第40話 採用試験

 

 次の日、グラスホッパー商会カナワン支店の2階会議室で、従業員の面接が始まる。


 一応、応募して来た者は、全員面接して、その場で採用か不採用を決めるシステムである。


 ヨナンの役目は、採用官であるエリザベスとセバスチャンに、鑑定スキルLv.3の能力を使って、エリザベスとセバスチャンと俺で、面接者のステータスを共有する事。


 そう、鑑定スキルLv.3は、本来誰も分からな筈のユニークスキルまで、分かってしまうのだ。

 それで、本人さえも知らない隠された才能を秘密裏に看破し、適材適所に仕事を与える作戦である。


『頑張ります!』


「お願いね! 鑑定スキルちゃん!」


「宜しくお願いします」


 エリザベスとセバスチャンが、鑑定スキルに頭を下げる。といっても、俺に頭を下げるのだけど。


「それでは、1番目の人、入ってきて下さい!」


 エリザベスが、扉の外に声を掛ける。


 すると、最初の1人目は、若い男性だった。


「名前と、自己アピールをお願いします!」


 エリザベスが、緊張気味の若い男性に声を掛ける。


「マキ村出身のトムと言います。得意なのは、芋堀りです!」


 どうやら、グラスホッパー商会の主力商品が公爵芋だと知っていて、芋堀りが上手いアピールをしてるようである。


 しかし、先程からヨナンとエリザベスとセバスチャンの前にだけ半透明に現れてるトムのステータスを見ると、


 名前: トム

 犯罪履歴: 無し

 スキル: 指鳴らし、背骨鳴らし

 ユニークスキル: 皮剥き

 力: 120

 HP: 130

 MP: 20

 器用: 80


「トムさん。実を言うと、男爵芋の皮剥きとか、獣の皮を剥ぐのが、とても上手くありません?」


 エリザベスが質問する。


「そういえば、ジャガイモの皮剥きは、結構早い気がします!」


 トムは、思い出したのか、前のめりで答える。


「エリザベスお嬢様、トムさんを、グラスホッパーホテルの厨房で雇いたいのですが?」


「そうね! 皮剥きが得意なら、料理人が合ってるわ! アナタ採用よ!

 ここに、契約書を用意してるから、自分で判断して、うちで働きたいなら契約書にサインして、また明日、ここに来て頂戴!」


「はい! ありがとうございます!」


 トムさんは、喜んで契約書を持って出て行った。


「次の人どうぞ!」


「はい!」


 名前: カトリーヌ

 犯罪履歴: 無し

 スキル: 屈伸運動、肩たたき

 ユニークスキル: ツボ押し

 力: 60

 HP: 80

 MP: 25

 器用: 120


「名前と自己アピールをお願いします!」


「はい!カトリーヌ!16歳です!特技は肩叩きです!」


「エリザベスお嬢様。この方は、温泉施設のスパで働かせてみては?」


「そうね!アナタ、採用よ! ここに、契約書を用意してるから、自分で判断して、うちで働きたいなら契約書にサインして、また明日、ここに来て頂戴!」


 相手のステータスが見えちゃってるから、合否判定がメッチャ早い。しかも、採用テスト用に、犯罪履歴と、器用さの項目も載せてたりする。

 まあ、何より凄いのは、エリザベスとセバスチャンさんの決断力の早さなんだけどね。


「次の方!」


「ハイ!」


 名前: マイク

 犯罪履歴: 殺人、窃盗、強姦

 スキル: ピストン運動、爪切り

 ユニークスキル: 裸踊り

 力: 250

 HP: 130

 MP: 36

 器用: 40


「名前と自己アピールをお願いします!」


「俺はコビー。接客が得意だぜ!」


「不採用!」


「何で、イキナリ不採用って、ふざけてんのか?」


「五月蝿いです。後ろがつかえてますので、スグに出てって下さい!」


「なんだと!」


 コビーじゃなくて、本当はマイクがエリザベスに殴り掛かる。


 しかし、バキバキバキバキバキ!


「ウギャァァァァァーー!!」


 エリザベスは、マイクのパンチをキャッチして、そのまま拳を握り潰してしまった。


「邪魔よ!早く出てって!」


 因みに、エリザベスのステータスはこんな感じ。


 名前: エリザベス

 犯罪履歴: 無し

 称号: 火拳のエリザベス、ゴリラパンチのエリザベス

 スキル: 水魔法Lv.2、火魔法Lv.2

 ユニークスキル: 身体強化Lv.3

 力: 2500

 HP: 750

 MP: 1200

 器用: 150


 なんか、よく分からない称号持ちで、ステータスが完全にぶっ壊れている。まあ、馬鹿力だって事だけは分かるよね……。


 セバスチャンさんも、主が襲われたといのに、眉毛1つ動かさなかったし。

 まあ、最初から相手のステータスが見えてて、力量が分かってるから、心配もしなかったと思うけど。


 まあ、こんな感じで、3000人くらい面接して、その日のうちに2500人くらい採用を決めてしまったのだった。


 ーーー


 現在、ヨナンは、新商品の開発で頭を悩ませている。


 エリザベスと、コナンと、シスは、カナワン支店に行きっぱなしで、もう、1ヶ月間もグラスホッパー領に帰ってきていない。


 ヨナンはというと、エリザベスに食料加工品の新商品開発、100個を頼まれて、ずっと生産拠点であるグラスホッパー商会本店の執務室で、ずっと部下達と会議しているのであった。


「マヨネーズと、グラスホッパー領のトマトで作ったケチャップと、プリンは、大ヒットだったんだけどな」


 ヨナンは、鉛筆を回しながら部下達に話す。


「色々な種類のパスタソースも、大ヒットしましたね!」


 一人の部下が、テンション高めに話す。


「だな」


「桃缶も当たりましたね」


 もう一人の部下も、桃缶の味を思い出したのか幸せそうな顔で言う。


「他に、グラスホッパー商会をアピール出来る商品はないか?」


「商会長、そろそろ食品関係ばかりじゃなくて、貴金属とか、木工製品を売り出してみたらどうでしょう!

 大森林では、貴重な鉱石もたくさん取れますし!」


「もう、そっち方面に行くしかないかもな。

 今迄は、甘くて美味し果物や野菜、そしてそれを使った加工食品を全面に押し出して商売してきたが、ついに、貴金属も売り出しちゃうか!」


 とか、話しながらも、ヨナンは指輪やらネックレスやら、試作品を20個くらい作っている。


「本部長、これは流石に上級貴族しか買えませんよ……」


 生産部門の部下がダメ出ししてくる。


「俺が作ったのは、最高級ラインにして、新たに彫刻師を雇って、中級貴族や下級貴族、それからちょっと金持ちな平民でも買えるような、製品を作ってみるか!

 というか、確か、1人ユニークスキルで、彫刻スキルLv.2を持ってた奴がいたな……」


「トニーが確か持ってた筈です!」


「じゃあ、トニーを貴金属課の課長に任命するから、一度やらしてみてくれ!

 それから、エリザベスに頼んで彫金スキルや、彫刻スキルを持ってる奴を何人か採用しといてくれと、お願いしといてくれよ!

 最悪、誰も居なかったら、俺も面接に付き合うからとも、伝えといてくれ!」


「了解です!」


 現在、グラスホッパー商会は、飛ぶ鳥を落とす勢いの新興商会として名を馳せている。

 現在、高級食料品関係に関してだけなら、トップと言っても良いほどだ。


 そう、どこもグラスホッパー領で作った甘くて美味しい果実や野菜の再現が出来ないのだ。


 大森林で改良された果物や野菜が育つのは、大森林だけ。

 他の場所で、公爵芋を植えても、男爵芋にしか育たない。

 しかも、大森林はヨナンだけにしか開拓できないのだ。

 もう、何となく気付いてる商会もあると思うが、未だにどこも真似できないのである。


 因みに、隣の領地にあるトップバリュー商会は、既に、大森林の秘密に気付いたらしく、大森林を開拓しようと試みていたみたいだが、盛大に失敗してた。


 グラスホッパー商会に対しても、グラスホッパー領で取れた野菜や果物を買い取ってやると、何度か強気な姿勢で提携を申し出てきたが、全部断ってやった。

 誰が、トップバリュー商会なんかと組むかよ!


 提携を断ってやると、最初、グラスホッパー商会の後ろ盾が、イーグル辺境伯とグリズリー公爵家だと知らなかったのか、他の領地や商会にグラスホッパー商会の商品を買わないように圧力を掛けてきたのだが、途中で、グラスホッパー商会の後ろ盾が、イーグル辺境伯とグリズリー公爵家だと気付くとスグに圧力を掛けるのを止めた。


 トップバリュー商会は、結構、貴族市場に食い込んでるらしいが、本物の公爵令嬢が関係してる商会には太刀打ち出来ないようで、諦めたようである。


 で、そんな本物の貴族のお嬢様が、次にヨナンに課してきた難題は、高級ワイン作り。


 やはり、貴族を唸らす為には、高級な酒が一番なのだ。だって、やたらと豪華なパーティーばかり開くからね!

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