第56話 レッドドラゴン討伐記念パーティー

 

 なんか、ヨナンがレッドドラゴンの鱗と尻尾を持ち帰った事が、想像以上の大騒ぎになってしまい、ドラゴンの鱗や尻尾を売ってくれやら、武勇伝を聞かせてくれやら完全に収拾がつかなくなってしまい、急遽、ロードグラスホッパー・イーグル支店で、レッドドラゴン討伐記念パーティーが行われる運びになってしまった。


「ヨナン君! これは商機よ! この機会を活かして、グラスホッパー商会の商品、ひいては、グラスホッパー領を宣伝するチャンスよ!」


 エリザベスが、相当ヤル気になっている。

 そして、シャトー・ロードグラスホッパー1965と一緒に、明日のワイン品評会に出す予定だった(仮名)シャトー・ロードカララム在庫の500本を、このレッドドラゴン討伐記念パーティーで消費する決断までしてしまった。


 そして、パーティーが始まり、司会進行のエリザベスが喋り出す。


「皆様、レッドドラゴン討伐記念パーティーにお集まりありがとうございます。

 この度、我が息子、ヨナン・グラスホッパーが、討伐したレッドドラゴンの尻尾のステーキ200グラムをメインに、我がシャトー・ロードグラスホッパーホテルの腕利きの料理人が、グラスホッパー領で取れた高級な野菜や果物をふんだんに使った料理をお届けいたします!

 そして、明日の品評会で出す予定だった、グラスホッパー領のシャトーで生産した美味しいワインも用意しておりますので、どうぞ、そちらも御堪能下さりますよう、宜しくお願い致します!」


 エリザベスが、グラスホッパー商会広報として、グラスホッパー商会と、グラスホッパー領の宣伝もする。


「おい……あれって、グリズリー公爵令嬢のエリザベス様じゃないか?」


「えっ? 嘘? あの行方不明だったエリザベス様?」


「いや、間違いない。あれはエリザベス様だ。まさか、大戦の英雄エドソン・グラスホッパーと結婚してたなんて、本当に驚きだ」


 エリザベスの突然の登場に、会場の貴族達は相当驚いている。


「それにしても、神獣ドラゴンの肉を食べれるのか?

 話によると、ドラゴンの肉を食べると10年若返るらしいぞ!」


「私も、それは聞いた事がある。それから、抜けた髪が、また延びたとか、伝説は幾らでもあるぞ!」


「なんと、10歳若返るというのは、真実か!

 もしかした、数年前に勃起不全になってしまったワシの一物も、蘇る金狼になるというのか!」


「200年前に、ドラゴンの肉が出回った時は、サイコロステーキ1つ分で、1億マーブルしたと聞いた事がある」


「なんと、その肉のステーキを200グラムも大盤振る舞いするだと?!

 売れば、巨万の富を手に入れれるというのに……グラスホッパー商会……恐るべし……」


 もう、なんかヨナンの武勇伝より、みんなドラゴンの肉を食べれる事の方に興奮してしまっている。


「それでは、ヨナン・グラスホッパー、レッドドラゴン討伐記念ディナーをお楽しみ下さいませ」


 もう、ここまでくると、ヨナンの武勇伝など、誰も聞きにこない。

 全ての貴族は、いつレッドドラゴンのステーキ肉200グラムが出てくるのかソワソワしている。


 そして、ワインに頼んだ者のみに、(仮名)シャトー・ロードカララム1965が、グラスに注ぎ込まれる。


「ん!? なんなんだ……このワインは!?」


(仮名)シャトー・ロードカララムを飲んだ者達が、次々に驚愕し出す。


「味は力強いのだがエレガント。酸味と渋みが絶妙な繊細なバランスで調和している。

 シャトー・カララム当たり年のシャトー・カララム925と似ているか?

 しかし、これはシャトー・カララム925を越える味わい……

 まさか、ワイン品評会でもない場所で、明日の品評会で出品すれば、必ず1位を取れるであろうポテンシャルのワインを飲めてしまうだなんて……こんな美味いワインを飲めるだなんて、我が人生に一点も悔い無し!」


 なんか、ワイン通のオッサンが、ワイングラスを天に掲げ、感激したのか涙を流し、ワイン余韻に浸っている。


 というか、色んなテーブルで、涙を流す、オッサンやオバサンがワラワラ現れている。


 流石は、地球でも5大シャトー筆頭と呼ばれるシャトーラフィット・ロートシルトと味が同じで、それを、2倍美味しくしたワインである。

 この世界のワイン通を唸らせるポテンシャルを十分にもっていたようだ。


 ドラゴンステーキに浮かれて、ワインを飲んで居なかった者達も、次々にワインを頼みだす。

 どうやら、グラスホッパー領原産のワインの評判は、上々であるようだ。


「前菜は、甘くて美味しいと評判のグラスホッパー領原産の果物の生ハム包みです。手前から時計回りに、柿の生ハム包み。イチジクの生ハム包み。桃の生ハム包み。メロンの生ハム包みになっております」


 超絶美味いワインを味わってた、上級貴族が柿の生ハム包みを口に運ぶ。


「こ……これは……」


 カラン!


 上級貴族は、思わず、柿の生ハム包みを口に入れた後、フォークを落としてしまう。


「甘くて、美味しい……。

 生ハムで果実を包むなんて、何を馬鹿げた事をやっておるのかと思っていたが、食べた事もないとても甘い果物が、少し塩辛い生ハムに包まれて、その果物の甘さが、より強調されておる……私は、こんな甘くて美味しく、尚且つ、ワインのお供になる前菜も、果物も食べた事ないぞーー!」


 高級なホテルのディナーだというのに、絶叫するのはどうかと思うが、なんか他の貴族もやたらと叫ぶので、このディナーでは有りという事なのだろう。


 そして、グラスホッパー領の食材を使った新たな料理が出る度に、貴族達が吠えるという、なんかよく分からなくなってきたヨナン・グラスホッパー、レッドドラゴン討伐パーティーのメインディッシュ、ドラゴンステーキ200グラムが、遂に登場した。


「皆様、大変長らくお待たせしました。こちらがドラゴンステーキでございます!

 しかし、ご注意して下さいませ!

 このドラゴンステーキを食べてしまうと、ご覧のように10歳若返ってしまいます!」


 何故か、少し薄暗くなっていた会場で、突然、エリザベスにスポットライトが当たる。


「なんと……つい先程より、若返っている……」


 ディナーに参加してる貴族達が、エリザベスを見て驚愕してる。

 だって、30代後半だったエリザベスが、どう考えても若返ってるのだ。20代後半?いや、20歳前半位に若返っている。


「先程、味見してみたのですが、この通り。しかし、伝承によるとドラゴン肉の若返り効果は1度のみ。良く考えて食べて下さいませ。

 そのまま食べるのも良し、魔法の鞄で保存し、後日、歳をとってから食べるのもよし。しかし、絶対ダメなのは、10歳未満の子供に食べさせてしまう事。

 私共もどうなってしまうのか、分かりませんので責任は負えません。

 今回、ドラゴンステーキを食べない方々は、係の者にお申し付け下さいませ。直ぐに代わりの別のメイン料理をお出ししますので!」


 エリザベスの話を聞いて、直ぐに食べる者、魔法の鞄にしまい、別のメイン料理を食べる者とに別れる。しかし食べる者も、ドラゴン肉の効果が得られるというサイコロステーキ一口分の大きさしか食べない。

 だって、ドラゴンステーキの市場価格って、サイコロステーキの大きさで1億マーブルするんだもん。

 という事は、ドラゴンステーキ200グラムで、約7億マーブルの価値があるのだ。


 このヨナン・グラスホッパーレッドドラゴン討伐パーティーに参加した者達は、ただこのパーティーに参加しただけで、一人、7億マーブルも、ヨナン・グラスホッパーに与えて貰った事となるという事だ。

 そして、寄子会議に参加した者達は、大体、領主と妻と長子の3人。

 大体、一領、21億マーブルも、グラスホッパー商会が援助した事となる。


 これは、昔のグラスホッパー騎士爵のような貧乏貴族にとって、トンデモない援助にもなる。


 少数ではあるが、グラスホッパー騎士爵が、イーグル辺境伯の寄子になるのを反対するつもりでいた貴族も、これでは何も言えなくてしまう。

 まあ、エリザベスがグリズリー公爵令嬢だったと分かった時点で、誰も文句など言えなくなっていたのだけどね!

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