第28話 見えないアイテム
僕達は、このアビライ町で手厚い歓迎を受けた。
その日の夕食は豪華な魔物肉やエルフ国の果物まで、食事もフルコースだった。
ガランとビクタルは、明日大丈夫なのか?と言うくらい酒も飲んでいた。。
そしてここには、ちゃんとした湯舟が風呂にあるらしく、チーヌやアイネ、イル女性陣は凄く喜んでいたが、シャルヴルは相変わらず無口で、兜を脱ぎもせず食事も口にしていなかった。
この宿は流石この町一をうたっているだけあって、中も外も宿の私兵士があちこちで目を光らせていた。宿泊客にはちゃんと会釈もするし、ちょっとしたVIP扱いを肌身に感じた。
部屋は4人部屋で、男部屋はガラン、ビクタル、ヴィルトスと僕だ。
女性部屋は、チーヌ、イルメイダ、アイネと…シャルヴル…中身は女性らしい…。
金属素材の胴当てと兜を着ているし性別まではよく分からなかったけど…。
ビクタルがそう言うんだから、仕方がない。
ガランもビクタルも部屋に着き次第、寝てしまった。
ヴィルトスは、すでに風呂を終わらせて読書をしている。
「ヴィルトスさん、じゃあ次は僕、風呂行ってきますね」
「うむ。あまり広くはないけど中々良かったですよ」
「へぇ、行ってきます」
この宿は、5階建てで僕らの部屋は3階だった。
驚いたのはなんとエレベーター的な物があったのだ。
吹き抜けの場所があり、そこにある金属板に乗ると各階に数秒止まりながら上へ移動出来る。
下へ降りるときはその隣の吹き抜けの金属板に乗る。
どうやら、この金属板が機械式立体駐車場のように、金属板がぐるぐると回っている感じだ。
風呂は5階にあるみたいなので僕は5階へ向かった。
男用と女用がちゃんと分かれていて、勿論、男用へ入る。
脱衣所には屈強そうな男が数人いた。
そこで裸になり、タオル一枚もって大事な所を隠し浴場へ入ると、壁から滝のようにお湯が流れ出ていて、4畳半ほどの湯舟はお湯で溢れ出ていた。
「おお…」
つい、言葉が零れた。
源泉かけ流しの温泉のような感じで、雰囲気もそこそこ良かった。
僕が入ってくると、場所を開けるかのように上がって行った。
ここの
流石、高い宿だけある。利用する人達も行儀が良いな…。
◇
暫く、湯舟なんて浸かってなかったから気持ちが良かった。
魔法のある世界って、なんだかんだ便利だ。
大体、燃費はどうなのか分からないけど、あの魔石の魔道具があれば風呂なんて何処でも作れるわけで。
あのエレベーターだってそうだ。電気がなくても昇降機の役割をちゃんとしている。
ただ…一つだけケチをつけるとしたら、石鹸が植物か何かの灰汁とかで作ったヤツぽかった事だ…無臭だったけど、本当に綺麗になるのかはよく分からなかったな…。
シャンプーとかもないから、みんなそれで適当に頭を洗っていた。
「ふう…でも気持ち良かったぁ…ん?…この扉の先はベランダかな?」
さっきは気づかなかったけど、風呂の入り口を出ると、目の前は大きなベランダのようになっていて、何人か夜風に当たっている人も見えた。
その中にイルを見つけた。
大きなベランダの扉を開けて外に出ると、心地の良い風が吹いていた。
この宿はこの町では比較的高い建物みたいで、ちょっとした街並みが一望出来て、中々良い雰囲気を醸し出していた。
「イル?」
「あ…イロハさん」
「ここ気持ちいいね」
「うん。久々に湯舟ってものに浸かりました。やっぱ気持ち良いですね!」
「うん」
風に吹かれて、イルメイダの乾ききってない髪が揺れる。
やっぱ…イルって美人さんだよなぁ…
そりゃ、オルキルトさんも自分で作った世界だろうけど、エルフに惚れるのも分からないでもないなぁ…。
何気に照れながらポケットに手を突っ込む七羽。
「ん?」
ポケットに何か…
ああ…ミノタウロスの箱の中に落ちていた脳豆だ。
取り出して、僕は脳豆を眺めてみた。
「イロハさん。指眺めて何してるのですか?」
「え?ああ…いや、これイルは見えないんだよね?」
「それって…指で今、何かを挟んでるんですか?」
「うん、僕が強くなるためのアイテム。僕は脳豆って言ってるけど、チーヌさんには見えなかったのだろうから、気づかなかったみたいだけど、ミノタウロスの箱の中に転がっていたんだよね」
「…そうなんですね…いえ、私にも見えませんわ…」
「そっか…」
この脳豆食べたらまた強くなるのかも知れないけど…。
あれからまだ、そこまで経っていないと言うか…食べてもしまた昏睡状態になってしまうのがちょっと怖いんだよね…。
そう言えば…これってこの世界の人が食べたらどうなるんだろう…。
やはり脳が覚醒するのかな?それとも、門の世界の使用者の僕だけにしか効果はないのだろうか?
「イロハさん何考え込んでるんですか?」
「ああ、いや…これを食べると僕は強くなるのは分かっているんだけど。この間のように昏睡してしまうのも怖いしこのまま持っていたんだよね」
「ああ…あの時はびっくりしました…」
「うん。それで…これってさ、もしイルが食べたりしたら…やっぱり強くなったりするのかな?なんて思ってしまってね」
「私がその見えないやつを…ですか?」
「いやいや、気にしないで。そう思ってみただけだからさ」
「…でも、イロハさんそれ食べてから本当に強くなりましたよね?…出会った時より今では、エルフの私より動きが良いですもの…」
「それは…ほら、イルには話したけど。この世界は僕の世界の人間が強くなるために作られているから…」
イルメイダは、暫く考え込んだ。
「って、イル?」
「それ…食べてみても良いですか?」
「へ?本当に言ってるの?…どうなるか分からないよ?…」
「効果がなかったらなかったで良いじゃないですか?それとも、イロハさん食べるんですか?」
「いや…僕はまだあれから体を鍛えたか?と言うとそこまで鍛えてないから今はまだ食べないで置こうと思ってる。オルキルトさんの本にもちゃんと鍛えてから食べろって書いていたからね」
「なら、試しに食べてみても良いですか?」
「でも…ほら効果なし、又は強くなればそれは良いけど。もし、悪い方向に身体に異変とか起こしてしまったりしたらそれこそ…」
僕は焦ってそう言った。
「でもですよ。そのアイテムは強くなるためのアイテムなんですよね?」
「うん」
「って事はマイナスはないのではないでしょうか?私ももし効果があるのなら強くなりたいです!」
いや…未知すぎるよね…。
この世界の人には見えないアイテムって事は、イルにとって毒なのかもしれないし。
「イロハさん!試させて下さい!」
ずいっと、イルは僕に顔を寄せる。
「あああ…ん~…でもなあ」
「お願いします。私ずっと30年近く、体鍛えて来てますし、でも…やはり女だし、男性より筋力も劣るし、装備以外で強くなるなら試してみたいのです!」
ああ、そっか。確かイルって34歳だったっけ…、エルフって物心ついた時から精霊術とか魔法とか修行するって、メイ婆さんが言ってたっけ…。
なるほど、僕の倍は生きているわけだし、この世界の人達は普通に鍛錬しているし、僕よりは鍛えているって事なんだよなぁ?
僕の最初のステータスは確か、イルとは、知力と魔力以外はそこまで変わらなくらいだったはず…。今僕の脳覚醒は12%で、種族の差はあると思うけど、イルの3倍の筋力や体力になっていたはず。
まあ、一粒の脳豆くらいなら、イルが食べたとしても影響はないと思うけど…。
「う~ん…分かった」
「本当!?やったー」
「…でも、本当に調子悪くなったら言ってよね?それから…万が一の為に、チーヌさんには薬を飲むから、イルの体調が悪くなったら僕にすぐに伝えてと言って置いて貰える?」
「うんうん、なるほどお薬飲んだって言えば、怪しまれないものね!んふふ」
そう言ってイルには見えない脳豆を、イルの掌に乗せた。
「うわ…本当に何かある…小さなドングリくらいの大きさかなあ?はむっ」
「え?…今食べ…ちゃうのね…」
掌に乗せた瞬間、そう言って、すぐにイルは口に放り込んでしまった。
カリコリッ…カリ…ゴクン。
飲み込む音まで聞こえたけど…さあ、どうだ?…。
「いっ!」
「イル!大丈夫!?」
「うん…少し頭がズキっとしただけです。大丈夫」
一瞬、イルメイダは眉を顰めて痛みをこらえた様に見えたので心配した七羽。
「大丈夫…?」
「はい、今は何ともありません。何だったんだろう…これで強くなったのかな?」
「ちょっとまってね」
七羽はイルメイダをすぐに鑑定してみた。
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イルメイダ・アーグラエル
エルフ女性
34歳
体力: 15⇒18
魔力: 29⇒33
力: 9 ⇒11
知力: 28⇒29
器用: 13⇒15
敏捷: 20⇒22
能力: 次元箱 弓術+2 光魔法 水魔法 風魔法+2 火魔法 精霊術
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いや…前見た時のままだ。
違いと言えば風魔法が+2ってなっているような気がしたが、他のステータスには変わりはないようだ。
「どうですか?」
「今の所、たいして前と変わりはないね…」
「なあんだ…効果なしか」
「まあ、明日また見てみよう。他の皆のステータスもついでに見てみたいからね」
「うんうん。明日が楽しみだなーっと!んふふふ」
「いや…僕はマジで怖いんですけど…」
それから5分ほど待ってみたが、イルメイダに変化はなく。
湯冷めしそうだったので、2人は部屋に戻る事になった。
もう一度、明日確認してみよう。
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後書き。
最近本当にスローペースで書いてましたけど。
こうやってすぐに更新も出来たりしますw
今回は考える時間があったにすぎませんが。
数少ないファンのために頑張りますね。
面白かった話には♡や評価等よろしくお願いいたします。
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