第8話

長かった1日が終わり一人暮らしをしている家に帰宅する。


入学式の2日前に越してきたばかりなのでまだ部屋の中は片付いていない。


お隣さんに挨拶しようと思ったが、引っ越しの日は不在で挨拶出来なかったのである。


『今ならいるかな?』


手土産を持ち隣の部屋のインターホンを押す。


ー ピンポーン ー


暫くして足音が聞こえてくる。


「はーい。今出まーす。」


若い男性の声が聞こえた。


『初めまして!最近隣に引っ越してきました。東雲 凛と申します!


近くの音大に通ってて、楽器の音とかうるさいかもなので・・・。


これからどうぞよろしくお願いします。こちらつまらないものですが。』


「これはどうも。僕はこの部屋の住人で速水 俊(はやみ すぐる)といいます。音楽関係の仕事してるからそういうのわかるし、全然気にしなくて大丈夫ですよ。」


『音楽関係の方なんですか!!偶然ですね!ご理解頂けるなんて思ってもなかったので嬉しいです!』


「ははっ(笑)元気でいいね。困ったことがあればいつでも言ってね。」


『はい!よろしくお願いします!』


・・・まさか高身長イケメンがお隣さんだなんて聞いてない。


速水さんへの挨拶が済み、自分の部屋に戻る。


ちなみに反対側の人は今日も不在だった。


『はぁ~、緊張したー!あんなイケメンがお隣だなんて。これからは物音とか気を付けないと。』


引っ越しの片づけを再開する。


『あ、これ・・・。』


段ボールの中から縦長の箱が出てくる。


『懐かしいな・・・。もう一年か・・・。恭平元気にしてるかな・・・。』


中身を手に取りベランダに出る。


『ちょっと寒いかな』


春とはいえ、少し肌寒い。


ネックレスを空に浮かぶ月にかざす。


『この五線譜に君への想い綴る時 君は何を見ているのだろう———』


~♪


この曲はあの頃の恭平に向けて私が書いた曲。


タイトルはついていない。


誰に聴かせる為でもなくただ歌う。


…それを聴いてる人がいるとも知らずに…。

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