白い顔



1:ID:ualfn892hd

俺の生まれ故郷には、心霊スポットとして全国的に有名な山があった。大学で入った旅行サークル(毎月何処かに旅行しようという、お遊び九割の気楽なところだ)の先輩にオカルトが好きな人がいて、俺は正直、その人のことが良いなと思っていたから、気を引きたくてその山の話をした。地元じゃ誰でも知ってるくらいの有名な話だった。





「この山は通称生首山と呼ばれている。


江戸時代、名のある武士が落武者として逃げ延びて、俺の故郷に転がり込んだ。その頃には髷は落ちて鎧も捨てて(川を泳ぐ為に捨てたらしい)着物なんかも凄く汚れて擦り切れて、馬なんてとっくに殺して食ってしまっていた。ボロボロになって逃げてきた武士を、村人は哀れんで拾ってやったんだそうだ。一人の若い娘が傷だらけの体を手当てした時、首に下げたお守りを見た。武士は「こればかりは守らねば、何よりも価値があるのだ」と真剣な表情で娘に言った。


娘はこれが妙に気になったまま、武士の泥まみれになった着物を洗った。すると泥で隠れていた家紋が見える様になった。西の方を治めるたいへんに名のある武家のもので、三年飢饉を迎えても民を飢えさせないほど裕福だと風の噂で聞いていた。そんな家のものが、何よりも価値があるというものが、娘は欲しくなってしまった。娘は三日後に都に売られる手筈になっていた。口減しと家への仕送りの為、色を売る仕事に就かされる、心に決めた男がいた娘にとって死を覚悟するほど辛いことだった。金さえあれば自分は救われる、一宿一飯の恩としてこれを貰っても良いはずだと思い込んでしまった。


娘は疲れ果てて眠る武士の首を包丁で切りつけ、お守りを奪い取った。蝋燭を灯して中身を確認すると、それは子供の手の骨だった。


「それは我が子智童丸のものじゃ。人質に奪われ、儂を敵方に寝返らせる為に送られてきた右手じゃ。返せ、返せぇ」


そんな声が背後から聞こえ、娘は振り返った。怒りの形相で固まった武士の生首が宙に浮いている。娘は叫び、家を飛び出した。武士の首は娘を追い、三日三晩追いかけ回して、最後には娘に噛みついて山の頂から共に落ちていった。それ以降息子の手の骨を探す武士の生首が山を飛び回るので、この山は生首山と呼ばれる様になった」




そんな話を聞いて、先輩は「飛頭蛮みたいだね」と言って微笑んだ。やっぱり先輩は可愛かった。知的な眼鏡のよく似合うその笑顔が、俺は大好きだった。


その月は課題やらテストやらが多くて、サークルのメンバーはあまり活動的ではなかった。先輩は「ホラースポットに行きたがる人は少ないから、サークルとして生首山に行くなら今月が狙い目かな」と提案した。俺は乗ったが、他のメンバーは乗らなかった。唯一俺の気持ちを知っている友人Aは優秀な奴で課題もテストも余裕だったはずだが「今回サボってて取り返さなきゃ単位落とす」と言い訳をして、気を遣ってくれたんだとすぐにわかった。俺はその日の内にAに焼肉を奢った。





後日、俺は先輩と二人きりで新幹線に乗り、故郷へと帰った。俺は色々な気持ちになったが、先輩は地図ばかりを見ていたから全然気づかなかっただろう。生首山には特に資源が無い。木の発育もイマイチで、山菜取りに来る人もいない。熊や猪、猿すらも滅多に出ない。完璧に整備された山とは言い切れないが、近所の人たちが時々ハイキングに来るくらいの低い山で、まあ歩く程度には問題はなかった。「山頂まで歩こう、そうして、少しだけ森の中に入ってみよう」祠とかないのかな、首塚とか。と、先輩は楽しそうだった。俺は「祀られている話は聞いたことはないですけど、あったらいいですね」


山頂までの道のりは割愛する。大事なのはその後で、まあ、あったんだ。祠みたいな、子供のいたずらで作ったみたいな60センチくらいの鳥居と祠が。


祠の中には石があった。小さくて少し金色にきらきらしていて、メッキを剥がしたみたいだった。鳥居はシロアリに喰われて今にも崩れそうだった。それで、先輩はその鳥居を触ってしまったんだ。鳥居がぐらっと揺れて、かけた。


ぶつ切りの編集をした時って言えば伝わるかな、急にシーンが変わる感じ。そんな風に、鳥居の向こうに白い顔があって、俺は思わず歯軋りをした。舞妓さんみたいな不自然な真っ白い顔で、じっとこっちを見てた。俺はビビると体が硬直する癖があって、歯軋りもその一つだった。隣にいた先輩は大口を開けて叫んでだ。


そしたら白い顔がにゅるんって伸びて、イラストアプリで無理矢理引っ張られたみたいな、そんな気持ち悪い変形をして細くなって鳥居をくぐってこっちにきた。そして先輩の口の中に飛び込んだ。俺がびっくりして息を止めている間にずるずるっと先輩の中に全部入った。先輩はぶっ倒れて白目を剥いて痙攣していた。俺は急いで先輩を担いで下山した。馬鹿力が出たんだろうな、降りた後、人に会ってすぐに脚と腕が猛烈に痛くなって俺も倒れた。病院で検査してもらったら骨にヒビが入ってたよ。



先輩は精神科に入院することになった。ずっと右手をしゃぶっているって聞いた。

見舞いに行こうにも家族が止めてるらしくっていけないんだ。あれはなんだったんだろう。俺が叫んでいたら俺に取り憑いていたのかな。なんか進展あったら報告しにこようと思います。


2:ID:2hfm874hlo

→スレ主

先輩良くなるといいな、元気出せ



3:ID:poiu85yfdsz

いらない人を探しています いませんか?


4:ID:2hfm874hlo

→3

いないです


5:ID:poiu85yfdsz

わかりました 覚えました ありがとう

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