第3話 鑑定スキル
次の日も、ヨナンはワクワクしながら帰らずの森に向かう。
だって、あんなこと経験したら誰だって興奮するでしょ。実際、興奮し過ぎて、夜あまり眠れなかったし。
斧を握れば、木はバターのように切れてしまうし、ノコギリを持てば、思いどおりの大きさに切れてしまうのだ。
山のように製材した木材も、どれだけのお金になるか分からない。
だって、寸分も違わずに、同じ長さ、同じ大きさに製材した木材が何百個も有るのだ。
大きな、建物を建てようと思ってる人に、きっと重宝されるに違いない。
というか、製材した木材を使って、家を建てれるんじゃないのか?
成人したら、グラスホッパー家を出て行かないといけないし。
家を建てるのには、どうしたらいいんだろ?
少し考えると、家の建て方が頭に浮かぶ。
「これは、家建てれちゃうな……」
何故か、家を建てるのに必要な材料や建て方が分かるのだ。土木作業や、家の基礎工事も含めてね。どうやら、全てが大工スキルに含まれてるらしい。
しかしアレだな……セメントとは何だ?
そう、頭に浮かんだ材料は、聞いた事もないセメントなる建材。
どこで手に入れれば良いのだろう?
ヨネンは悩む。悩んでも悩んでも分からない。
だって、セメントという言葉自体、初めて聞いた言葉だから。
何だか分からない物など、そもそも考えても、例え目の前にあっても分からないのである。
「ん? そうだ、こんな時こそ鑑定スキルだよな!」
偽名看破にしか使えないと言われる鑑定スキル。
見れば物の名前だけが分かるハズレスキル。
まあ、余りにハズレスキルと有名だったので今まで使わなかったのだが、今こそ使うべき。
だって、たまたまセメントが目に入ったら、それがセメントだと解る筈だし。
取り敢えず、ヨナンは、地面を見る事とする。
だって、セメントは家の土台に必要らしいので、きっと、石かなんかの種類だと思うから。
ヨナンが地面を見ると、恐ろしい程の情報量が頭の中に流れてくる。
☆大森林の腐葉土……10億年の歴史のある大森林で、脈々と積み上げられた腐葉土、その他の腐葉土とは格が違い、植物は普通の5倍のスピードで育ち育った食物は栄養豊富。
☆大森林の薬草……栄養豊富な大森林で育った薬草、普通の薬草の3倍の効果がある。
☆大森林の石……多分、普通の石より栄養が豊富、食べれる種族がいればの話。
☆大森林の土……栄養豊富な腐葉土を含み、農業に適している。砂風呂に使えば、殆どの病気が治るであろう。
☆大森林のミミズ……栄養豊富な腐葉土を餌にして育ったミミズ。ミミズがいるおかげで、より大森林の土が改良されている。しかも、大森林のミミズを使って釣りをすれば入れ食いである……
情報の洪水。完全にヨナンの脳みその許容量を越えている。これ以上、鑑定を続ければ、頭の血管が切れて死に至る寸前まで来た所で、
プチッ!
「ハァハァ……もう少し、鑑定スキルを切るのが遅かったら、頭が破裂して、多分、俺、死んでたな……メッチャ、頭が熱いし、これが知恵熱とか言う奴か……初めてマトモに頭を使ったから、なんか急激に頭が良くなった気がする……というか、この森の名前って、大森林とか言うんだな……しかも、栄養豊富で、農業でに適してるだと。
これは、早速、男爵芋の苗を植えてみなきゃな……というか、俺が知ってる鑑定スキルと全然違うんだけど、物の名前だけじゃなくて、効能や効果まで、頭の中に入ってきやがる……。
というか、取捨選択して鑑定しないと、こりゃ、頭がイカレるぞ。というか、取捨選択機能がなきゃ、怖すぎて使えんだろ……」
急に知識を得た為か、独り言が長くなってしまったようだ。
それ程に、ヨネンは多くの知識を手に入れたのだ。ただの地面についてだけだけど。
{鑑定スキルを一定条件使ったので、鑑定スキルのレベルがLv.2になりました}
突然、女神ナルナーの声が頭に響く。
「嘘……スキルのレベルって、上がるのかよ……」
思わず、女神ナルナーの声に反応して、声を出してしまう。
何故なら、ヨナンは会話に飢えているのだ。
誰かに喋り掛けられるのって、養父のエドソンだけだし、誰かと喋りたくてしょうがなかったのである。
だけれども、
『上がりますよ』
突然、男でも女でもない声が頭に響く。
「えっ?誰?」
『僕は、鑑定スキルです』
「鑑定スキルって喋るのかよ!」
『鑑定スキルLv.2になると、普通に喋りますね』
「嘘?」
『この世界で、鑑定スキルがLv.2になったのは、僕が初めてなので検証は出来ませんけど』
「これは……友達が居ない俺が、誰かと喋りたいという欲求が募り過ぎて、幻聴が聞こえてるんじゃないよな……」
『鑑定スキルが凄すぎて、誰かと喜びを共有したくて、幻聴が聞こえてる訳でもないですよ』
「今のって、暗に自分が凄いと言ってるだろ?」
『言ってますね。だって、僕って凄いですから』
「謙遜しないんだな……」
『僕は鑑定スキルですから、聞かれた事を正確に答えるだけです。そもそも鑑定スキルは、嘘を付けないですから』
「そうなんだ。まあ、それは良いとして、鑑定スキルの取捨選択は出来るんだよな?」
ヨナンは、久々の会話を楽しみながら、聞きたい事を鑑定スキルに聞いてみた。
『これからは、僕が、ご主人様が知りたい情報を取捨選択して答えますので安心して下さい』
「じゃあ、セメントがどこにあるか分かるか?」
ヨナンは、取り敢えずの本題に入る。
『セメントは何処にも有りませんが、セメントを作る材料がどこにあるかは分かります』
「そのセメントは、材料さえあれば俺にも作れるものなのか?」
『大工スキルがあるご主人様なら、簡単に作れます』
謎の建材セメントを、鑑定スキルは当たり前のように知っていた。
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