デバッグ & デバッファー

ベホイミProject

Chapter x.0 月夜は無慈悲な異世界の女王

月夜は無慈悲な異世界の女王

 ここは、剣と魔法の世界。

 しかし、それは過去の話。

 神様の気まぐれによって、別世界から勇者が次々と『転生』してきて、この世界のありようを変えた。

 今、青年の目の前に広がるのは、地獄である。

 砂ばかりの不毛の地で、次々と現れる悪魔たちを相手に、たった一人の軍人が生き残らんと立ち向かい、撃ち殺していく。

 悪魔の肉片が飛び散る様は、むごくて、おそろしくて。

 そして、が低かった。


「……なんだこれは?」

「何って、『DOOM』だよ。

 1993年に発売された、ファーストパーソンシューティングゲームの金字塔だ。異世界人のキミにこんな話をしても分からないだろうが、ボクたちハッカーはこのDOOMのあらゆる機械への移植を至上命題としていてね。ホビーパソコンは勿論、カメラや電卓やプリンター、更にはATMやトラクターに移植してのけた猛者までいるって話だ。

 だからボクも先人に習うことにした。随分苦労させられたけど、ついに実現したわけだ。操作方法に難があるから、まだまだ改良は必要そうだけどね」

「……ステータス画面で遊ぶな」


 軍人が銃を握りしめ、地獄を彷徨っていた。

 空中に浮かぶ、狭い『ステータス画面』の中で。

 「ステータスオープン」と命じると現れる、本来体力とか魔力とか、持ち物のリストとか、そういう個人情報が表示されているはずの枠である。

 

「どうだ?凄いだろう!?キミもやってみるか?」

「いや……いい。酒が不味くなりそうだ」

 『デバッガー』宇多川月夜ははしゃぎながら銃を乱射し。

 『デバッファー』ガルシア・クラーレは呆れながら酒を煽った。


 ここは、剣と魔法の世界。

 ただし、壊れかけていた。

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