第51話
◆
隠密に、されど迅速に『お菓子な魔女』を全力で抜け出した俺達は、全員似たようなローブを来て実質的なダンジョンの入口である古ぼけた小屋の外へ出ていた。
ダンジョンのモンスターはダンジョンの外へ出られないため、魔女が出られるか不安に思っていたが杞憂だったようだ。ゲームでは魔女が外に出ることなんて無かったからな。
「おーい君達、いままで何処にいたんだ。早く出なきゃダメじゃないか」
「あっ、ごめんなさい。すぐ出ますね」
ダンジョンから出た俺達を最初に見つけたのは警備員さんだった。
スマホで確認した現在の時刻は二十二時。露店商達は引き上げ、落ちてる硬貨を狙った乙食が集まる時間帯である。
俺達が、その一員だと思われた訳ではないだろうが露店市場のルールを守ることが彼の職務であり、この行動は当然のことである。
もしかしたら子供と老人しかいない俺達が乙食に何かされないように声を掛けてくれた可能性すらある。どの道、こちらが警備員を恨む理由などない。
ないのだが、今の自分の状況を考えれば不安で落ち着かない。なにせ、下手をすれば俺は警備員どころではなく、衛兵のお世話になるのだから。
ああ、なんでこんなことに。
そして俺は脱出する少し前の事を思い返す。
◆『お菓子な魔女』脱出前
「「……」」
三人で廊下を走りながら、ふと思う。
そういえば生き返ってからやたら体が軽いと。それだけでなく尋常ではない開放感がある。
これも、謎の声が聞こえなくなった事と関係あるのだろうか?
「「……」」
しかし、一つ解せないのは女性陣が妙な雰囲気になっている。何かあったのかもしれない。
こんな緊急事態だ。後顧の憂いを断つためにも聞いておいた方がいいだろう。さて、どう聞くか。
「なあ、小僧」
「な、なんですか?」
「少し止まりな」
「はい」
魔女が低くドスの利いた声で俺を呼ぶ。恐ろしさのあまり、少し噛んでしまった。というか俺の呼び方は小僧かよ。
まぁ、恐怖と後ろめたさがあるから何も言わないけどな。思わず敬語を使いたくなるくらいには罪悪感がある。
しかし、この緊急事態に呼び止めるなんて彼女は何を考えているのだろうか。正気の沙汰とは思えない。いくら、すぐに追手が来る気配がなかったとは言えだ。
「何かありましたか? あの化け物みたいな
そういえば
正確にはフラフラと視線を漂わせた後、下へ移すのだ。
「何かあったかだって? それはワザと言ってんのかい?」
「???」
「……あの、師匠。多分、薊くんは気づいてないと思います。戦闘中もずっとソウでしたし」
来紅が言いにくそうに、魔女へ申し出る。
モンペがいつ追って来るか分からず、ダンジョンの継続ダメージで生じる痛みも地味に辛い。さっさと、こんなところから出たかった。
そしたら、何やら観念したような魔女が口を開いた。
「……そういや、指の一本をお嬢ちゃん本人と思い込むような阿呆だったね。なら、仕方ないのか?」
そして、「はぁ」と重い溜息を吐いた魔女が俺に衝撃の事実を告げる。
「あんたね、いま全裸だよ」
「は?」
そんなバカなと笑い飛ばそうとするも、やたらスースーする自分の体を見た。
するとどうだろうか。生まれたばかりの俺の体があった。そこで俺は先程まであった体の軽さや開放感、女性陣の不自然な雰囲気、それら全てに納得がいった。
今日は薄着だったので気付きにくかったとはいえ、我ながらコレはないだろう。声からの開放とな一切関係なかったのか。
「まあ、あたしと弟子も着替が必要だったところだ。ローブくらい貸してやるから、ついてきな」
「……はい」
魔女から配慮の言葉を貰い、俺は素直に従った。
しかし、考えてみると確かにそうだった。来紅は逃亡中、モンスターに食い千切られたのかボロボロになっているし、魔女もヘンゼルやグレーテルを相手にした時に負ったであろう傷のせいでローブが破れていた。
戦闘の興奮が続いており、全く
「ねぇねぇ薊くん、コレ似合うかな?」
「バカ弟子! この非常時に遊ぶんじゃないよ!」
「あうっ」
そうして到着した衣装部屋で来紅のファッションショーが開催されかけたが、魔女の拳骨により幕を閉じた。
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