第19話 幽霊騒ぎ


 深月みつき夕夏ゆうかは、もう一度顔を見合わせた。


「あの三人って、友達だよね?」

「たぶん。よく三人で、学校の帰りに寄り道してるよ」


 廊下に取り残された綾乃あやのに、二人は歩み寄った。


「綾乃ちゃん、どうしたの?」

「夕夏……」


 涙をぬぐう綾乃を、深月は見下ろした。


「幽霊を見たって聞こえたけど、霊感があるの?」

「ううん。今まで一度も見たことない。でも、さっきは本当に見えたの。信じて!」


 綾乃は本気で怖がっている。普段見た事が無くても、たまたま波長が合って見てしまう事はある。


「うん。信じるから、部屋に入っていい?」

「えっ、うん……」


 綾乃は震える手を伸ばして、可奈かな梨沙りさと一緒の三人部屋のドアを開けた。


「あっれー、篠田さんと夕夏も来たのぉ?」


 部屋の中にいた可奈と梨沙が、あからさまに不機嫌な視線を向けて来る。


「うん。お邪魔します」


 深月は綾乃を追い越して、部屋の中に入った。

 可奈たちの三人部屋は、深月たちの部屋より広びろとしていた。並んだ三つのベッドの他に、机やソファーがゆったりと置かれている。

 深月は部屋の中を見回した。

 確かに何かがいたような気配はあるけれど、幽霊の姿は見えない。


「なぁに篠田さん、ユーレイでも見に来たの?」


 梨沙が嫌な笑みを浮かべている。


「あたし、子供の頃からよく見るの。だから、どんな幽霊がいるのかと思って」


 不思議なくらい、すんなりと言葉が出て来た。

 可奈と梨沙が変な顔をしているのを確認してから、深月は窓の近くに行ってみた。


「あっ……」


 窓の外に人影を見つけて、窓を開けた。

 外のテラスで、小さな男の子が空を見上げている。小学校低学年くらいの男の子だ。


「深月ちゃん、どうしたの?」


 夕夏が深月のそばまでやって来た。


「うん、男の子の幽霊がいる」

「えっ、本当にいるの?」


 夕夏が少し後ずさり、可奈たちがビクついているのが見えた。

 深月はもう一度、男の子の方へ視線を戻した。

 見られていることに気がついたのか、男の子が深月の方へ振り返る。


『おねえちゃん、ぼくのお父さん知らない? ずっと探してるのに、いないんだ。ぼく、迷子になっちゃったんだ』


 男の子の幽霊が、泣きそうな顔で見上げてくる。

 深月は一瞬、アマミと出会った時のことを思い出した。


「ごめんね……お父さんがどこにいるか、わからないんだ」

『そうだよね』


 男の子はがっかりしたようにうつむくと、そのままテラスの手すりを通り抜けて行く。ゆっくりとした足取りで山荘の外を歩く男の子は、とても淋しそうに見えた。

 可哀そうだけど、何も出来ない。ここは知らない土地だし、合宿中は自由に動き回ることも出来ない。


(ごめんね)


 深月は窓を閉めると、綾乃のそばへ行った。


「小学校低学年くらいの男の子の幽霊がいたよ。でも、悪いモノじゃないから大丈夫。迷子の男の子が、お父さんを探してるんだって」


 ホッとしたような綾乃の背後で、可奈が驚いたように目を見張る。


「うっそー! 篠っち、マジで霊感あんの?」


 深月の呼び名が微妙に変わっている。


「良いとか悪いとか、そういうのもわかるわけ?」


 梨沙は冷静な顔で深月を見ている。

 もしかしたら深月の言葉を疑っているのかも知れないが、そんな事はどうでも良かった。


「わかるよ」


 真っすぐに、梨沙の目を見て答える。


「へぇー、すごいじゃん!」


 可奈は信じたのか、ただ面白がっているだけなのかわからない。


「迷子の男の子なんだね。ユーレイは怖いけど、なんか可哀そうだね」


 夕夏がぽつりとつぶやく。


「山で遭難した人かな? 前にそんなニュースあったよね」

「そう言えば、GWに登山した親子が遺体で見つかったことがあったわね」


 可奈と梨沙が遭難の話題をはじめる中、綾乃だけが棒立ちのまま会話に入れないでいる。


「ねぇ、あたしの話は信じるのに、香田さんの言うことは信じてあげないの? 三人は前から友達なんでしょ?」


 深月がそう言うと、部屋の中が一瞬シンとなった。


「だぁって、綾乃のキャラで霊感とかありえないっしょ!」


 可奈が笑い飛ばす。


「でも、廊下にいたとき、香田さんは本当に怖がってたよ。みんなをからかってないことくらいわかるんじゃなの?」

「そうね、その通りだわ」


 梨沙はそう言ったけれど、相変わらず深月を見る目は冷ややかだ。


「友達なら、一言謝った方がいいんじゃない? お邪魔しました」


 深月と夕夏はそのまま自分の部屋に戻った。

  

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