伯爵夫人の秘密の占いサロン
lager
シャンデリアが今日も眩しい
「母様。そのようなことは今考えたところでどうしようもないでしょう」
「そうはいってもねえ」
シャンデリアが今日も眩しい。
巨人の王冠のような形をしたそれは、その紋様一つ一つを目で追うだけで日が暮れてしまいそうなほど複雑に組み上げられ、いくつもの先端にロウソク立てが取り付けられている。朝方だから火は灯していないけれど、煌びやかな装飾はそれだけで輝きを発しているようだ。
あんなにたくさんロウソクを使うなんて、と最初見たときは光熱費のことを心配してしまった私だけど、そりゃあ木っ端貴族の実家基準で考えても仕方がない。
なにせ今私のいるこのお屋敷は、古くより国の司法を代々請け負うムウマ伯爵家御当主様の邸宅なのだから。
「だって、前まではあんなに楽しそうにお茶会に来てくれたのよ? それなのに先月急に行けなくなりました、って」
「何か事情があったのでしょう」
「それなら、どうしてそれを教えてくれないのかしら」
「それを私に聞かれても答えようがありません。直接お聞きすればよろしいでしょう?」
「でもねえ……」
麗しいブロンドを陽光に輝かせ、アイスブルーの瞳を細めて渋面を作っているのが、当代ムウマ伯爵家当主、フィオ=ムウマ様。
はあ。何度見てもキレイなお顔。声も渋い。椅子に座っていてもビシッッとした姿勢がカッコいい。文句なしの貴公子だわ。
対して、同じく麗しいブロンドをボリュームたっぷりに結い上げ、可愛らしく小首を傾げたご婦人が、先代御当主様の奥様であり、フィオ様のお母様であられるビスク様。
姉です、と言われても信じてしまいそうなほど若々しい、フィオ様にそっくりの美顔と、年齢相応の艶やかさを併せ持つ社交界きっての美魔女だ。
まあ、社交界なんて、私にとってはほんの少し前まで雲上の世界だったのだけれど。
それなのに……。
「そうだわ。ねえ、メオさん。また、お願いしてもいいかしら」
「母様!」
お二人の放つ光のオーラの前に消え入りそうになりながら、目立たぬようにちょぼちょぼとパンをちぎって食べていた私に、アイスブルーの瞳が視線を寄こす。
その雲上の世界の住人が、なぜ私のような貧乏男爵家の次女と朝餉を共にしているのかというと、言ってしまえば単純で、しかしその背景は非常に複雑な理由があったりするのだが。
「午前は習い事がおありでしょう? アフタヌーンティーのときにでも、お邪魔させてもらおうかしら」
「は、はい……」
さしあたっての問題は二つ。
ビスク様が、私が趣味程度に嗜んでいたカード占いを思いのほか気に入ってしまわれたこと。
そして、私の旦那様であるフィオ様が、大の占い嫌いであったことである。
「…………」
ああ、麗しいご尊顔が、今日も私に忌々しそうな目を向ける……。
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