第68話 億万長者

 

 ヨナン達が、カララム王都に行ってから、グラスホッパー商会の建設ラッシュが続く。


 カララム王都店を皮切りに、これまで手付かずだった、北と西と南の大都市に次々と、グラスホッパー商会を建てて行く。

 流通網も完全に整備し、夏になる頃には、トップバリュー商会を越えて、名実共に、カララム王都No.1の大商会となったのだった。


「ついに、やったわね!」


 エリザベスが、ヨナンの手を取り嬉しそうにヨナンの手を握り潰す。

 完全に、嬉しさのあまり力の加減が分からなくなってるようだ。


「これで、少しはアスカにザマーできたか?」


 ヨナンは痛みを我慢しつつ、エリザベスに確認を取る。


「そうね!50パーセントはザマー出来てると思うわ!

 後は、徹底的にアスカ個人にザマーすれば完璧よ!

 ヨナン君は、来年の春には、アスカと同じカララム王国学園の1年生になるんだから、そこからはヨナン君が頑張って、私の分までザマーしてね!

 あの女だけは、絶対に許さないんだから!

 私のエドソンと、息子達を殺したにっくき、売女。けっちょんけちょんにザマーしてやるのよ!」


 やはり、エリザベスが、グラスホッパー商会を大きくしたかったモチベーションは、アスカへの恨みが大きかったようだ。


 現在でも、トップバリュー商会からの嫌がらせが続いてるが、エリザベスがことごとく潰していっている。


 最近では、グラスホッパー商会の流通網を潰そうと、グラスホッパー商会の流通の要であるキャンピングキッチントレーラー荷馬車を狙って攻撃を仕掛けてたようだが、事前にハヤブサがどのルートを走る荷馬車を襲うのか調べて、逆に返り討ちにしたりしてるそうである。


 それにより、トップバリュー商会の暗部は殆ど壊滅状態。逆に今では、ハヤブサが組織したグラスホッパー商会の忍者部隊が、裏社会の顔になってたりする。


 そして、ヨナンは今や、誰もが認める総合商社グラスホッパー商会の会長。

 何もしなくても商会は回っていき、ヨナンは、カララム王国学園入学前のお子様にして、金も名誉も全て手に入れたのであった。


 ーーー


「何もしなくていいって、最高だな……」


「そうだね。お兄ちゃん」


 そう、もう、コナンもシスも子供なのに働かなくていいのだ。

 何故なら、コナンもシスも、大企業グラスホッパー商会の取締役だから。

 パリピのような生活をしてても、誰も文句は言わない。


 本当に、つい最近まで、石焼き芋を徹夜で売ってたとは思えない躍進である。


 基本、ヨナンは、グラスホッパー男爵家にあるグラスホッパー商会の慰安施設である温泉SPAでゴロゴロする生活。

 大体、いつも何故かシスも一緒に居る。


「温泉SPA最高!!」


 というか、温泉SPAで寝泊まりしたら、家要らないし。


 そう、現在、ヨナンには、領地も家もないのである。

 ヨナンは、グラスホッパー男爵家から独立して、今や、一国一城の城主であるグラスホッパー準男爵家の領主。ではなくて、ただのグラスホッパー準男爵なのだ。

 何故なら、王様から領地を貰ってないから。

 所謂、法衣貴族という奴らしい。


「この歳で、ホテル暮らしって格好よくない?」


『ご主人様、自堕落な生活してたら駄目ですよ!』


 鑑定スキルが嗜めてくる。


「だって、やる事ないし」


 そう。今のヨナンには、本当にやる事ないのである。

 つい1週間前までは、全国回って徹夜の建設ラッシュだったのだが、それが終わったらお払い箱。

 後は、エリザベスとセバスチャンとビクトリア婆ちゃんが、全部やってくれる。

 俺やコナンやシスは、本来子供なので、遊ぶのが仕事だと言われて、今の状態。


 コナンは、エドソンと毎日飽きずに剣の稽古してるし、俺と遊んでくれるのは、シスと、後はエリスぐらい。

 まあ、エリスはいつもクールビューティーなので、一緒に遊んでても楽しくないんだよね。

 トランプやっても、ポーカーフェイスで顔に出ないので、絶対に勝てないし。


「本当に、ワーカホリックの俺に遊べとか、ふざけてんのか!」


『勉強すれば、いいんじゃないですか?』


 鑑定スキルが、一々指摘する。


「アホか! 勉強てのは、良い企業に入って金を稼ぐ為にするもんなんだよ!

 既に、億万長者の俺は、勉強なんてする必要ねーの!」


『じゃあ、旅行するとか?』


「旅行って、1週間前まで、全国駆けずり回ってただろうが! もう、俺はここから一歩も動きたくないんだよ!」


『我儘ですね』


「なんか、面白い事ないのかよ?」


『暇つぶしに、自分の家でも建てたらいいんじゃないですか?

 折角、大工スキル持ってるんですから、たまには自分の為に、スキルを活かしてみたらいいんじゃないですかね?』


「まあ、確かに家は必要だよな……俺って一応、貴族だし、パーティーとか催さないといけない場面に遭遇するかもしれんしな……というか、家がないと手紙も届かない気が……」


『ですね。貴族なのに家がないのって、多分、ご主人様ぐらいですよ!』


 鑑定スキルが、痛いとこついてくる。


「やたらと、全国にグラスホッパー商会所有のホテルがあったから気付かなかった。

 どこに行っても、普通に寝る場所あったし……」


『で、どこに建てるんですか?』


「う~ん……ヤッパリ王都?来年から、カララム王国学園に入学しなきゃならんし、王都に家がある方が、何かと便利かもしれんし……」


『じゃあ、今から王都に行きます?』


「だな!」


 てな感じで、ヨナンは、王都に家を建てる決心をしたのだった。

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