第48話 シャトー・ロードイーグル

 

『ご主人様。やたらと動物や魔物の剥製が飾ってますね……』


「多分、仕留めた奴を剥製にして飾ってるんだろ?」


『絨毯が全て虎柄ですよ?』


「ああ。何匹虎を殺したんだろうな……」


 イーグル辺境伯の城は、無骨な石造りに、壁には動物や魔物の首の剥製。全ての廊下には、虎革の絨毯。

 もう、無骨を通り越しておどろおどろしい感じが漂っている。


 そんな廊下を歩いていくと、これまた何の飾り気のない分厚い鉄扉。


「イーグル辺境伯! グラスホッパー騎士爵がお見えになりました!」


 兵士が怒鳴るように、伝えると、


「入れ!」


 これまた、良く響く低い声の怒号が、鉄扉の奥から聞こてくる。


 ギギギギギギーー!


 ちょっと錆び付いてる重そうな扉を4人がかりであけると、ゴッツイ椅子に座った、ガタイが大きい大男が、酒を樽で飲んでいた。


「おお! 生きてたか! エリザベス!

 と、大戦の英雄! グラスホッパー!

 まさかお前が、エリザベスと結婚してたなんて、全く知らなかったぞ!」


 どうやら、姪っ子のエリザベスはともかく、エドソンの事も、イーグル辺境伯は知ってたようだ。


「あの大戦ぶりだな! あの大戦でお前が居なかったら、我がカララム王国は今頃、サラム帝国の属国だったわい!」


「いや……俺なんか……」


 エドソンは、謙遜する。


「何を言っとる! それなのに、カララム王の奴、お前に不毛な領地を押し付けたんだろ!」


 なんか、イーグル辺境伯は、クダを巻いて憤っている。


「まあ、今は、ヨナンのお陰で盛り返してますけど」


「ああ?そういう話だったな! その坊主だろ! お前の所の死んだ副官の息子!目元がそっくりだわい!」


「はい。今は俺の息子で、ヨナンって言います」


 エドソンは、ヨナンを紹介する。


「エドソンとエリザベスの息子ヨナンです。以後お見知りおきを」


 ヨナンは、無難に頭を下げる。


「ガッハッハッ! お前が、噂のヨナンか!

 さっき、孫娘のカレンに恥をかかせたと聞いたぞ!

 なんでも、うちの跳ねっ返りを小枝1本で倒したらしいな!」


「え……と……アレは、不可抗力で……」


 ヨナンは、イーグル辺境伯から発せられる凄い圧に、冷や汗をかく。


「分かってるだろうな。ワシの孫娘に恥をかかせたんだ。それなりの責任は取ってもらうからな!」


『ご主人様。責任って何でしょう?まさか、結婚して責任を取れという事でしょうか?』


「……」


「叔父様! 駄目ですよ!ヨナン君には、うちの娘のシスという先約が居るんです!

 後から出てきて、奪って行かないで下さい!」


「そうです!お兄ちゃんは、私と結婚するんです!」


 エリザベスの援護射撃を利用して、シスも反撃にでる。


「ガッハッハッハッ! 流石は、火拳のエリザベスと恐れられたお転婆エリザベスと、大戦の英雄グラスホッパーの娘じゃわい!

 このワシを前にして、意見してくるとは。小さいのに、中々、肝が座っとるわい!」


 どうやらそんなに、イーグル辺境伯は怒ってないようである。

 責任とか言われた時はどうしようかと思ったけど、何とか逃げれそうだ。


「じゃあ、エリザベスの娘のシスを第一夫人にして、うちの孫娘のカレンを第二夫人にすれば、丸く収まるな!

 うちの跳ねっ返りは、凶暴過ぎて、どうせ何処も貰い手ないから、ヨナン! 宜しく頼むぞ!」


 なんかいつの間にか、ヨナンは2人嫁を貰う事になってしまった。


 ーーー


「で、手紙にあったワインはどうなっとる?

 2日後には、ワインの品評会だぞ!」


「叔父様持って来てますよ! それも5種類。一番最高級ワインは、グラスホッパー騎士爵で売り出す事が決まってますが、他のワインは決まってませんが、どうしますか?」


 エリザベスは、どうやらここで、シャトー・ロードグラスホッパー1965以外のワインを売り込むようである。


「ん? どうやら自信がありそうだな?」


「まあ、セバスチャンとゴンザレスのお墨付きですからね!」


「成程……だから、ソムリエ世界一になった事もあるセバスチャンと、ドワーフ一酒飲みと言われてるゴンザレスを連れてきておったか!

 ならば、ワシに飲ませてみよ! その場で、シャトーを買い取るか決めてやる!」


 イーグル辺境伯は、ニヤリと笑い、飲んでた樽酒を、ドン!と、その場に置く。


「それでは、試飲を始めましょうか!

 一番最初のワインは、(仮名)シャトー・ロードイーグル。これは、叔父様一押しのワインよ!

 まあ、完全に叔父様に売りつける為に開発したワインだから、絶対に、叔父様に買って貰うわよ!」


「確かに、(仮名)とはいえ、イーグル辺境伯家が所有してるシャトー・イーグルに、勝手にロードを付けるとは、よっぽど自信があるようだな!」


 イーグル辺境伯が、ギロリとエリザベスを睨み付ける。だが、エリザベスは華麗にスルー。


 セバスチャンに指示して、(仮名)シャトー・ロードイーグルを開封し、ワイングラスに注がせる。


「成程……これは確かに、色と香りもシャトー・イーグルに似てる……そして、悔しい事に、シャトー・イーグルを越えている……」


 さっきまで、酒を樽で飲んでたオッサンが、ちゃんとワインのテイスティングをしている。

 多分、これが鑑定スキルが言ってた、イーグル辺境伯の二面性なのだろう。


「では、飲んでみるぞ」


 イーグル辺境伯は、匂いを嗅いで、少し余韻を味わってから、一口。


「……」


 イーグル辺境伯は、固まる。


「こ……これは……」


 粗暴なイーグル辺境伯の頬に、一筋の涙。


「どう?叔父様?」


「買う! これ、絶対に買う!

 イーグル辺境伯が、シャトー・ロードイーグルのブドウ園とシャトーを買い上げる!」


 イーグル辺境伯は、即決。


「はい! お買い上げありがとうございます!

 もう、既に、イーグル辺境伯専用のブドウ園と、製造シャトーを用意していますので、いつでもグラスホッパー領に見にお越し下さいね!

 しっかりとグラスホッパー商会が、ブドウ園の管理とシャトーの管理をしておりますので!

 因みに、価格は、ブドウ園とシャトーを合わせ、20億マーブルになります!

 それと、取り敢えず、シャトー・ロードイーグル500本贈呈致します!」


 エリザベスは、一気に畳み掛ける。


「おい! 今すぐ20億マーブル持ってこい!」


 流石は、大物貴族。一瞬にして、ブドウ園とシャトーの売買契約を交わしてしまった。

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