そうよー♪ ノートありがとうね、お礼言おうってずっと思ってたからビックリしちゃった!」

「いえそんな! 助けになれたなら良かったです!」

「いい子ねー♪」

「うむ」

「ノートくん……バイト……?」

「いや、ここ俺ん家なんだよ。 この上が実家になってる」

「すごい……偶然……」

良奴よしとどうしたの? トラブル?」


 席に案内してくれた店員さんが慌てたように駆け寄ってくる。


「ちげぇよ母ちゃん! クラスメイトとその家族。 たまたま来たみたい」

「あらまあ! ウチのバカ息子がお世話になってますー」

「いえいえ、逆に息子が大変お世話になりまして、お礼を言っていたところなんですよ」

「ほら、クッキーくれたって話した」

「ああ、あの!」

「あの……その節は……ありがとう……ございます……」

「あらお嬢ちゃん、礼儀正しいわねー」

「母ちゃん! 男だから! 恥ずかしいからやめてくれよ!」

「冗談下手なんだからあんたは! ごめんなさいね? ごゆっくりなさってください!」


 底抜けに明るい豪快な笑いを残して注文を取りに行ってしまった。

 背中を見送りながら眉を寄せるノートくんは、すごく気まずそうだ。


「その、すみません、失礼な母ちゃんで……」

「大丈夫よ♪ 改めてお礼言いたいから、今度お家に来てちょうだいね♪」

「あ、はい、お邪魔します」

「やった……!」

「学校で、いつ行くか話そうな」

「うん……!」


 軽く手を振って別の席に歩いていく。

 すごい偶然だけど、嬉しい驚きで顔が綻んでしまう。

 働いてる姿も格好良くて、頼りになる感じも良いな。


「爽やかで良い子だな」

「そうね♪」

「お兄ちゃんの友達かー。 良かったね」

「うん……」


 その後は乾杯をして、学校の話やノートくんの話をしてワイワイ焼肉を楽しんだ。

 途中、顔を赤くしたノートくんが横切ったのが見えた。



 ----


 営業が終わって静まり返った店内。

 家族総出で掃除を進めていく。


「母ちゃん」

「なによ、疲れたの?」

「違くてさ……今日来たクッキーの家族、マジで男だから次会ったら謝ってくれよな」

「まだそんな冗談言ってんの? あんな可愛い子に意地悪とかやめなさいよ格好悪い……」

「冗談でもなんでもないっつーの! 本人にも家族にも失礼だからマジで勘弁してくれよ!」

「……本当に冗談じゃないの?」

「そうだって言ってんじゃん! はあ……明日また謝らないと……」

「はー、あの可愛らしい子が男の子……生命の神秘ね……」

「勝手に壮大な話にすんなよ……」


 明日謝る時に割引券も一緒に渡すか。

 また来て欲しいしな。

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