隣の席の篠宮さんはちょっと変わってる

二月ふなし

第1話 隣の席の……

【2年2組】


 着いた。

 ここが僕の新しいクラス。

 前は4組だったから、たまに間違えそうになる。

 げんに一回気づかないで、別のクラスに入っちゃったワケだし。


 この比較的新しめな校舎、前とは違う匂い。

 制服のこの感じ。

 うん、やっぱりまだ慣れない。


 ガラッ


 後ろのドアをあけて直進、窓際が僕の席。

 一番良いところだ。

 たまたまここが空いてただけ?

 それとも転校生の僕に配慮してくれてたりする?


「──おはよっ、冬木ふゆきくん」


 ……あっ、


「……おはよう、篠宮しのみやさん」

「5分前に来るなんて珍しいね。お寝坊さんかな?」

「う、うん……」


 この人は、隣の席の篠宮さん。

 転校生の僕によく話しかけてくる。


 でも最近の僕って、女子とまともに話さないから会話がすぐに途切れガチ。

 せっかく話けてくれたのに、自分のことながら情けない。


 とりあえず席に座って、荷物をゴソゴソゴソ。

 本当は準備することなんて大して無いんだけど。探すフリ。

 だって話すことなんてないし。

 それに、なんだか気まずいから……


「新しい学校にはもう慣れたかな?」

「えっ? あ、うん……」

「そっか。何かあったら私を頼っていいからね。もう同じクラスでお隣なんだし、遠慮はなしだよ」

「……ありがとう」

「フフッ」


 あっ、篠宮さん、笑顔だ……

 僕を見ながら……


「え、えっと……一時間目はたしか、数学……」


 うぅ、間が持たないよ。

 でもちょっぴりドキドキする。

 早く授業にならないかな……



 ──学校なんて、ハッキリ言って嫌いだ。


 先生の眠くなる話を聞きながら、時計とずっと睨めっこな毎日。

 僕にとっては早く帰ってゲームの続きがしたいだけの、とても退屈な時間。

 もし明日から行かないで良いって言われたら、僕は喜んでそうすると思う。


 でもこればっかりは仕方ないよね。

 同年代のみんなは毎日ちゃんと行ってるワケだし。

 そもそも学校をサボる勇気なんて僕にはない。

 あと母さんも怖いし。


 ……だけど、ここ最近は違う。

 学校に行くのがちょっぴり楽しみな自分がいる。

 

 だって、篠宮さんが。

 教室の端っこ、僕の座る窓辺、その隣に篠宮さんがいるから。


 三つ編みで2つにまとめた髪、少し茶髪がかってる。

 目が悪いのかな、丸めで大きな眼鏡。


 スカートの長さは真ん中くらいで、長すぎず、かと言って短くもない。

 私立で校則が結構緩いから、周りは短くしてるのに。

 篠宮さんは微妙っていうか、中途半端なんだ。


 あと身長は僕と同じくらいで、女子の平均くらいかな。


 最初は真面目で落ち着いた感じなのかなって思ってたけど、話してみると意外と明るくてさ。


 それで、たまに見せる、篠宮さんの笑顔。


 あれは、うん。

 お日さま? 

 よく分からないけど、僕には効きすぎるみたい。


 

 ──キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン


 やっとお昼だ。

 今からお弁当の時間。


 ここに転校して来てまだ10日くらい。

 友達は……うん。


 だって話しかける勇気とかないし。

 それにこういうのってさ、コミュ障の僕にはハードルが高いと思うんだ。

 すでに形成されてる輪の中に入るなんて、とても出来ないよ。


 まあでも、1人は慣れてるから。

 前の学校では毎日一人で食べてたから。

 僕は平気。

 うん、平気。


 ……だけど、今日は違う。


 コトッ


「──冬木くん、一緒に食べようよ」

「……友達はいいの? 篠宮さん」


 僕なんかと食べるより、友達との方がいいと思うけど……


「いいんだよ。だって今日は冬木くんと食べる日だから」

「……そうなんだ」

「うわ~、冬木くんのお弁当っていつも美味しそうだよね」

「そうかな」

「豪華でいいな~。またお姉さんが作ってくれたのかな?」

「うん。うちの姉さん、料理が好きでさ。それで、僕が中学にあがった頃から週一で作ってくれてるんだ」


 まあ僕は半分、実験台みたいな感じだけど


「へえ~、今は高校生なんだっけ?」

「うん、高2だから来年受験生だね。僕たちもそうだけど」

「3歳差か……いいな~。私は一人っ子だから、年の離れたお姉さんとかに憧れちゃうな~」

「そんな、何も良いことばかりじゃないよ」


 篠宮さん、一日おきに僕のところにやってくる。

 月曜と水曜、金曜日は友達と食べて、間の火、木は僕と。

 僕の席に自分の席をくっつけて、向かい合うようにして食べるんだ。


 それでここだけの話、家族以外の人と一緒に食べるのは小学校の給食以来。

 だから個人的には少し食べずらい、かな。


「冬木くん? どうしたのかな? 私の顔にご飯とかついてたりする?」

「う、ううん。何でもない」

「ふ~ん。あっ、そういえば昨日のマジカルマリコがね〜──」



 篠宮さん、もう覚えてないのかな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る