ピザを切るのは円ちゃんの仕事

水海リリィ

プロローグ 円ちゃんは相席をする

 中高一貫校に通っている中等部二年の僕はファミリーレストランのソファー席に一人で座っている。

 日時は五月の平日、学校終わりの放課後である。

 親が仕事で遅くなるということだから夜ご飯をここで済ませようという考えである。

 渡された金額は千円で、一品二品を注文したらオーバーするような時代であるからよく考えなければならない。


「うーん。何にしようかな……」


 沢山あるメニューの中から高校二年の腹を満たすために構築しなければならないのだ。

 メニューをじっくりと眺めていると驚くべきことが起きた。


「えっ」


 向かい側のソファーに同じ学校の制服の女子生徒が座って来たのだ。

 制服のリボンを見るに高等部の先輩であると分かった。

 高等部であるから中等部の生徒と比べると大人びている。

 彼女を見ると何事もなかったようにもう一枚のメニューを広げている。


「あのー」

「何かしら?」

「誰ですか?」


 彼女は持っていたメニューをテーブルに置いて僕の方をじっと見た。


「私のこと知らないの?」

「ええ、知りません」

「そう、私は土浦円つちうらまどか。高等部三年。特別に、えんちゃんって呼ぶことを許可するわ」

「はぁ、僕は塩見陽介しおみようすけです。中等部二年ですけど」


 お互いに自己紹介したところで僕は本題を切り出した。


「で、その土浦さんがなんで僕の席に相席しているのでしょうか? 席は沢山空いていますよ」

「答えて欲しいの? じゃあ、恥ずかしがらずに円ちゃんと呼びなさい」


 現状僕は目の前の先輩に魅力もなにも感じていないから恥ずかしがることなく呼ぶことが出来る。

 訳の分からん先輩に対してドギマギするような単純な生き物ではない。


「その円ちゃんはなぜここにいるのですか。なんか接点ありましたっけ?」

「よくできました。接点? ないない」

「じゃあなんでですか」


 そう聞くと彼女は再びメニューを開きあるページの場所で手を止め、その料理に指を指した。


「私、ピザが好きなの」


 この瞬間、僕と先輩……円ちゃんとの物語が始まるのであった。

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