第58話 ワイン品評会

 

 ヨナンが、カララム王から準男爵の爵位を授与して直ぐに、イーグル辺境伯領の新たな寄子である、グラスホッパー男爵家、それと、急遽、寄子になったグラスホッパー準男爵家のお披露目パーティー兼、ワイン品評会が始まった。


 まず、最初に、グラスホッパー騎士爵が、男爵家になっていた事にみんな驚き、逆に、ヨナンがグラスホッパー準男爵の爵位を貰った事には、一人も驚く者はいなかった。


 だって、歳が若返るドラゴン肉を取ってきた張本人だし、ドラゴン肉をタダで振舞った事が、これ即ち、強烈なワイロにもなっていたのである。


 もう、既に、このワイン品評会に参加した貴族の中に、ヨナン・グラスホッパーを批判できる者など一人も存在しないのだ。


 もし居たとしたら、みんなに白い目で見られて、吊し上げにされるのは目に見えてるし、昨日、ドラゴン肉を食べて、蘇る金狼になった結構偉い侯爵の爺さんなんかは、ヨナンに会うと、昨日、久しぶりに嫁さんとハッスルできたと、喜んでいたしね!


 ーーー


「それでは、試飲会を始める!」


 主催者である、イーグル辺境伯の号令で、ワインの品評会が始まる。


 それぞれ名前を伏せられたワインを、ソムリエの資格を擁してる10人の貴族と、特別審査員として、カララム王と、元『熊の鉄槌』の酒豪の称号を持つゴンザレスが、審査を受け持つ事となった。


 勿論、他のゲストの貴族達も自由にワインを飲む事ができ、何番のワインが美味しかった!いや、私は、何番がいいとか! 今回は、ロードグラスホッパーホテル・イーグル支店が用意したケータリングを食べながら、飲み比べして、それぞれ自由気ままに批評できるフランクな感じのワイン品評会になっている。


 そして、その中で、絶大な人気を博してるワインが3つ。

 名前は完全に伏せられてるが、イーグル辺境伯がシャトーを保有してる、シャトー・ロードイーグル1965と、グリズリー公爵家がシャトーを保有してる、シャトー・ロードグリズリー1965、そして、グラスホッパー商会が出品してる、シャトー・ロードグラスホッパー1965の3つである。


 まあ、残念ながら、昨日、振舞ってしまった(仮名)シャトー・ロードカララム1965は、1本も在庫が無くなってしまったので、出品できなかったのはお約束。


「それでは審査を始めます!1番美味しかったと思う番号札を、審査員の方々は上げて下さい!」


 進行係の合図で、審査員が一番美味しいと思うワインの番号を一斉に上げる。


「5番、5番、5番、5番! 満場一致で、5番のワイン! 原産グラスホッパー領、グラスホッパー商会所有、シャトー・ロードグラスホッパー1965が、満場一致で、1位となりました!」


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチ!


「ブラボー! ブラボー!」


 進行係のが宣言すると、盛大な拍手と賞賛が会場内にこだまする。


「それでは、審査員の感想は後にして、次に美味しいと思われるワインを、審査員は選んで下さい!」


 再び、審査員は、番号札を上げる。


「これは2つに別れましたね。11番が5票、21番が7票!

 よってワイン品評会第2位のワインは、原産地グラスホッパー領、グリズリー公爵家がシャトーを保有する、シャトー・ロードグリズリー!

 そして、第3位は、同じく原産地グラスホッパー領、イーグル辺境伯がシャトーを保有する、シャトー・ロードイーグルとなりました!

 盛大な拍手を!」


 ワアァァァァーー! ブラボー! ブラボー!


 原産グラスホッパー領のワインが1位、2位、3位を独占して、会場は沸きに沸き、

 グラスホッパー領こそが、世界で一番のワイン産地と印象つけられる事となった。


 この後引き続き、ワインの品評会が行われたが、イマイチ盛り上がらない。


 もう、みんなグラスホッパー原産のワインの話で盛り上がっている。


 シャトー・ロードグラスホッパーはどうとか、シャトー・ロードグリズリーはどうかとか、シャトー・ロードイーグルはどうのとか、そして、毎回、人々の話に上がるのは、昨日のレッドドラゴン討伐記念パーティーで出された、グラスホッパー産の名前が伏せられていたワイン。今回は、出品されなかったが、もし、出品されてたらどうなっていたかという話。


 なんか、もう、その他のワインなど、みんな興味がなくなり、(仮名)シャトー・ロードカララムの話で、みんな話が盛り上がる。


 そして、今日到着して、昨日のレッドドラゴン討伐記念パーティーに参加してないワイン好きな貴族などは、是非飲んでみたいとか、どうすれば飲めるんだと騒ぎだし、もう、ワイン品評会など自然にお開きになってしまい、審査員まで、グラスホッパー産の幻のワインの話で持ち切り。

 なんか、いつの間にか、今日出品されなかった事より、尾ひれが、どんどんついて来て、(仮名)シャトー・ロードカララム1965が、幻の伝説のワインだと言われるようになり、結局、あまりの議論が白熱し、どこぞのワイン好きの大貴族も、グラスホッパー商会に、シャトーを売ってくれと大騒ぎ。


 結局、一口も飲んだ事のない、カララム王の、


「ワシが買う!」


 の、一言で、やっと騒動が収まったほどだった。


 まあ、こんな感じで、結局は、カララム王家がシャトーを買い取ってくれる事が決定し、無事、(仮名)が外れて、シャトー・ロードカララムが誕生したのであった。

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