第15話 守矢神社


「今日は、期末テスト前に実施される、オリエンテーション合宿の班を決めます。五、六人で一班です。班長、副班長も決めてください」


 クラス委員の呼びかけで、教室の中が騒がしくなった。


深月みつきちゃん、一緒の班になろうね」


 夕夏ゆうかが声をかけてくれた。

 今までグループ決めをした時には、必ず深月ひとりだけが余ってしまい、数の少ない班に入れられていた。でも、今回は違うらしい。


「夕夏、篠田しのださーん、うちら三人だから混ざろ!」


 派手め女子の可奈かながおいでおいでと手を振ってくれて、深月と夕夏はめでたく五人グループの中に落ち着いた。


「はいはーい、班長が梨沙りさで、あたしは副班ね!」

「嫌だわ、可奈が班長やりなさいよ」

「梨沙はしっかりしてるから班長向きでしょ! あたしは時間とか守れないもん!」


 お嬢さま風の梨沙は抵抗していたが、結局は可奈の言う通りになってしまった。


「ところで、オリエンテーション合宿って何をするの?」


 三人の中では一番ふつう女子の綾乃あやのが首をかしげる。


「えー、知らなーい!」

「あなたたち、何も聞いてなかったの? オリエンテーション合宿は基本勉強よ。蓼科の山荘に一泊して、期末テストの勉強と大学卒業までの過ごし方を教え込まれるのよ」

「うっそー、マジだるーい!」

「さすが梨沙。よく知ってるね!」


 可奈と綾乃がそれぞれ好き勝手なことを言っている。

 三人とも全然違う印象なのに、何となくまとまっているのが面白い。


「ねぇねぇ深月ちゃん、今日の帰り時間ある?」


 夕夏が小声で聞いて来た。


「うん、あるけど?」

「それじゃ、あたしは委員会の用事済ませてから行くから、学園通りの途中にある、神社の隣の公園で待ってて」



 〇     〇


 通学路の途中にある小さな神社の隣に、遊具はひとつもないけど可愛い公園がある。木や花がたくさん植えてある近所の人達の憩いの場だ。


(なぜここで待ち合わせ?)


 夕夏の指示通り来てみたものの、ただ待っているのはつまらなくて、深月は隣の神社にお参りすることにした。

 きちんと手入れされた石段を上ると、小さいけれどきれいなお社があった。お社の周りは木々に覆われていて、まるで森の中に神社があるみたいだった。


(気持ちのいい神社だな)


 なんとなく見覚えがあるから、小さい頃に来たことがあるのかも知れない。

 深月は手水所で手を清め、お社の前で手を合わせた。

 爽やかな風が深月の髪を揺らし、頬を撫でるように吹き抜けてゆく。


「あれ……きみは、あかねさんのお孫さんじゃない?」

「えっ?」


 深月がふり返ると、浅黄色の袴姿の青年が立っていた。

 宮司にしては若そうだし、長めの茶髪を首の後ろで束ねている姿はとても神職には見えない。そのせいか、深月は何だかものすごく違和感をおぼえた。


「……そうですけど、おばあちゃんのことを知っているんですか?」

「もちろん。きみが小さい頃、茜さんと二人でよくうちにお清めに来てたじゃない。もしかして、覚えてないのかな?」


 胡散臭そうに自分を見上げる深月の表情など気にせず、青年はにこやかに微笑みかける。


「なんとなく、覚えてるような……」


 宮司は、もっと年取った人だったような気がした。


「そうだよね。きみはまだ小さかったし、その頃僕はまだ学生だったしね。ここは僕の祖父の神社で、祖父が亡くなってからは、僕がこの神社を守っているんだ」

「はぁ……」


 にこにこしている青年を深月は凝視した。


(見かけによらず澄んでる人だな。この人の周りには何もいない)


 この神社の空気と同じくらい、清浄で爽やかな気配が青年のまわりを包んでいる。


「ええと、たしか深月ちゃんだったよね。いまでも見えるの? 昔はよく、変なものを引き寄せちゃってお清めに来てたんだよね? 祖父が心配してたよ」


 青年の言葉に、深月は息を呑んだ。


「そうなんですか? 覚えてないけど」

「そうか……あの頃のきみは、かなり参ってたからね」


 同情するような視線が、なんだか落ち着かない。


「ああ、ごめん。僕はこの守矢もりや神社の宮司で、守矢景介もりやけいすけといいます。祖父ほどの力はないけど、困ったことがあったらいつでもおいで。僕たちは遠い親戚なんだよ。茜さんとうちの祖父は従兄同士なんだ」

「えっ、じゃあ、あなたも見えるんですか?」


 深月が勢い込んで聞くと、景介はにっこり笑ってうなずいた。


「うん、見えるよ。深月ちゃんほど鮮明には見えないけどね。生まれつきとは言え、いろいろ疲れるよね。怖いものが見えても、まわりの人にはわかってもらえないし、見えないフリするのも疲れるし。深月ちゃんもそうなんでしょ?」

「はい……」


 見える人と話をするのは初めてだった。

 幽霊だったときのアマミは深月と同じモノが見えていたけど、今もう見えない。


「疲れたときには気晴らしにおいで。困ったことがなくても大歓迎だよ」

「ありがとうございます」


 そう答えたけれど、ここに来ることは無いだろう。今は見えることにも慣れたし、生活にはなんの支障もない。

 深月は景介に会釈をして、神社を後にした。 

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