　――　11名のみなさん！　お疲れさまでした！　皆様、充実した日々を過ごせましたでしょうか！？　我々の考案した復讐者養成カリキュラム、きっと皆様のお力になれることでしょう！　――

　30日ぶりにテンションの高いアナウンスが流れた。業はサバイバルナイフの手入れをしながら、音に耳だけを傾ける。手慣れた作業は流れるようにスマートに行われていく。

　――　残念ながらカリキュラムを真っ当にできない方が数名いらっしゃいました。その程度の復讐心では、立派な復讐者にはなれません！　皆様には期待しております！！　そしてそして！　明日からは実地研修を行います！　――

　アナウンスで提示された人数は、学科が始まる前――この企画が始まった時の人数から約2割近くまで減っていた。そもそも46名という中途半端な人数というのも、果たしてそれがもともと（・・・・）その人数で（・・・・・）募集していたのか（・・・・・・・・）定かではない（・・・・・・）数字。たとえ中途半端だとしても、『復讐者を募る』という時点で怪しいことこの上なく、また、何があってもおかしくはないのだ。

　それをわかっている人間。業は顔をスピーカーに向け、次の内容に興味を示した。

　――　実務試験は、実際に生きた人間を対象にしたものです！　その名もおおぉぉぉぉぉぉおおっ！！　【フクシュウ】ーーー！！！　――

　今まで以上にテンションの高いアナウンス。今まで表情をほとんど変えてこなかった業でも顔を顰めた。その顔の示す感情は考えずとも察することは容易だ。

　声の後ろから楽器やクラッカーのような音が鳴り響く。声の主は参加者の様子をわかっているはずだ。テンションの高低差は飛び降り自殺ができるほどに開いているだろう。空間認識能力がなく、視界を二次元的にしか理解できない場合を除いて、状況はわかるはずだった。なのに、なのか。だから、なのか。【フクシュウ】とふざけた名前をつけたのは。

　――　皆様はドロケイ、またはケイドロというものをご存じでしょうか！？　警察役が泥棒役を捕まえるという遊びです！　今回は『復讐者（皆様）』と、死刑に相当する罪を犯した『囚人』で行っていただきます！　ドロケイを知っていればもう察しがついてくれますよね？　ですがルールは少し違います！　みなさま正面をご覧ください！！　――

　声が途切れると同時に、室内の明かりが消える。窓も扉もない、外界から閉ざされたこの場では、真っ暗になってしまうはずだった。けれど、そうはならなかった。業のいる部屋、教室の黒板に向かって、光が発せられたのだ。それはプロジェクターと言われる者に相違ない。

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【ゲーム名】

　フクシュウ（復讐版）

【参加者】

　・復讐者（フクシュウシャ）：11名（各5ポイント）

　・囚人（シュウジン）：50名（各10ポイント）

【ルール】

　・復讐者は囚人を殺してください。囚人が所持している10ポイントが加算されます。

　・囚人は復讐者を殺しに来ます。復讐者が所持している5ポイントが加算されます。

　・復讐者は復讐者を殺すことができます。殺された側の復讐者の所持ポイントが加算されます。

　・囚人は囚人を殺すことができますが、ポイントは入りません。

　・ポイントは加算方式です。殺した相手のポイントがそのまま移行されます。

　・復讐者は学科で学んだ方法で殺してください。でないとポイントは入りません。

　・復讐者の学科を学んだ教室は安全圏です。襲われることはありません。

【終了条件】

　・復讐者が全滅する。

　・囚人と復讐者が一人ずつになる。

　　※ 除外条件：両者ポイント獲得無し

【クリア人数】

　・一人

【注意事項】

　・クリア判定までに時間がかかる場合があります。

　・実況中継あり。

　・個人情報保護のため、名前ではなく≪代名詞≫で呼ばせていただきます。ご安心ください。

　・優秀者にのみ復讐の機会が与えられます。

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　――　ルールは簡単！　『復讐者（皆様）』には『囚人』を捕まえてほしいのです！　ただし、ただ捕まえるのではなく、殺してください！　でないと意味がありませんからね。殺し方は学科で学んだ殺し方に限ります！　別の方法で殺してしまうとそれは無効となります！

　　そして、ドロケイと違う点ですが、『囚人』も『復讐者（皆様）』を殺しに来ます！　復讐の際も反撃される可能性はありますし、皆様が復讐対象でないとは言い切れませんよね？　十分にお気を付けください！　『囚人』は刑期を短くするため、皆様を襲ってきます。公表されていませんが、『囚人』の刑期は100年であり、恩赦や今回のようなイベントで刑期を減らすセカンドチャンスが与えられています。『囚人』は皆様を殺すことで5年刑期が短縮されます。いいのですか？　『囚人』が、自分たちのせいで5年も早く自由を得るのです。復讐者が踏み台になってしまいます。なんておかしいことでしょう！？？　おかしいですよね？　不思議ですよねぇ。

　　なので、『復讐者（皆様）』も『囚人』を殺してください！　ポイントは入りませんが、このゲームを勝ち抜いたたった一人の『復讐者』が、復讐する権利を得るのです！！　大丈夫、殺しても罪には問われません。死刑囚だった者や、死刑に相当する罪を持っている者たちです！　同じ夢を持っていても、時には踏み倒す、突き落とす非情さも必要です！　存分に学んだことを実践してください！

　　楽しんで行っていただくため、ポイント制としました！　『復讐者』の方には関係ありませんが、『囚人』はポイントを狙って襲いに来るでしょう！　好ポイント保持者は狙われやすくなりますのでご注意ください！　

　　明日より実施いたします！　復讐者の皆様、本日はどうぞ、心を落ち着かせて明日に供えてくださいませー！　――　

　興奮も冷めやらぬまま、アナウンスはぶつ切りされた。それと同時に消えてしまった【フクシュウ】のルールを、業はしばらく眺め続けていた。手は刃物の柄を強く握っている。なのに、ポトリと一滴、血が床に垂れた。業の顔は紅潮している。目は血走っている。身が震えている。

　興奮冷めやらぬのは、こちらも一緒のようだ。

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