第60話 グラスホッパー商会グリズリー支店
兎に角、イーグル辺境伯家の血を引いている、ビクトリア、エリザベス、カレン、シスは、結構、イケイケである。全く、冒険を恐れない。
多分、グラスホッパー家の長女で、一つ年上のアンと、グリズリー公爵令嬢の俺と同じ歳のカトリーヌも、芯の部分は同じだろう。
アン姉ちゃん、結構、気が強いし。
なんか知らないけど、軟弱な俺を鍛えるとか言って、結構、ボコボコにされてたし。
今思えば、酷い女だと思ったのだけど、ただの弟思いの熱い姉ちゃんだったかもしれない。
まあ、本人は多分、ユニースキルの事知らないけど、確実に、身体強化Lv.2以上は持ってる筈だ。
じゃなければ、俺は、剣の握り方を教えて貰っただけで、指を3本骨折なんてしない筈だし。
その時は、「軟弱者め!」とか、言われたけど、多分、アン姉ちゃんは、優しく弟に、剣の正しい握り方を教えたかっただけかもしれない。
兎に角、ちょっとした一撃、一撃が強烈過ぎて、俺は剣士になる夢を諦めた程だ。剣士Lv.1で、このレベル?しかも、女で、子供なのに……俺は、あまりの実力差に、あの時、人生初めてスキル差の違いを改めて思い知らされたのだった。
まあ、今思えば、イーグル辺境伯の血筋の身体強化スキルのせいだったんだけどね。
あんなのが剣術Lv.1だったら、みんな英雄になれるって!
兎に角、グラスホッパー家の実力が高過ぎて、俺は、勘違いしてたのである。
まあ、アン姉ちゃんが、冷たいコンクリートのように固い土の中から男爵芋を掘れと言われたとしたら、余裕に掘れると思うしね。
ーーー
2日後、ある程度の商品が、グラスホッパー領から届き、ヨナンは有無を言わさずグリズリー公爵領に連れてかれる。
まだ、グラスホッパー商会イーグル支店を立ち上げたばかりだから、セバスチャンさんとコナンとシスは、イーグル支店に置いて行く事となった。
グリズリー領に行くのは、俺とエリザベスとグリズリー公爵と、ビクトリア婆ちゃんと、それからエリスの5人。
ちょっと、教育係のセバスチャンさんが居ないのが心配だが、グリズリー公爵家には、セバスチャンさんの教えを受けた執事やメイドがたくさん居るとの事で、その人達を暫くの間、グラスホッパー商会グリズリー支店に貸してくれる事で話はついた。
というか、俺がグリズリー領に着いたらその日のうちに、箱物を建築し、営業まで始めると、何故かビクトリア婆ちゃんが張り切っている。
俺の記憶の映像を見て、3時間で箱物はできるだろうと、勝手に試算したらしい。
やはり、親子。エリザベスの商才は、完全にビクトリア婆ちゃんの遺伝である。
ーーー
「それじゃあ、ここに建てちゃって!」
グリズリー領の領都グリズリーに到着すると、ビクトリア婆ちゃんは軽い感じで言ってくる。
まあ、材料のストックがあるから余裕なんだけど。
今回は、城塞都市じゃないので、城壁を拡張しないでよいし。
でもって、相当鑑定スキルと仲良くなっているビクトリア婆ちゃんは、日本の温泉旅館に憧れたらしく、グラスホッパー商会・グリズリー支店は、完全に和風。
感じとしては、遊郭をイメージしてるらしく、朱色を多く使っている。そして、それ以外の柱は黒色の総漆塗り。
もう、全ての柱が黒光りし、部屋の壁とかの鮮やかな朱色が怪しく彩る。花魁が、部屋でキセルを吸ってる感じだ。
どうやら、ビクトリア婆ちゃんは、観光領都を目指してるらしく、王都からの観光客をたくさん誘致したいみたい。
多分、王都にグラスホッパー商会が出来てしまったら、確実に、隣の領である王都支店の方に客が流れる。
それを回避する為に、最初から観光領都を目指し、他の支店より、観光に重きを置いて、豪華な日本風の温泉旅館を建設する事に決めたようだ。
流石は、エリザベスの母ちゃん。商売上手である。
そして、俺はビクトリア婆ちゃんに、従業員に着させる和服と、温泉旅館に来る観光客用の浴衣作りを依頼された。
日本人でも無いのに、鑑定スキルの協力を得て、トコトン日本の温泉旅館の完成系を目指すビクトリア婆ちゃん。もう、ハッキリ言って意味が分からない。
これって、異世界転生者の俺が、日本の知識を使って俺スゲーする展開なのだが、変わりに、ビクトリア婆ちゃんの方が、勝手に日本の知識を使って私スゲーしちゃってる感じ。
まあ、俺が努力しなくていいから、滅茶苦茶省エネなんだけど。
多分、これがストレスフリーと言う奴だろう。
でもって、ビクトリア婆ちゃん自身も和服を着ると、完全に、日本の旅館の女将になりきってしまってる。
金髪碧眼なので、日本旅館に嫁いだ外国人みたいな感じ。
従業員も、元々、公爵家で仕えてた執事やメイドばかりなので、ビクトリア婆ちゃんの命令に忠実。
そして、グリズリー公爵は、そんなビクトリア婆ちゃんを見てるだけ。
完全にグラスホッパー男爵家のエドソンと同じ構図である。
どんだけ、グリズリー辺境伯の血筋の者は商売好きなんだろう。
俺は、箱物を建てただけなのに、ビクトリア婆ちゃんは、その日のうちから営業を始めてしまったのだ。
「ヨナンちゃんは、料理長をお願いするわ!そして、公爵家の料理人に日本料理を教えてあげて!」
ビクトリア婆ちゃんは、孫使いが荒い。
まあ、エリザベスと一緒なんだけど。
「俺が料理なんか作っていのか?
大工スキルを持つ俺が作ったら、とんでもない美味しい料理が出来てしまうし……」
「最初は、近隣貴族の為のプレオープンだから大丈夫よ。
そもそも、この国の住人は日本料理の味なんか知らないしね!」
それでいいのか?ビクトリア婆ちゃん……。
まあ、ビクトリア婆ちゃんは、ロードグラスホッパーホテル・グリズリー支店の全権支配人なので、全て任せちゃうんだけど。
だけれども、俺は日本人。なんでも拘っちゃう。やはり、日本料理を作るなら、日本の料理道具が必要なのだ。
でもって、ここの料理人の為に、最高の料理道具を作ってやる。
「これは刺身包丁! 刺身は、引いて切るんだ!」
しかも、真面目な日本人だから、使い方もしっかり教えるし、仕事にも全く手を抜かないで、徹底的に、弟子に日本料理の基礎を叩き込む。
まあ、元々、セバスチャンの教え子なので覚えが早いんだけど。
1週間程、日本料理のイロハを教え込んだら、いつの間にか、自分の頭で考えて、創作日本料理を作れる腕までに成長したのだった。
「もう、俺が教える事は何もない。免許皆伝だ!」
こうして、グラスホッパー商会グリズリー支店と、ロードグラスホッパーホテル・グリズリー和旅館は、軌道にのったのだった。
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