「大丈夫よ、私は魔王だったんだから。私は一人でやってきたんだから」
「エルザからの救援を求める手紙だ……」
セイレンはエルザからの手紙を読み終えた。手紙には、反乱軍のザルトがイシュタラ・ノクターナ帝国の首都を攻めてきているという緊急の報告が書かれていた。エルザはアリシアに救援を求め、エデンヤードにも危機が迫っていることを警告していた。
「なんてことだ……」
セイレンは手紙を握りしめた。
アリシアはエデンヤードの館の中庭で、ルナとレナと一緒にお茶会を楽しんでいた。セイレンは三人に近づき、話しかけた。
「アリシア、ちょっといいかな?」
「ん? 何?」
アリシアはセイレンに気づいた。
「どうしたの? 顔色が悪いわよ」
「実は……」
セイレンは手紙を差し出した。
「これを見てくれ。エルザからの手紙なんだ」
「エルザから?」
アリシアは驚いた。
「何かあったの?」
「読んでみてくれ」
セイレンは促した。
「早くしないと間に合わなくなるかもしれない」
セイレンはアリシアが手紙を読むのを見守った。彼女の表情が次第に険しくなっていくのが分かった。彼女が手紙を読み終えると、彼女は深く息を吐いた。
「私はイシュタラへ行くわ」
「そうか……」
「ザルトは私の元部下だし、私が責任をとらなきゃいけない。セイレン、あなたはエデンヤードに残って」
アリシアはそう言って、セイレンの手を握った。彼女の声には強がりと不安が混じっていた。
「でも、一人で行くなんて危険だよ。ザルトは君に恨みを持ってるし、君の力を狙ってるかもしれない。僕も一緒に行こうよ」
セイレンはアリシアの手を強く握り返した。彼は彼女に心配していることを伝えたかった。
「大丈夫よ、私は魔王だったんだから。私は一人でやってきたんだから。あなたはエデンヤードに残って、人族と魔族の平和を守って。それがあなたの役目でしょ」
アリシアはセイレンの目を見て、そう言った。彼女は彼に自信を持ってほしかった。
「でも……」
セイレンは言葉に詰まった。彼はアリシアの気持ちも分かったが、彼女を見送ることができなかった。
「でもじゃないわ。私は行くわ。あなたはここにいるの。分かった?」
アリシアはそう言って、セイレンの頬に軽くキスした。彼女は彼に別れを告げたかった。
「……分かったよ」
セイレンはやむを得ず、そう答えた。彼はアリシアの決意を尊重した。
「じゃあ、行ってきます」
アリシアはそう言って、セイレンから離れた。彼女は背中を向けて歩き出した。
「気をつけてね」
セイレンはそう言って、アリシアの後ろ姿を見送った。
「アリシア・ノクトゥルナはエデンヤードを出たか」
ザルト・ヴァイオレットは、自分の居城の一室で部下に問いかけた。彼は、アリシアに偽りの手紙を送りつけて、イシュタラに向かわせることを画策していた。
「はい、ザルト様。我々のスパイが確認しました。彼女は、エデンヤードを離れてイシュタラへと向かっています」
部下は恐れおののきながら答えた。ザルトは、自分の呪詛力によって部下たちを支配していたが、それでも彼らは彼に対して忠誠心を持っていなかった。彼らは、ザルトがアリシアに匹敵するほどの力を持っていると信じていたが、それでも彼女に対して敬意や憧れを抱いていた。彼女は、かつて彼らの魔王であり、イシュタラを統べていたのだから。
「ふむ、よくやった。これでエデンヤードは手薄になっただろう。アリシア・ノクトゥルナとセイレン・アイヴァーンを引き離したことで、呪魔法の脅威も去った。我々のチャンスだ」
ザルトは満足げに笑った。彼は、エデンヤードを破壊することで、アリシアに復讐しようとしていた。彼は、アリシアがセイレンと協力したことで、魔族の誇りを汚したと考えていた。彼は、自分こそが真の魔王であり、エルザこそが偽りの魔王だと主張していた。
「では、すぐに出発しよう。エデンヤードに火を放ち、人族と魔族の共存などという愚かな夢を打ち砕こう」
ザルトは立ち上がり、部下たちに命じた。部下たちは恐怖と不安を隠せないまま、従った。
「アリシア・ノクトゥルナよ、お前の裏切りは許さない。お前が帰ってきた時には、お前が愛したものは何も残っていないだろう」
「ザルトの軍勢がエデンヤードへ向かってくる?」
セイレンは、エデンヤードの館の一室で、部下にザルト軍の状況を確認していた。彼は、アリシアがイシュタラに向かったことを知っていたが、それがザルトの罠だとは気づいていなかった。
「はい、陛下。ザルトの軍勢は、エデンヤードの南東の森を抜けて、こちらに迫っています。数は約一万です」
部下は地図を指さしながら報告した。セイレンは眉をひそめた。ザルトの軍勢は、予想よりも早く動き出していた。彼らは、エデンヤードの防衛線を突破しようとしているのだろうか。
「一万か……。我々の兵力はどれくらいだ?」
セイレンは尋ねた。彼は、エデンヤードに残された人族と魔族の兵士たちを統率していた。彼らは、アリシアとセイレンの理念に賛同し、エデンヤードの平和を守るために戦っていた。
「陛下、我々の兵力は約三千です。しかし、エデンヤードには多くの民も避難しています。彼らを守ることも考えなければなりません」
部下は憂慮した表情で言った。セイレンは頷いた。エデンヤードには、ザルトの襲撃を受けて、多くの民が逃げ込んできていた。彼らは、セイレンとアリシアに救われた恩人であり、仲間であり、家族であった。
「分かった。では、こうしよう。エデンヤードの周りに堀と壁を築き、門を閉ざす。そして、魔法陣や罠を準備する。ザルトの呪詛力に対抗するためだ」
セイレンは決断した。彼は、ザルトが自分とアリシアに匹敵するほどの呪詛力を持っていることを知っていた。
「陛下、それでは我々はどうしますか?」
部下は尋ねた。
「我々には、まだ奥の手がある」
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