第52話
そしてパーティー当日、ネルバー公爵家の馬車が到着したことでシャリナ子爵家は騒然となった。
「も、もしかしてわたしを迎えに来てくださったの!?」
「そうに違いない!さすがジェシーだっ」
「ジェシー、よくやったわね!」
「やった!やったわ!やっとわたしの努力が実ったのよ」
誘いをもらっていないのにサプライズで迎えに来ることはないのでは……と思いつつ、抱き合って喜ぶ三人を横目にセレニティはドレス姿で横を通り過ぎていく。
雰囲気を壊してはいけないとは思いつつも、両親とジェシーには現実を知ってもらわなければならない。
「セレニティ嬢、遅くなってすまない」
「スティーブン様、迎えに来てくださりありがとうございます」
「え……?」
「ど、どういうことだ?」
「何故、セレニティが……?」
セレニティはスティーブンの手を取ってから、にっこりと笑みを浮かべて後ろを振り返る。
「お父様、お母様、ジェシーお姉様、わたくしはスティーブン様と会場に向かうことになっておりますので」
「なっ……!?」
「お先に失礼いたします」
その時のジェシーの顔は今までにないほどに驚いていた。
そしてセレニティはスティーブンのエスコートを受けてネルバー公爵家の馬車に乗り、その場を去った。
両親に関しては手のひらを返したように「セレニティはやはり素晴らしい!」「信じていたわ!」と言いそうではあるが、ジェシーがどうでるかはセレニティにも予想はできない。
それがわかった上でセレニティはこの選択肢を自分で選んだ。
スティーブンとは婚約者ではないが、友人として近しい関係にある。
それにスティーブンと一緒にいてわかったことは、なかなかに気が合うということだった。
今ではずっとセレニティ嬢と呼んでいたスティーブンがセレニティと呼ぶようになるほどに仲は深まっていた。
ハーモニーがいない時はスティーブンが剣の指導をしてくれているので今は師弟関係でもある。
「本当に伝えなくて大丈夫だったのか?セレニティがこの後、ジェシー嬢に何か言われないか心配だ」
「そうですわねぇ。伝えたらジェシーお姉様に何をされていたかわかりませんから黙っておりましたわ」
「……すまない。やはり控えるべきだった」
「今回の件は、わたくしから申し出ましたのでスティーブン様は気にしなくていいのです。スティーブン様に助けていただいてばかりでは、わたくしの気が済みませんもの」
「だが、俺はセレニティがシャリナ子爵邸で嫌な思いをするのを望んでいない」
「ありがとうございます。ですが、いざとなれば行儀見習いとしてセリカ公爵家かネルバー公爵家にお邪魔させていただくつもりでおりますからご心配なく!その時はスティーブン様も協力してくださいませ」
スティーブンは困ったように笑った。
セレニティもニッコリと笑みを返す。
スティーブンを間近で見ているとナイジェルとスティーブンに群がる令嬢達の勢いは凄まじいものだった。
ナイジェルは明るく口が上手いため女性の扱いに長けているが、スティーブンのように生真面目で嘘がつけないタイプは令嬢達をいなすのに苦労しているようだ。
今までブレンダと参加していたスティーブンだったが、今回はナイジェルがブレンダを誘った。
ナイジェルは「スティーブンだけ、いつもずるいぞ」と言ってブレンダを誘ったそうだが、セレニティはトリシャに事情を聞いてナイジェルのブレンダへの思いを知っていた。
そして今回はナイジェルが気を遣わなくていいように、こっそりと協力しているのだ。
セレニティは今回、ダブルで役に立っている。
(ふふっ、ナイジェル殿下も覚悟をお決めになったのね)
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