第15話 棚からぼたもち ? ①


 本屋さんの中に入ってから栞さんに案内されて、奥のスタッフルームの脇にある入り口から母屋へと招待された。


「ニャア~ 」


 部屋の奥から一匹の白猫が出て来た。


「ルビー、ただいま。

 悪かったね、留守番を押し付けて 」


 俺に抱かれていたサファイアが、一匹の白猫に挨拶あいさつをしていた。


 この子も猫魈か猫又なのか ?


「ルビーは普通の白猫だよ、オッチャン !

 妹分、ボクとは姉妹じゃ無いんだよ。

 だから、人に化けるなんて出来ないからね、オッチャン !」


 べっ 別に期待した訳じゃないからな !


 スリスリと体を擦り付けたルビーを見て、


その娘ルビーは人見知りが激しいのに、初めて会った副岡田さんに愛想を振り撒くなんて、少しけてしまいます 」


 栞さんが微笑みながら言った。

 リップサービス、冗談だよな。


「オッチャンは、だよね。

 さくらやボクだけでなく、ルビーまでタラスなんてジゴロにでも成るつもりかな ?」


「お兄ちゃん ! サファイアだけでも我慢しているのに、まだ増やすつもりかな ?

 温厚なボクでも最後には怒るからね ! 」


 サファイアのせいで、さくらが焼きもちを焼いていた。


 栞さんには『ニャア ニャア』としか聞こえないのか、


「さくらちゃんだけでなく、今日はサファイアまでお喋しゃべりね。

 よっぽど、副岡田さんのことが気に入ったのね。

 サファイアたら、わたしには素っ気ないのに、差別だと思いませんか ? 」


 栞さんに、ここまで心配させて本当に仕方無い奴だよな。

 俺が返事に困っていると、


「ほら、あなた達、いつまでも立っていないで此方に来て座ってから話しをしたらどうなの。

 仲が良いのは良いことだけど落ち着きなさいな 」


 香さんにうながされて、茶の間に通された。


 ストン とサファイアが俺から降りて、香さんの元に寄って行く。

 遼さんがサファイアに手を出そうとしたら、


 パシッ!


 猫パンチで叩き落とされた。


「何で七之助が抱いても良いのに俺はダメなんだよ ! 」


 遼さんは文句を言うが、俺に言っても困るんだが。


「また香ちゃんや栞ちゃんとは違う女の人の匂いがする遼が悪いんだよ !

 また浮気したんでしょう、遼は ! 」


 鼻が良いのか、勘が良いのか、サファイアの言葉が気にかかり遼さんに聞いてしまった。


浮気したんですか、遼さん 」


 グルン !


 遼さんの顔をワシ掴みした香さんが、


か、お前は!

 何処の誰だ、白状しろ !」


 頭を掴んで、ガクガクと揺らしていると話したくても話せませんよ……なんて、言えるはずも無く黙って見守るしかなかった。


「お爺ちゃん、お婆ちゃん、七之助さんが居るんだから、喧嘩けんかは後でしてよ!」


 栞ちゃんの言葉に、ピタリと動きが止まった香さんと遼さん。

 長年連れ添っただけあり、息がピッタリだ。



 ♟♞♝♜♛♚


 お茶と和菓子を頂いて、一息した処で遼さんに切り出された。


「七之助、お前さんが住んでいる古アパートを取り壊すんだって、次の住み家は、決まっているのか ? 」


 そう、古いアパートで人気が無いからこそ、さくらを飼うことを許してもらえたんだ。

 今、ペット可のアパートを探しているけど、なかなか見つからなくて困っていたんだ。

 不動産屋さんに頼んで探してもらっているけど、


「あまりアテにはしないでくださいね。

 ペット可だと、かなり御高い物件しかないんですよね。

 一応、探して見ますけど、見付かるかは……」


 なんてことを不動産屋さんに言われてしまった。

 最終手段として中古物件を探せば、田舎で見付かるかも知れないが、仕事に通うのは大変に成るだろうな、と覚悟していた。



「古民家で良ければ、格安で借りられるぞ !

 どうする、七之助 ? 」


 ニヤニヤと笑う遼さん。

 嫌な予感しかしないんだが、背に腹はかえられない。


「えっ、もしかして、アノお化け屋敷 ?

 お爺ちゃん、何を考えているのよ ! 」


 栞さんの言葉に恐怖した。

 俺は、怪談やホラー映画が苦手なんだが……

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