最悪の状況になる。
硬い岩肌のため、誰もが寝苦しい夜となった。
ただし、アヤメ、キララ、白鳥の女子三名は、オサムが持参していた二人用シュラフに入っている。
天王寺キララが小柄だったので、どうにかなったのだ。
アヤメと白鳥は既に寝息をたてているが、キララの方はガンガンに起きていた。
――ちぃっ、デカ乳とクソギャルうざうざうざッ。
――ホントだったらオサムきゅんとアヘれたのにぃぃぃ。
超絶的な殺意と性欲満々のキララだったが、オサムが傍で体育座りのまま起きていたので大人しくすることにした。
なお、この緊急時でも性欲が衰えていない人間が、もうひとりいる。
――ミカミカミカミカ、アヤメ、キララちゃん――い、いや、やっぱりミカだ。
サッカー部男子は手を伸ばせば届く距離に、美少女三人が寝ているため興奮しまくっていた。
――くううう、おさまらん。ぜんぜんおさまんねぇ。
――雨が止んでりゃ、ちょっと外に行くところなんだが……。
明日には救助が来ると思っているので気楽なものだ。
その隣で、イケメン氷室も実は寝つけていない。こちらはポケットに入っているチロルチョコのことが気になっている。
とはいえ、サッカー部男子よりは危機感を持っていた。
――風と雨が強くなってきたけど、台風が来てるんじゃないのか?
――救助が明後日くらいになるかもしれない。
――だとすると――いつが――いいのかな……。
氷室は、チロルチョコの使いどころを検討中なのだ。
腹が減った時に自分だけで食べても良いし、女子だけに分けて好感度を稼ぐのも有りだろう。
タイミングによっては、三人ともデレてくる可能性もあるように思えた。
たかがチロルチョコ、されどチロルチョコである。
――くそっ、むらっとしてきたな。
結局、氷室も性欲がむくむくと湧いて来た。
一学期の始めから、彼は双葉アヤメを狙っている。
いや、正確には――、
――あ~あ、アヤメの乳にチロルを挟んでみたいよなぁ。
というアホな妄想が示すとおり、双葉アヤメのミサイルなスライム乳を求めているのだ。
そう――。
今、この洞窟は、とてつもなくアホ度数が高い。
ジッと目を閉じている伊集院とお調子者も、実際には何を考えているか分かったものではないだろう。
妙に大人しくしているが、所詮はエロゴリラとお調子者なのだ。
そんな彼らに、山神様が怒った――のか否かは分からないが――、
「――!」
寝ずの番をするつもりでいた戸塚オサムは、研ぎ澄まされまくった聴覚で異変を検知した。
ゴロゴロとした地鳴りのような低音が響いてくる。
続いて、巨大なもの同士が衝突する音が遠くに聞こえ、洞穴の天井からはパラパラと小石が降って来た。
オサムは傍で寝ているキララたちに覆い被さって叫んだ。
「みんな――」
だが、伏せろ、という声は、爆弾が落ちたかのような轟音でかき消される。
その直後に、洞穴の出口へ雪崩のように土砂と岩石が降り注ぎ、あっという間に出口が塞がれた。
「きゃああ」
「うおおお」
「ひぃぃ」
閉塞空間となった洞穴内に、オサム以外の悲鳴が木霊する。
◇
焚火を消し、再びLEDランタンが唯一の灯りとなった。
洞窟には奥行きがあるので酸素不足にはならないだろうが、煙の逃げ場がないので消したのだ。
「――最悪」
死にそうな表情で、白鳥がポツリと呟く。
「なんなんだよ、これは?」
「ふむ、土砂崩れだ」
サッカー部男子の質問に、オサムが平然とした様子で答えた。
「白鳥さんの言う通り、最悪の状況だろう」
と、余計なひと言も付け加える。
「てめ何を落ち着き払ってんだよ。そもそも、ここで休もうなんて言い出したの、お前だろうがBJ!」
サッカー部男子は、お門違いな八つ当たりを始めるが、掴みかかるほどの気力は残っていない。
「あんたクソバカね。外は大雨なんだし、ここで休む以外なかったの」
すかさずキララがフォローを入れる。
「エロいこと考えてるだけの低能は、黙ってなさいよ」
もちろん、フォローだけでなく、きっちりと刺すのも忘れないロリ美少女だ。
「で、でも――どうしよう。どうしたらいいの?」
そう言いながら、双葉アヤメは、LEDランタンに照らされた同級生たちの顔を見回す。
氷室は何かブツブツ言いながら、ポケットに入れた手をゴソゴソと動かしている。
――まさか、この状況で――なにぃ――を?
想像すると吐きそうだったが、相変わらずダンマリ状態の伊集院とお調子者も頼りにならないだろう。
となると、残りはひとりだけだ。
「幾つかのプランを検討したのだが――」
腕を組んだオサムが、なぜかゴロリと横になりながら言った。
「――まずは寝よう。話はそれからだ」
唖然とするアヤメたちを残し、数秒後には寝息を立てていた。
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