第10話:校内見学
第10話:校内見学
四限目が終わった昼休み。
すぐに学級委員の二人が案内のために来てくれた。
すごく真面目そうな雰囲気で、どちらも眼鏡さん。
「学級委員の
「同じく
「よ、よろしく……お願いします……」
「早速ですが、校内見学に行きましょう」
「はい……!」
「「はうっ!」」
二人一緒に口に手を当てて上を向いちゃった……。
ミカちゃんとネコちゃんもだったけど、どう反応したらいいんだろう……。
「い、行きましょうか……」
「そ、そうですね、まずは主要の教室から……」
「お願い……します……」
ノートくんも一緒に来てくれるみたいで、四人で教室を出る。
お昼時間はそこまで長くないから、サクサク進んでいく。
多目的教室、視聴覚室、理科室、音楽室、美術室、PC室、家庭科室、被服室。
図書室、保健室、放送室、体育館、そして食堂。
「最後のここが部室棟になります」
「部室棟は、部室が割り当てられている部活動のみ入ってます」
「部室がある……部活だけ……」
「研究会だったり、そもそも部室を必要としない応援隊みたいなのは割り当てられないです」
「本当に全部に部室を与えてしまうと、何棟も必要になりましから。 小さいのを含めると膨大な数ですから」
「活動は……校内だけ……ですか……?」
「んー、どうなんでしょう。 もしかしたらそういう部活もあるかもしれないです」
「たしか、ボランティア同好会と社会奉仕研究会が校外活動してますよ」
「社会奉仕の……研究……」
「何代も引き継いでやっているようなので、活動内容はハッキリしてるんだと思います」
「なるほど……」
ミニノートに部室棟を描き込んで、学校の地図が完成する。
これで迷うことはないと思う……たぶん。
ミニノートを内ポケットに入れて、二人に頭を下げる。
「お時間貰って……ありがとう……ございます……」
「いえいえいえ、その……私も一緒に回っていて楽しかったので、大丈夫です」
「どの教室を見ても喜んでくれるのが、なんだか新鮮で僕も嬉しかったです」
「私たちが作った学校じゃないのにね、変な気分だったわ」
「そうですね、これから小山内さんと過ごす場所だと思うと、不思議とワクワクしました」
「俺も探検してるみたいで楽しかったな。 どっかに秘密基地でも作るか?」
「秘密基地……いいかも……!」
「「ふあっ!」」
「そういえば、屋上は放課後以外は入れないからな? 天文部とか使ってることあるけど」
「そうなんだ……いつか……行ってみたいな……」
「その時は……その時は私が案内するわ! 校内案内の一貫で!」
「ふふふ……よろしく……お願いします……!」
「よろこんで!!!」
ガシッと手を掴んで、目をキラキラさせている。
ビックリしたけど、とっても良い人でよかった。
四人で仲良く教室に戻っているとチャイムが鳴った。
……四人共お昼ごはん食べてないや。
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放課後、他称文芸グループを集めて渋谷さんの席に集まる。
全員文芸部なだけで、そう名乗った覚えは一回もないんだけどね。
「渋谷さん」
「どったの~? いいんちょたち~」
「私たち全員、LIMEグループに入れてください」
「お~♪ いいよいいよ~♪」
「おっメンツ増えんのー? いいねいいねー♪」
「村上さんが完全に落ちるところを見てしまいました、すぐ横で」
「ちょっ! 落ちてないです! 天に昇っただけです!」
「なにそれちょ~ウケるんですけど♪ でも、あたしが言ったことわかったっしょ~?」
「……支えてあげたくなりました!」
「僕もです。 彼はなんていうか……吸引力がありました。 声が耳に入ってくる時に不思議と心地よくなるんです。 それがなんか放っておけなくなる響きがあるっていうか……」
「めっちゃ分析してるんですけど~、ちょ~きも~い♪ でもすっごいしっくりきたかな~。 近くで聞いてたいな~ってなる感じ? よくわかる~♪」
「恥ずかしいことを言いました……」
「いいんじゃない? あーしもしっくりきたし、ずっと聞いてたい声してるよねー」
「私も……つい手を握っちゃうなきらい……」
「「なにそれ! 詳しく!」」
「あわわわ!」
「案内終わりに村上さんが--」
私たち部活の時間も、放課後の予定も全部忘れて話をし続けた。
グループ分けなんてくだらない、ギャルだなんだとか区別する必要なんてない。
ここに居るみんな、そういう風に思ったんじゃないかと思う。
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学校が終わって、ノートくんと校門を出る。
授業を受けて、色んな人と喋って、学校を探検して。
楽しかった。
本当に楽しかった。
ありきたりな日常だったのかもしれないけど、心からそう思えた。
「……大丈夫だっただろ?」
「えっ……うん……。 ノートくんの……言う通りだった……」
「だろ? …………たぶん容姿について辛い思いしてきたんだと思うんだ。 俺じゃ想像できないけど、クッキーくんの様子見てたら……そうだったんだろうな、ってさ。 でも小中学校の頃なんてみんなガキだからさ、何を言ったら相手が傷付くかとかイメージできないんだよ。 まあ高校入ってもバカなままな奴は居るんだろうけど……。 俺も言葉で友達を傷付けて後悔したことあってさ、同じような経験してる奴ってたくさん居ると思う。 ……高校ではさ、大人一歩手前の人間として扱ってくる先生とか、自分より大人な考えを持ち始める同級生とか、大人目線で接してくる先輩とか見るようになって考え方が変わったりする。 いかに自分が見てきた世界が狭い世界だったのかってさ、気付くんだよ。 ……俺にとっては両親と親戚連中がそうだったんだけど、バカなガキやってちゃダメなんだなって中三の最初の頃にな。 ……クッキーくんが見てる狭い世界から飛び出してほしかった……って何一人で語ってんだって感じだけど、まあそういうこった! 一歩は無理でも、爪先くらいは飛び出せたか?」
「うん……。 みんな気を使ってくれて……嫌な言葉……言わないでくれて……楽しくお喋りしてくれて……温かかった……心がポカポカ……温かかった……」
「そっか……なら良かった!」
すごく良い笑顔。
安心する。
これからいっぱい、こういう気持ちになれるのかな……。
すごく楽しみだな。
「明日から……楽しみだな……」
「そうだな、一緒に楽しもうな」
「うん……! うん……!」
それから何でもない話をして、ゆっくり歩いて帰った。
周りの目なんて全く気にならなかった。
そして、近所の商店街の入口が視界に入ってくる。
「俺の家商店街の中だからさ、また明日学校で会おうぜ!」
「うん……また、明日ね……」
「しょんぼりオーラすごいな……そうだLIME交換しようぜ? それでいつでも話せるしさ!」
「おお……小学校以来……久しぶりの交換……」
「え、マジか! やったぜ! 高校の友達一号だな!」
「うん……!」
友達との連絡先交換。
久しぶりすぎてちよっと手間取ったけど、追加された画面が輝いて見えた。
「これでよしっ! じゃあ、また明日な!」
「うん……! バイバイ……!」
小さく手を振って、人混みに紛れて見えなくなるまで見送った。
商店街の喧騒がとても心地よかった。
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