第126話 剣鬼VS剣姫

 

「それでは、剣鬼カレン・イーグルVS剣姫アン・グラスホッパーとの決勝戦を開始する!」


 グロリア先生の号令により、カララム王国学園剣術祭の決勝戦が始まった。


 2人とも、闘気を漲らせ、一歩も動かずに睨み合っている。


 いつも一緒に行動してる2人なので、お互い手の内を知り尽くしてるのだ。


 2人の剣先は、ピクリとも動かない。


「2人とも、中々やるな」


 観客席で見守る、大戦の英雄エドソンが感心してる。

 2人の実力は、どうやら、エドソンが認めるレベルまで上がってるようだ。


「アン姉ちゃん……暫く見ない間に、物凄く強くなったよね。ここに来る前は、もう、アン姉ちゃんを越えたかなと思ってたけど、まだまだだったみたい」


 コナンも、凄くなったアン姉ちゃんに驚いている。

 というか、コナンは、既にアン姉ちゃんを抜いた気になってたのか。


 まあ、俺も、夏休みに、エドソンと剣の練習をしてたコナンを見て、そろそろアン姉ちゃんを越えるかなと思ってたけど、アン姉ちゃんは、カララムダンジョン完全攻略を経て、有り得ないほどパワーアップしていたのである。


 そう。普通の生活をしてるだけで、耐性がない子供や老人を失神させてしまう程に。

 何処ぞの、世紀末覇王や、覇王色が使える、少年漫画の主人公なみの強さを、現実に手に入れてしまってたのである。


『なんか、凄いですね! 空気がピリピリしてますね!』


 俺は、カレン達の真似をして、上空から試合を眺めている。

 聖剣ムラサメさえ持ってたら、空を飛ぶことなど簡単なのだ。

 だって、俺の貧乏揺すり、みじん切りスキルLv.3を持つコナンより速いのだから。


「ああ。防護強化ガラスの内側にいなければ、感じられない緊張感だよな!」


『アッ! カレンさんが動きましたよ!』


「まあまあの速さだな」


 ヨナン的には、スローモーションの世界なのだが、

 一般観客にとっては、神速のレベル。


 カレンとアン姉ちゃんは、5回ほど斬りあったのだが、早過ぎて誰も気付いてない。

 何故か分からないが、2人とも斬り合いが終わると、元の位置に戻って、ピクリと動かないから。


 ただ1人盛り上がってるのは、その動きを完璧に目で追えてたコナンただ1人。

 勿論、エドソンやエリザベスも見えてると思うが、大人なので、コナンみたいにはしゃいでいない。


「すげえーぜ!アン姉ちゃんと、カレン姉ちゃん!」


 とか言う、コナンは、カレンやアン姉ちゃんより、速く動く事が出来るんだけど。

 コナンは、多分、今現在、聖剣ムラサメを持った俺の次に、速い人類だと断言出来るし。


 俺の弟は、凄いんです!


『見た感じ、スピードはカレンさん。パワーはアンさんの方が上に見えますね!』


 鑑定スキルが、カレンとアン姉ちゃんの動きを見て解説する。


「だな。カレンは、素早さLv.1を持ってるからな!素早さLv.1を持ってる分速いんじゃないのか?

 そして、アン姉ちゃんは、攻撃力Lv.2を持ってるから、半端ない力持ちという事か……」


『ですね。センスとスピードは、完全にカレンさんが上回ってますが、それを補う余りあるパワーで、アンさんは、カレンさんと同等の実力まで押し上げてます!』


 確かに、アン姉ちゃんは、カレン程の剣技は無い。アン姉ちゃんが持ってるのは、剣術スキルLv.1なのに対して、カレンは、剣術スキルLv.2を要してるのだ。


 カレンの剣は華麗だが、アン姉ちゃんの剣は愚直。

 カレンが天才なら、アン姉ちゃんは、努力の人。

 単純で愚鈍な所が、きっとエドソンに似たのだろう。


 エドソンって、とても要領悪いし、そもそも貴族社会に対応出来てないし。

 エリザベスが表舞台に出て対応してなかったら、今回の人生も、前回の人生同様、きっと、落ちぶれてしまってたと思うし。


 そんな、誰よりもエドソンに似たアン姉ちゃんの剣は、誰よりも重いのだ。

 元々のスキルの力だけじゃない。愚鈍に修行を続けて、何倍にも、威力を増している。


『アッ! 今度は、アンさんから攻撃を仕掛けましたよ!』


 アン姉ちゃんによる、カレンへの連撃。

 その重過ぎる攻撃に、カレンが受止めきれなくて、途中から、身をかわして避け始める。


 ズドン! ズドン!


 床は、アダマンタイトミスリル合金で作った、頑丈な床だというのに、ボコボコに陥没してしまっている。


『ご主人様! アンさんの木刀、どうなってるんですか! 何で、木刀で、アダマンタイトミスリル合金の床を破壊出来るんですか!』


「まあ、アン姉ちゃんだからな……」


 俺は、アン姉ちゃんだからとしか言えない。

 だって、アン姉ちゃんは、普通に剣の握り方を教えるだけで、弟の指の骨を折ってしまう女なのだ。


 元々が、規格外。でもって、誰よりも不器用なのでタチが悪い。


 同じ、身体強化Lv.3を持ってる、ビクトリア婆ちゃんや、エリザベスや、カレンや、カトリーヌは、みんなどちらかと言うと器用なのだ。

 だというのに、アン姉ちゃんは、エドソンに似て不器用なのである。


 まあ、エドソンは不器用と言っても、生き方が不器用なだけで、こと、剣術に関しては器用な方なんだけど、何故か知らないが、アン姉ちゃんだけは、生き方も、剣術の腕も全て不器用だったりする。


 まあ、それを真面目過ぎる性格で、全て補ってしまうのが凄い所なんだけど。


『どっちが勝つんでしょう?』


 鑑定スキルが、聞いてくる。


「分からん!」


 スピードと剣技なら、カレン。パワーならアン姉ちゃん。しかし、どちらが勝つかと言われても、全く想像がつかない。


『どっちに勝って欲しいですか?』


 なんか、鑑定スキルが、いつにも増してグイグイ聞いてくる。


「そんなの、どっちもだよ!カレンもアン姉ちゃんも、俺はどっちも好きなの!」


『ご主人様、欲張りですね』


 鑑定スキルの奴、俺から何を聞き出したいんだ?だがしかし、鑑定スキルは勘違いしてる。


「アホか、カレンは兎も角、アン姉ちゃんは、俺の姉貴だ!」


 そう。アン姉ちゃんは、俺の姉ちゃんで、アン姉ちゃんも、俺の事を弟として接しているのである。


『だけれども、シスちゃんとは、既に婚約してるでしょ? アンさんとも婚約しちゃえばいいじゃないですか?

 きっと、エリザベスさんもOKしてくれると思いますよ!

 イーグル辺境伯の血筋の人達は、旦那が強くて甲斐性さえあれば、重婚も全然、許してくれますから!』


「アン姉ちゃんの気持ちもあるだろ! アン姉ちゃんは、俺の事を弟としか、思ってねーよ!」


『だけど、アンさんの事も、好きなんですよね?』


「しょうがねーだろ! そもそも好みの顔なんだから!」


『大変ですよね。ご主人様も。好みの顔の人がたくさん居て、それにしても、何でイーグル辺境伯の血筋って、女の人に色濃くでるんでしょうか?』


「まあ、やっぱり、男受けする顔になる血筋なんじゃないのか?

 先祖代々、強くて甲斐性がある男の血を引き入れて来たんだから。

 男受けする女じゃなかったら、そんなに都合良く、強くて甲斐性がある男と結婚出来ないだろ?」


『成程……だから、学園でも、カレンさんとアンさんって、あんなに人気があるんですね!』


 なんか知らんが、鑑定スキルは、物凄く納得したようだった。

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