第10話 突然の告白

 私にそう声をかけてきたのは、父が過去に共同事業の相談をもちかけたこともあるオルレイン家のご子息、ハルバード様でした。

 その時には交渉がまとまらず、結果的に不成立となってしまったのですが、門前払いされずに話だけでも聞いてくれたことを父は大層驚いておりました。


 何世代にも渡る伯爵家の嫡男でもあらせられるハルバード様は高貴な身分にも関わらず、偏見や選民意識を持たずに私たち平民にも分け隔てなく接してくれる数少ない貴族の一人なのです。


 共同事業の話は流れたものの、それからはうちと懇意にしてくださるようになりました。

 でもダズと婚約が決まった辺りから彼が商会にお越しくださる機会も徐々に減っていき、やがて完全にお会いすることも叶わなくなりました。


 だというのに、まさかこうして再会することになろうとは、少し前までなら考えられません。

 ですがそのことはともかく、まずはハルバード様に返事をしないと。


「ご無沙汰しておりますハルバード様。はい確かに私はダズ様から婚約破棄をされまして、それでこちらに戻ってまいりました」


「そうか。妹から伝え聞いた通りだな……」


 などとハルバード様は得心がいったご様子で、一人頷いております。

 私はどう反応すればよいのかと思案をしていたところ、彼は突然このようなことを言いました。


「であればもう遠慮する必要はないのだな。――メリエッダ・テナス、改めて俺と一緒になってはくれないか?」


「……はい?」


 予期せぬその一言に、肯定とも否定とも取れるニュアンスで答えてしまうのでした。



「先ほどの発言はどういうことでしょうか?」


 主に商談に用いられる商会の奥の部屋をお借りして私とハルバード様、それから父同席のもと、話をすることなりました。


 私の勘違いでなければハルバード様から告白をされたような気がするのですが、とにかく本人に聞いてみれば分かることです。


「メリエッダ、俺は口下手だから飾らずに気持ちを告げさせてもらう」


 そう前置きをされてから、ハルバード様は滔々と語り始めました。


「――お前が他所の男と婚約を交わしてから俺はずっと後悔の日々を過ごしていた。自分の感情に蓋をして苦しむくらいなら、どうしてもっと早くにプロポーズをしなかったのかと。……それほどまでに好きだったんだ、お前のことが」




https://kakuyomu.jp/users/sayuu_sayuu/news/16817330656741166197

 ↑ハルバード様の挿絵です。

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