第27話 『この三人が一番楽でいいんだわ』
その後も映像は続き、場面が切り替わるごとに砂嵐をはさみ、日常風景が流れ続けた。
砂場で遊んでいたり、二つあるブランコを取り合ったり。三人でお買い物に行ったり、悪い事をして怒られたりと。
子供の頃なら誰でも経験あるような光景が映し出され続けた。
また砂嵐が流れ、次の現れた映像は中学生くらいになっている三人。制服を着て、学校の廊下に溜まり答案用紙を見せ合いながら話していた。
『また
『そう言うお前は赤点ギリギリだな。三人で勉強したはずなんだが……』
『うるせぇよ!! 赤点じゃないならいいだろ!!』
『良くは、無いかな。もう少し頑張ろう
『そうそう。頑張ろうぜ、真陽留ちゃん』
『相想のはただ馬鹿にしてるだけだろ!!』
茶髪の男性が藍色の髪の男性を”相想”と呼び、頭を叩こうとした。だが、それを綺麗にするりと避け、舌を出し「ばーか」と言う。
喧嘩が始まりそうな雰囲気に、腰まで長い茶髪を揺らしながら、女性は慌てて止めようと手を振りあげた。
『ちょっと、喧嘩は駄目だって!!』
――――バチンッ!!
『『いってぇ!!』』
『あら、ごめんなさい。ふふっ』
喧嘩は駄目と言っている女性だが、流れるような動作で二人の背中を同時に叩く。思っていたより勢いが強く、一瞬驚きに目を開くが、すぐに控えめに笑った。
今まで流れていた光景を見て、明人はそっと口を開いた。
「これは、俺の過去──か?」
相想と呼ばれている男は、明人と似ている姿をしている。藍色の髪に漆黒の瞳。だが、両目ともしっかりと見えており、もちろん五芒星なども刻まれていない。
他の二人も名前は呼ばれていないが、見覚えはある。
茶髪で、相想とよく喧嘩をしているのは魔蛭。だが、制服の胸元についているネームプレートには
喧嘩している二人をいつも止めている女性は、夢の世界で見た神霧音禰とわかる。
三人は幼馴染で、ずっと一緒に居た。そう考えるしかない映像に、明人は腑に落ちたのか肩を落とす。
見続けていると、またしても砂嵐が映し出され画面が切り替わる。
今度の映像には私服姿の三人、遊びに出かけている場面が映し出された。
『まったく、なんで僕がお前の荷物まで持たねぇとならないんだよ!!』
『ジャンケン負けたからだろ』
『なんで僕はあの時グーを出してしまったんだ……』
怒りをぶつけた真陽留に、明人が一括。落胆する彼に、音禰は困り顔で手を差し出し『持とうか?』と聞いている。心配する彼女に、真陽留は肩をビクッと上げ頬を染めた。
『い、いやいや!! 大丈夫だ!! これくらい問題ない!!』
『そ、そう? なら、いいんだけど。でも、無理はしないでね?』
『安心するが良い音禰さん。こいつには荷物持ちがお似合いなのである』
相想が音禰の肩に腕を回し、自身の顎に手を持っていき無駄にかっこつけたように言う。それを、音禰はびっくりした顔で彼を見て『何言ってんのよ!!』と手を振りあげ怒ってしまった。
相想はそれを『おっと、怖い怖い』とすぐに離れ、殴られてたまるかと言うように余裕で逃げた。
音禰は笑う相想を見て、怒りながら頬を淡いピンクに染め、つられて笑う。
楽し気な二人に真陽留は混ざることなく、外側から無表情で見ていた。
何も言わなくなった彼を二人が不思議そうに振り返ると、すぐにいつもの表情に戻り『ふざけんなよ!!』と怒り出す。
二人の輪に入りながらも、真陽留の表情は微かに曇っている。無理やり笑い、湧き出て来る感情を押しつぶしていた。
「復讐……とか、違くねこれ」
明人は映し出されている光景から目を離さず、考えながらボソリと言葉を零す。二人の表情を見て何かを察し眉を顰め、ため息を吐いた。
その後も画面は切り替わり続ける。
三人で下校していたり、口喧嘩、テスト勉強。ほとんどの時間を三人で行動している。だが、その場面はどれも、真陽留は音禰に目を向けており、音禰も、相想に目を向けていた。
画面が切り替わり続け、次に映し出されたのは校舎裏。今回の光景には相想はおらず、真陽留と音禰が二人向かい合って立っていた。
『それ、本当?』
『う、うん。多分、意識なんてまったくされてないと思うけど。でも、伝えるだけ伝えようと思ったの』
音禰は顔を俯かせ、モジモジしながら言葉を繋げていた。それを、真陽留はなんともないような振る舞いをしながら受け答える。
『私、相想に告白する』
顔を上げて宣言する音禰の表情は、迷いがなく決心したような表情だった。その顔を見た真陽留は何も言う事が出来ず、拳を強く握った。
『だからね、えっと。真陽留、応援──してくれるかな?』
顔を赤くし、音禰は真陽留に微笑みながら問いかけた。彼の思いになんて全く気づいておらず、期待のまなざしを向ける。
輝くような目で見られた真陽留は、口角を上げ、短く答えた。
『うん。応援するよ、音禰』
『あ、ありがとう!!!』
真陽留の返答を聞き満面の笑みを浮かべる音禰に、笑みを消さずに彼は微笑み続けた。
相手に悟られないように、口元に手を置き俯く。不思議に思った音禰は、心配そうに顔を覗き込もうとした。
その時、予想外の人物が学校の曲がり角から姿を現し、酷く慌てた。
『っえ!? そそそそそ相想!? なななななな、なんでここに!?』
学校の曲がり角から姿を現したのは、怪訝そうな顔を浮かべた相想だった。
彼の姿を確認した瞬間、音禰は動揺が隠せず凄く焦ってしまい、それを真陽留は呆れたような表情で見ている。
二人を交互に見た相想は首を傾げ、問いかけた。
『何をそんなに焦ってんだ?』
先程の二人の会話は聞こえていない振る舞いに、二人は安堵の息を吐き『なんでもない』と伝えた。
『ところで、なんでお前はここにいんだよ』
『あ? あぁ……。うん、告られた』
『『ん?/へ?』』
相想から告げられた言葉に、音禰と真陽留は間抜けな声を出してしまった。
『え、じゃ、じゃぁ、相想は彼女持ち……?』
音禰は震える手を何とか抑え、不安げに問いかける。相想はなぜそんな事を言われたのか分からず首を傾げているが、勘違いを訂正するため端的に答えた。
『断ったけど?』
『え、そうなの?』
『おう。つーか、名前すら知らない』
『は?/へ?』
またしても相想の予想外の言葉に、二人は先程と同様に間抜け声を出してしまう。
『話したこともない女だったはずだぞ、知らん奴と付き合いたいとも思わんし断ったわ。それに、今は俺、この三人が一番楽でいいんだわ。彼女とか面倒くさそうだし、今のこの関係が結構気に入ってんだよ』
相想は含みのない笑みを浮かべながら二人に言い放つ。その言葉に、真陽留は戸惑い、音禰をちらっと見る。
音禰は最初、どう返答すればいいのか悩んでいたが、すぐにいつもの笑みを浮かべ『そっか』と答えた。
『とりあえず、早く教室戻んぞ。次の先生、遅刻にはくそうるせぇから』
『とか言って、サボる気じゃないでしょうね?』
『どうだろうなぁ〜』
相想の隣に駆け足で音禰は近寄り、その後ろ姿を真陽留はずっと見続けていた。すると、突然音禰が振り返り、悲しげな笑みを浮かべ口パクで『大丈夫だよ』と伝えた。
『…………そうかよ』
真陽留は握っている手を震わせ、二人と離れないように半歩後ろを歩く。
そこでまたしても光景が切り替わる。今度映し出されたのは、誰かの家の中で、音禰が涙を流しながら笑みを浮かべている姿と、顔を俯かせ隣に座る真陽留の姿だった。
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