第15話 ボロ雑巾
葵の目覚めと同時刻
もう1人の少女が目を覚ました。
彼女はつむぎ。
少し前に葵にトドメを刺されたはずの少女だ。
ガバッ
「は...?」
(あたし、なんで生きてんだ...?)
確か...
アイツの道ずれにビルの倒壊に巻き込まれて...
いや、その時は生きてたか。
その後だ。
アイツに心臓を握りつぶされたのは。
ならこれはどういう事なんだ。
胸を触ると心臓の鼓動を感じる。
オマケに手足も動かせる。
まさか...アレは夢だっ...
「ほぇぇ!?」
「!?」
急に変な叫び声が聞こえた。
驚いて声の方を見るとタライを持った女の子が固まっていた。
「お...起きてる...!」
「??」
「よかった〜!あの紙に書いてたのは本当の事だったんだ〜!」
女の子は満面の笑みでつむぎの方へと駆け寄ってきた。
「うわっ」
抱きつかれ、押し倒された。
「信じられます!?あなた少し前までボロ雑巾だったんですよ!
それがいま!こーーーんなに回復して!
すごいですよね!」
それから彼女、"すみれ"からあたしを助けた時のことを無理やり聞かされた。
助けられたのだから聞かないのも悪いと思ったし、なにより拒否権はなかった。
すみれはあの時、たまたま近くにいたらしい。
あの時、急にビルが崩れ始めてビックリしちゃったんです。
ほら、私ビックリすると固まっちゃうんですよね。
あの時の硬直期間は長かったですね。
たぶん20分は固まってたと思います(ドヤ顔)。
でも硬直が解けたあとは中に入ろうとしましたよ。
自分でもなんで入ろうと思ったのかは分かりませんが、たぶんなんとなくですね。
いざ入ろうとビルの周りを見ると、人の入れそうな大きさの穴があったんですよ!
な〜んて偶然!私って運がいいんですね!
(たぶんアイツが脱出するときにあけたんだろうな)
意を決して穴に入ろうとすると、中から誰か出てくるって感じたんです。
予感ってやつですね。
それはもう速攻隠れました!
怖かったんで!
でもちょっとどんな人なのか見たかったんで隠れてみてました。
それで出てきた人を見て本当に驚きました!
だってこ〜んな小さな女の子だったんですよ!
私こんなちっちゃな女の子にビビってたのかー!って。
あ、その女の子が遠くに行くまでは大人しくしてましたよ。
(こいつガキにビビったのか...)
あの子の姿が見えなくなってからビルに入りました。
そこで血まみれでボロ雑巾のような姿のあなたを見つけたんです。
それはもうボロッボロで見てるのも辛いという感じでしたね。
そして、なんやかんや頑張ってここにあなたを運んで私の能力で治療したんです。
「そう」
「そう...ってそれで終わりですか!?」
「えっ」
「普通ありがとうございますですよね!?
命の恩人ですよ!」
め、めんどくせぇ...
でも命の恩人ってのは本当だしな...
なんとなく性格的に勝てる気がしない...
ここは素直に礼言っとくか。
「こ、この度は命を救って頂き
ありがとうございます...?」
「はい!どういたしまして!」
あ、満足そう。
最初からこうしてりゃよかったか。
「あ!そういえば!」
すみれはスマホを取り出した。
「そろそろ今日の死者が更新される時間ですよ!」
ってことは今は夜の9時か。
半日は眠ってたんだな。
「情報共有ば大事ですから一緒に見ましょう!
えっとですね
今日は2名死んでますね
1人は自殺でもう1人は...」
「!!」
「えっ!?どうしたんですか!?」
ど、どういうことだ...
なんであたしの名前が載ってんだ...
「も、もしかして知ってるかただったんですか...
この"天羽つむぎ"って方...
だとしたら私...」
「い、いや...人違いだった」
どういう意図かは分からない。
けどこの状況は意外とアリだ。
ジョーカーとして動いてやる。
「よ、よかったー!私また失礼なことを言ってしまったのかと!
あ、そういえば名前聞いてませんでしたね!
よかったら教えていただけませんか?」
名前...か。
天羽つむぎ...は死んだしな。
そうだな...
「葉月紅葉
葉月でも紅葉でも好きな方で呼んでくれていい」
「紅葉...紅葉さん!
かわいい名前ですね!」
かわいい...か。
とっさに浮かんだ名前でも褒められると...
うれしいな。
新しい名前ができたからなのか、心が軽い。
なんかトゲが小さくなって...
余裕が出来た気がする。
生まれ変わるってこういう事なのか。
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