第34話 TUEEE姫

 

「それじゃあ、カナワン伯爵の所に行きましょうか!」


 いきなり、エリザベスが訳の分からない事を言い始める。


「何で、いきなり、カナワン伯爵の所へ行くんだよ!

 明日とかに、カナワン伯爵の方から接触してくる話になってんだけど!」


「やはり、交渉事は、相手のペースに合わせたら飲み込まれるから、こっちが主導権を取らないといけないわ!」


「主導権って、相手が圧倒的に地位が高い場合、アポイント取ってないと会う事も出来ないだろうがよ!」


「まあ、その辺は何とかなるから!」


「何とかなるなるからって……」


 エリザベスは、勝手に、カナワン伯爵の居城の方に歩いていく。


「ヨナン兄ちゃん……大丈夫かな……」


 流石に、コナンも心配している。


「俺に聞かれても、全く分からんから……」


 もう、ここまで来たら、諦めて着いていくしかない。


 カナワン伯爵が居ると思われる城の前までくると、エリザベスは、門兵に、


「カナワン伯爵に、エリザベスが会いに来たと伝えてくれる!」


 と、言い放つ。


「あの……アポイントは、取っていられるのですか?」


 流石に、とても偉そうに言い放つので、門兵も、もし、偉い人なら大事になると思ったのか、丁寧にエリザベスに問いただす。


「エリザベスが来たと言えば、分かるから!」


 エリザベスは凛と構えて、全く同じ事を言って引かない。


「あの……門兵さん……グラスホッパー騎士爵家のヨナン・グラスホッパーが会いに来たと伝えてくれませんか?」


 ヨナンは、困ってる門兵に助け船を出す。


「ハイ! 分かりました!」


 門兵は、ヨナンに頭を下げると、逃げるように門の奥に走って行ったのだった。


「あのヨナン君、私に、そんな助け要らなかったのに」


 エリザベスは、ヨナンに、何故か上から目線で言う。


「エリザベスに要らなかったとしても、あの困ってた門兵さんには居るでしょ!

 どう考えても、とても困ってたし!」


 ヨナンは、少し怒れてきて、エリザベスを叱る。


「そうなの?」


「そうですよ! ちょっとは庶民の気持ちも考えて下さいよ!」


 そう、エリザベスには庶民に気持ちが分からないのだ。

 じゃなければ、凍りついて硬い地面から、男爵芋を素手で掘れとは言わないしね。


 暫くすると、先程の門兵が戻ってきて、門の近くの狭い部屋に通されて、少し待っててくれと言われた。


「何?この部屋、私がこんな部屋で待たされる訳?」


 なんか、エリザベスがブー垂れてる。


「あの……騎士爵と、伯爵の地位を考えたら、こんくらいの扱いが妥当なんじゃないか?」


「だけど、お茶も出てこないし?」


「だから、アンタは、今現在、グラスホッパー騎士爵の嫁さんでしょ!

 元々、どんな地位の貴族令嬢か知らないけど、今は、騎士爵の人間だから、偉そうな態度は取らないで下さい!」


 ヨナンは、あまりに頭に来て、エリザベスに注意する。


「分かったわよ! ヨナン君は、厳しいんだから!」


 とか、話してたのは3時間前。


『ご主人様……遅いですね……』


 ヨナンより痺れを切らした鑑定スキルが、話しかけてくる。


「これは、アレだな。ロシアのプー〇ンがよくやるやつ……日本の首相や、フランスの大統領を待たせて、自分の方が上だと分からせる手法」


『間違いなく、それですね……まあ、アポイント取ってなかったこっちが悪いですけど、これはヤッパリ待たせ過ぎですよ!』


 鑑定スキルは、プンプンである。

 基本、鑑定スキルは、ヨナンを舐める奴は許せないのである。


「だから言ったのよ! 貴族なんてこんなもんなんだから!

 多分、最初に、どっちが上だか分からせようとしてるんだわ!

 それにしても、レディーを待たせてるのに、お茶も出さないなんて、カナワン伯爵は、何を考えてるのかしら?」


 とか、エリザベスがブツブツ言ってると、係の者が、部屋にやって来た。


「グラスホッパー騎士爵ヨナン様、グラスホッパー伯爵がお呼びです」


「あの門兵、私の事話してなかったのね!」


 なんか、エリザベスがプンプンしている。


「そりゃあ、名前だけ名乗る怪しい女の事なんて話さないでしょ!」


「私、こんなに侮辱されたのは初めてよ!」


 なんかよく分からんが、エリザベスは御立腹のようだ。自分が無視されたのが、相当悔しかったのだろう。


 そして、案内係に案内されるまま、カナワン伯爵の執務室に招かれる。


「失礼します!」


 ヨナンは、無難に頭を下げてから、カナワン伯爵の執務室に入る。


 しかし、


「あの?失礼じゃありません?レディーを、3時間も、寒い部屋でお茶も出さずに待たせるなんて!」


 いきなり、エリザベスが、カナワン伯爵に食ってかかる。


「えっと……アナタは……」


 いきなり、エリザベスに文句を言われて、カナワン伯爵は困惑する。


「私は、グラスホッパー騎士爵の妻のエリザベスよ!

 もうちょっと説明すると、アナタの寄親のイーグル辺境伯の妹の子供のエリザベス!

 もっと言えば、グリズリー公爵の娘のエリザベスよ!」


 エリザベスは、よっぽど腹を立ててたのか、自分の自己紹介を捲し立てるように言う。


「えぇぇぇぇぇーー! グリズリー公爵様の所のエリザベス姫様……!

 何で、グリズリー公爵様の姫様が、グラスホッパー騎士爵と結婚してるんですか?

 そんな話、私、一言も聞いてないんですけど!」


 なんか、カナワン伯爵が、目ん玉飛び出して驚いている。


「嘘だろ! エリザベスって、公爵様のお姫様だったのかよ!」


 まあ、カナワン伯爵以上に、ヨナンが驚いてるんだけど。


 そんな驚く、カナワン伯爵と、ヨナンを置いといて、エリザベスは話を勝手進める。


「カナワン伯爵! 私は、グラスホッパー騎士爵が、イーグル辺境伯の寄子になる話を、受けに来たの!

 まあ、私の出自を考えれば、それが無難だしね!」


「そ……そうですよね! そのように、イーグル辺境伯に伝えておきます!」


 カナワン伯爵は、平伏して答える。


「それから、うちのヨナン君がやり始めた商会にお墨付きを頂戴!

 伯爵家のお墨付きがあれば、ヨナン君の商会も箔が付くから?

 アナタも、どうせグラスホッパー領の公爵芋を食べた事があるんでしょ!」


「ははーー!! それは美味しゅうございました!」


「そうよね!」


 エリザベスは、とても満足そうだ。


「本当に気付かず、申し訳ございませんでした!

  芋に、公爵芋と名付けるとは、何と恐れ多いかと思っていましたが、エリザベス公爵令嬢が関与されていたなら納得です!

 喜んで、公爵芋を、カナワン伯爵お墨付きと公言させていただきます!」


「ありがとう!」


 エリザベスは、ニッコリとカナワン伯爵に微笑んだ。

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