第50話

しかしそこからセレニティに対するくだらない嫌がらせが始まった。

話しかけても無視されたり、仲間に入れてもらえなかったり足をかけられたりと様々である。


(あらあら……!この方達は何を考えているのかしら。こうすることで自分に得があるとは思えないけど)


だが、セレニティにとっては小さな嫌がらせはどうでもよかった。

こうして人が多いパーティーに参加できること自体が、セレニティにとって幸せなことだからだ。


(ハーモニー隊長やブレンダお姉様達にお願いすればきっと居心地はよくなるのでしょうけど……)


もし言えば、目の前の人達は完膚なきまでに潰されてしまいそうだ。


だがこれ以上、スティーブンや皆の気を揉ませたくなかった。

あんなにもセレニティによくしてくれたスティーブンのためにも耐えることを選んだのだった。


自分で言うのもなんだがセレニティは妹のように可愛がられて溺愛されている。

しかし、いい噂というのはあまり広まらないようだ。

セレニティがネルバー公爵家に出入りしているのは知っていても、ハーモニー達と親しいことを知らない人は多い。


(これも修行のうちよ……!それに放っておけば飽きるはずだと本にも書いてあったわ!)


セレニティが何をしても無反応どころか、毎回幸せそうにお菓子を摘む様子を見て飽きていく人達が半数。


しかしセレニティが涼しい顔をしていることが腹立たしいのか、毎回無視できぬ様に目の前で声を荒げている令嬢達がいた。


セレニティを排除しようとするどこぞの令嬢は、こちらを見下す様にニタリと笑っている。

キツく巻いた焦茶色の髪に吊り目の赤い瞳がこちらを見下ろしている。

鼻をつまみたくなる甘ったるい花の香りと武装のようなド派手さを見てセレニティは思った。


(この方、なんだかジェシーお姉様とそっくりだわ……!)


セレニティがここ最近思ったことは、スティーブンやハーモニー、ブレンダのように良識ある令嬢令息もいれば、いつも欲望剥き出しで、気に入らないとくってかかったり蹴落とそうとする人もいる。


目の前の令嬢はセレニティより格上なのか「子爵家の分際で」という言葉が何度も出てくる。

そしてこの世界において家格とは何よりも重要視されるようだ。

そう思うと婚活を頑張り、よりいい家に嫁ごうとする令嬢達の気持ちがわかるような気がした。

そんなことを思いながら、セレニティはギャーギャー騒いでいる令嬢の前で素知らぬ顔で優雅に紅茶を飲んでいた。

 


「わたくしの言うことを無視するなんて、いい度胸ね……!」


「美味しい紅茶ですわ」


「なっ……!余裕でいられるのも今のうちよ!うちはネルバー公爵家とも王家とも繋がりがあるのよ!?逆らったらどうなるのかわかっているの」


「あら、どうなるのでしょうか?」


「しょっぼい子爵家なんて、すぐに潰してさしあげますわ!」


「まぁまぁ……怖いですわねぇ」


「ふん!わかったら言うことを聞くことね」



勝ち誇ったように笑みを浮かべている数人の令嬢は得意顔である。


(あなた達に権力があるわけではないのだけれど……)


セレニティはそう思いつつも令嬢たちとの矛盾だらけの会話を楽しんでいた。

小さい口でペラペラとよく喋る。


(皆様、随分と元気ですわね……)


ばあやのような気分で、令嬢達の自慢話ともいえない話を聞いていた。


同じお茶会に参加していたジェシーと共にシャリナ子爵邸に帰れば、遠くからセレニティの様子を見ていたのか、馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。



「セレニティ、あなた自分の将来のことを考えた方がいいんじゃない?」


「どういう意味でしょうか?」


「プッ……!だって、あんな風に嫌われて可哀想ったらないわ!」

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