第33話 梨沙の行方


 誰かがアマミに告白した。

 海斗かいとの言葉を聞いた瞬間、深月みつきの胸がわずかに痛んだ。

 アマミは高校生で、彼女が出来てもおかしくはない。アマミに特別な存在が出来ることがショックだった訳でもない。ただ、今まで避けていた「上田陸うえだりく」という人間が、いつの間にか「アマミ」と同化していたことにやっと気づいたのだった。


「そっか。アマミに……彼女が出来たかも知れないんだね」

「気になる?」


 海斗のまっすぐな視線にドキッとした。


「深月ちゃんは、上田くんのことが好きなんでしょ?」

「アマミのことは好きだけど、ただの友達だし……」

「そう? なら良かった。あんなに仲良いから、もしかしてショックを受けるんじゃないかなって、ちょっと心配だったんだ」


 海斗の言葉が、何だかいちいち癇に障る。

 その不快な気持ちから目を逸らして、深月は質問した。


「アマミって、何の部活やってるの?」

「フットサル同好会だよ。上田くん、中学の時はサッカーやってたみたいだけど、膝を故障したらしくて、高校ではサッカー部に入らなかったんだ。フットサル同好会は、遊び感覚で気楽に出来るって言ってたよ」

「ふーん、そうなんだ」


 そう言えば、アマミがまだユーレイだった頃、部活帰りの男子生徒の集団を羨ましそうに見ていたことがあった。あの時のアマミには記憶が無かったけれど、サッカーに対する思いが深いことは深月にもわかった。


(あたしって、本当に何も知らないんだな)


 自分には、他人に対する興味が欠落している。

 今まではそれが自分を守ってくれたけれど、こうして他人と交流するようになった途端、それがマイナスに作用してしまっている。


「──ちなみに、僕は天文部に入ってるよ」


 にっこりと海斗が笑う。


「お兄ちゃん! さり気なく自分アピールするの恥ずかしいからやめて!」


 夕夏ゆうかが海斗の腕をパシパシと叩く。


「そんなことないだろ、深月ちゃんに僕のことを知って欲しいって、恥ずかしいことかな?」

「恥ずかしいよ!」

「夕夏にはまだわからないのかな。まあいいや。飲み物でも買って来るよ」


 海斗が席を立つと、夕夏が申し訳なさそうに手を合わせた。


「ごめんね深月ちゃん。お兄ちゃんウザいでしょ? 絶対にストーカーさせないようにするからね」

「あたしは大丈夫だよ。それより夕夏こそ、アマミのことショックじゃない?」


 深月がそう聞くと、夕夏は考え込むように天井を仰ぎ見た。


「うーん……何て言うのかなぁ? 水族館に行った時にね、上田くんが深月ちゃんのことかまってるの見たら、なんか無理だなって思っちゃったんだ。諦めてたから、それほどショックじゃないよ」

「あれは違うよ」

「わかってるけど……もういいの。でも気にはなるよね。上田くんに告白した人って、どんな人なんだろうね?」

「そうだね。フットサルだから活発系の女子じゃないかな?」


 そんな話をしていた時、夕夏のスマホが鳴った。


綾乃あやのちゃんと可奈かなちゃんが梨沙りさちゃんのお見舞いに行ったんだけど、家に居なかったんだって。もしかしたら、占い師の所に行ったんじゃないかって!」

「……まさか」

「これから裏通りに行ってみるって。どうしよう深月ちゃん?」


 深月はとっさに、自動販売機から戻って来る海斗の姿を盗み見た。


「あたし、行ってみるよ。二人に会えたら連絡するから、夕夏は海斗さんをごまかしといて」

「あたしも行くよ。お兄ちゃんには、これから友達と遊ぶって言うから」

「でも」

「大丈夫、まかせて!」


 夕夏が立ち上がって海斗の方へ駆けてゆく。深月はその間に、テーブルの上のプリントを片づけ始めた。

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