大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫 タマ
1章 プロローグ
第1話 プロローグ
何処までも田舎。辺りは男爵芋畑ばかり。
そんな田舎で、芋掘りをしてるのが、田舎の貧乏貴族の四男 ヨナン·グラスホッパーである。
「何で、貴族なのに、俺って素手で芋堀りしてるんだろう……」
いつものように、ヨナンは得意の独り言を言う。だって、友達が1人も居ないから。
まあ、貧乏貴族の四男と言っても、ヨナンの家は腐っても貴族。
例え、貴族の中で一番身分が低い騎士爵だとしても、その四男が、農奴のように素手で芋掘りをしている事自体が異常。
実を言うと、ヨナンこと俺は、この家の本当の子供ではない。
なんでも、この家の主であるエドソン・グラスホッパーは、戦争で活躍して、この領地を与えられた新貴族。
そして俺は、その戦争で、エドソン・グラスホッパーの命を助けて死んだ戦友の遺児。
元々体が弱かった俺の本当の母親は、旦那の戦死を聞いてショック死。
実の妹は、そのどさくさに紛れて親戚の男によって奴隷商に売られてしまった。
そんな事あるのかって? そんな事あるのが、この世界なんだよ。バッキャロー!
そんでもって俺も、すんでのところで男色のエロ親父に売られる所に、現在の俺の父親であるエドソン・グラスホッパーが現れて、助けられという流れである。
現在の父親であるエドソン・グラスホッパーは、俺の本当の父親の死に際に「妻と子供達を頼む」と託されて、俺達家族を探しに、その時俺達が住んでた町に探しに来たという話だった。
まあ、その時には、母親も死んで、妹も売られた後だったんだけどね。遅いっちゅーの!
そんな流れで、俺は、戦争で功績を立てて新貴族に取り立てられた、グラスホッパー家の四男(養子)として引き取られたのだ。
ーーー
でもって、現在の俺の家。昆虫のバッタという意味もある、ありえん家名のグラスホッパー家。
国から貰った領地?村?の東側には、広大な森が広がっている。そこは、完全なる未開地。
一応、俺達が暮らしてる国、カララム王国の領地であると言われているが定かではない。
なにせ、森は広大どこまでも広がっているのだ。
数年前、カララム王国からの調査隊とかいう騎士団が30名ほど村に来て、森を探索しに出掛けたが、そのまま未だに帰ってきていない。
今も探索を続けてるか、魔物に殺されて全滅してるか、どっちか? 多分、後者であろう。
そんな巨大な森が、東側にあるカララム王国北東部の辺境の田舎の村が、俺の父親エドソン・グラスホッパーが国から与えられた領地である。
名産は男爵芋。昔、痩せた寒冷地でも育てられて、主食になるだろうと、偉い男爵様が品種改良したと言われる有難い芋である。
ハッキリ言うと、グラスホッパー領は、男爵芋しか育てられない痩せた土地であるという事だ。
そして、今の父親のエドソンなのだが、エドソンを庇って死んだ、俺の本当の父親に負い目を感じてるからか、俺に対して、自分の本当の子供達以上に優しく接してくる。
だが、それがいけない。
「何で、自分の本当の子供達より、ヨナンを可愛がるのよ!」
と、エドソンの妻のエリザベスが怒り狂うのだ。
まあ、エリザベスにとって、俺は、ただの他人だからしょうがないけど。
そんな事もあり、俺はやたらとキツくエリザベスに当たられる。
農作業の真似事というか、農作業そのものをやらされてるのも、そのせい。
自分の食事くらい、自分で収穫しろという話らしい。
「これじゃあ、貴族と言っても農奴と変わんないよな……あの時、男色の変態男に売られた方が、いい暮らしできてたんじゃないのか?ケツが痛いの我慢すればいいだけだし」
ヨナンは、得意の独り言を言いながら作業する。
だって、兄弟姉妹は母親の目もあって話し掛けてくれないし、一応、貴族の家の子供だから、領地の子供達も友達になってくれないのだ。
ヨナンはブツブツ言いながらも、氷のように凍てついた固い地面を素手で掘る。
勿論、指は、霜焼けと、あかぎれで腫れに腫れている。
何で農具を使わないで、素手で掘ってるかだって?
そんなの、エリザベスから農具が与えられてないからに決まってんじゃん。
「冷たくて固い土を素手で、掘ったら、そりゃあ、あかぎれになるし、爪も剥がれるちゅーの!」
ヨナンは、今日も、得意の独り言をいいながら、黙々と男爵芋を掘るのだった。
ーーー
そんなヨナンに転機が訪れたのは、13歳の時。
カララム王国では、13歳になるとナルナーという女神様から、この過酷な世界を生き抜く為に、役に立つスキルを何個か貰えるのだ。
まあ、殆どはショボイスキルなんだけど。
大体、家事とか、皿洗いとか、窓拭きとか、耳がよく聞こえるとか、稲刈りが上手くなるとかしょうもないスキルばかり。
何故か、上級貴族は、剣術スキルとか、槍術スキルとか、攻撃力2倍スキルとか、戦争の時に役立つスキルを代々授かったりする。
ハッキリ言って、スキルって家系じゃね?
というのが、この世界の常識。
でもって俺は、13歳の誕生日に、突然、女神ナルナーの声が聞こえて、大工スキルと、鑑定スキルと、$☆スキルを有難く頂いたのだ。
なんか、スキルを貰う儀式とか無かったのかだって?
そんなのある訳ねーだろ!
ここは、カララム王国辺境の貧しい村。牧師は疎か、教会さえ無いのだ。
聞いた話だと、隣の町では13歳になった子供達を教会に集めて、スキルを与えてくれた女神ナルナーに感謝の気持ちを伝える儀式があるらしい。
まあ、そんなの要らないし、そもそも俺の歳も、誕生日も、俺の家族が知ってる訳ねーし。
そんな事を思いつつ、家の廊下を歩いてると、突然、すれ違った父親が、
「お前、今日、誕生日だろ? 何個か女神様からスキル貰えたか?」
と、聞いてきた。まさが、今の父親のエドソンが、自分の誕生日を知ってるとは思ってなかったので、少しだけ動揺してしまう。
だって、今迄俺は、この家で誕生日を祝って貰った事が無かったから。
何故なら、俺の誕生日を祝うと継母のエリザベスが激怒するから。
「大工スキルと、鑑定スキルと、なんかよく分からん$☆スキルとかいう、ユニークスキルを貰ったよ」
一応、聞かれたので、ヨナンは女神から貰った何も変哲もないスキルを答える。
「そうか、それは残念だったな。俺の本当の息子だったら、兄ちゃん達みたいに剣術スキルを貰えたのにな……」
そう。俺の現在の父親は、農民の生まれだったけど、剣術スキルを持ってた為、戦争で活躍して爵位を得た新貴族。
エドソンの息子達も、上手いこと剣術スキルを遺伝してたりする。
しかも、ヨナンが兄弟の中で一番嫌いな次男のジミーは、剣術スキルLv.2をゲットしてたりする。
剣術スキルLv.2は、剣術スキルの上位スキル。
剣術スキルと、剣術スキルLv.2には越えられない壁があるのだ。
「俺は、お父さんの本当の子供じゃないから仕方が無いよ。
どうせ、今後も、グラスホッパー領で暮らしてくだけだから、成人したら家を出て、大工スキルを活かして慎ましく生きていくよ。
グラスホッパー領の隣には、帰らずの森もあるから、木材には苦労しないと思うしね」
ヨナンは、感情を押し殺し、にへら笑いをして答える。
だってしょうが無いじゃん。
俺は、エドソンの本当の息子じゃないし、レアスキルの剣術スキルも授かってないのだから。
「ヨナン。済まない。エリザベスがあんなんじゃなかったら、もっとお前に楽をさせてあげたのに……俺は、お前の死んだ父親に対して、申し訳ない気持ちでいっぱいだよ」
「だから仕方が無いって、父さん。俺は父さんの本当の子供じゃないし、それに父さんがあの時助けてくれなかったら、今頃、変態男の慰め者になってた筈だしね」
「ヨナン……」
何故、エドソンが、ヨナンを気遣うように話かと言うと、この世界で鑑定スキルは、有名なハズレスキルだから。
鑑定スキルを使っても、人の名前や薬草の名前が分かるだけのショボイスキルなのだ。
唯一役に立つ事と言えば、偽名を使ってるかどうか分かる事。
まあ、この世界では偽名を使ってる者が沢山いるので、鑑定スキル持ちは、そんなスネに傷がある者達から毛嫌いされていて、殆どの鑑定スキル持ちは、鑑定スキルを持ってる事を隠してたりするのだ。
でもって、もう1つの何のスキルか分からない$☆スキルは、所謂、ユニークスキルと呼ばれるスキル。
大体、何のスキルか分からないで、一生を終えると言われている。
だって、誰もどんなスキルか分かんないから。
中には、自分のユニークスキルが何のスキルか分かった者もいて、そのユニークスキルは、女の人が生理かどうか分かるスキルだったらしい。
そんなスキルなど、特殊な性癖な人以外、持っててもしょうがないものだしね。
まあ、この何か分からないユニークスキルが、ヨナンの人生を大きく激変させる事となるんだけど、芋掘りが日課の今のヨナンに分かる訳ないか……
ーーー
ここまで読んで頂きありがとうございます。
80話ぐらいまで1日3話ぐらい、土日多めに投稿するつもりなので、引き続き読んでくれると嬉しいです!
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