前編

プロローグ

白い手


 空から、声が降ってきた。

 冷たい雨とは対照的な、人の、温かい声。

 その声に引き寄せられるように、かかえている膝に埋めていた顔をあげた。

 目の前には、白い外套をまとった人が立っている。

 さめざめと雨が降る中、静かにこちらを見下ろしている。

 そのフード下の顔には、見覚えがあった。

 でも、ここにいる理由が思い当たらない。

 どうしてこんなところにいるのか、わからない。

 状況が読み込めず呆然としていると、白い外套の中から手が伸びてきた。

 雨にさらされた白く綺麗な手が、頬にれてくる。

 腫れて痛む頬が、温かな手でつつみこまれる。



 ……おそらく、そのときだったのだろう。


 彼女が、私の特別になったのは――。


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