Chapter2-5
レオネルトは、閉じていた目を開けてもう1度自分の掌を見た、そこに咲いていた花の色は"黒色"だ。
過去この種は何度か使われた事がある、白色の花は時々使われていたが、黄色い花が咲いたのは2回だけだ。
1度目は、幼い頃のリリアンが森の中を探検して迷子になって帰れなくなった時。
2回目は、ティアが居なくなって捜索した時。
そして、過去1度も黒色の花が使われた事はない。
リリアンが冗談や遊びでこの合図を使う事は一切無かった。
(家族にも誰にも合図の事を教えた事はない、敵も知るわけが無い、そしてリリアが軽い気持ちでこの合図を使うこともないっ)
ギリっと、レオネルトは強く唇を噛む。
「に、兄様……」
不安そうな声と顔を見せるレティシアに、口内に広がった鉄の味によって現実に戻されたレオネルトは、自分を落ち着かせる為に大きく息を吸って吐いた。
「いいか、ティア。恐らくこの国はもう保たない。僕達リザレス王国の民と、攻めてきたヴィエトルリア帝国とでは人数の差が圧倒的に不利なんだ、何よりも戦える兵たちの数は少ない‥」
結界で護られている絶対の信頼と、争いを好まないリザレスの民特有の精神や、精霊と共存する平和の象徴である国の為、戦闘に特化した者や兵士の数は少ない。
「この国から逃げるんだ」
「でも、でも父様は? お母様も姉様も助けを待ってるかもしれないわ!!! 国の皆んなだって見捨てれない!!」
「駄目だ危険過ぎる」
「いや!!」
「レティシア!!!」
「(ビクッ)!!」
ピシャリと初めて厳しい声を出したレオネルトに
港の方から逃げるのは恐らく無理だ。となると反対側の海岸に向かうしかないが、舟が置いてあるかは分からない。敵がいるかもしれない森の中を進む為、項垂れる妹の手を引っ張った。
*
レティシアとレオネルトは知る由も無いが、2人が森の中にいる時点でリザレス王国の人口は3分の1になっていた。
そして僅かに残っている者も容赦無く殺されていく。老人も赤子も関係なく……
街のあちこちで悲鳴と叫び声が聞こえ、城にいる者たちも生き残っているのはごく僅かだ。レティシアを逃がそうとしていた
「リザレスの王と王妃は殺せたのか?」
「はい、もう死んで……す」
「そうか、リリアン姫はどう……?」
「……姫は、……した」
地面に倒れたままの状態で、敵の話している声が耳に入ってくる。オルガはもう手も足も動かす事ができなかった。
(あぁ……私はこの国の王とお妃様を護ることができなかった……騎士団長失格だ……)
情けなすぎて自分への怒りが止まらない、意識は朦朧としてきて話している内容も上手く聞き取れなくなってくる。
「……めて、せめて貴方様だけでもご無事でありますように……(レティシア姫様)」
最後に会った小さいお姫様を思い出して、無事を祈ったオルガの閉じた目がもう開く事は無かった。
*
「……っふっ……はぁ」
「ティア、頑張って走れ! ……っ」
海岸を目指していたレオネルト達は、今森の中を駆けている。
結果として裏の海岸からも逃げられそうな箇所は見えなかった、敵の船が幾つか見つけられたからだ。
そして、今は森の中にいた敵に追いかけられている、時間が経てば経つほど敵の姿が多くなってくるのは気のせいでは無いだろう。
(だけど追いかけっこなら、森の地形に詳しい僕達が有利だ)
右へ左へ逃げながら敵を撒いて、大木の影へと隠れる。自分達を追いかけていた人物が通り過ぎて行った様子を見ながら、2人して荒くなっている呼吸を整えた。
「……はぁ、っ。お兄様、何処からどうやって逃げるの?」
小さな声で心臓を落ち着かせながら、レティシアは兄レオネルトへと訪ねる。
海岸から舟を用意するのは無理、何処かに隠れるにしても見つかるリスクが高い。助けを呼べる人もいない状況だ。
「ティア、大丈夫だ。もうちょっと頑張ってくれ」
そんなレティシアの心配を他所に、レオネルトは安心させるように頭を撫でた。
「僕に考えがある、敵に見つからない様に付いて来てくれ」
そう言って前に進み出した兄が、何かを決意したような真剣な目をしていた事を、後ろから見ていたレティシアは気付かなかった。
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