ルーンの侵略者
第1話 新章×異星人×来訪
シリーズものにありがちなのが、2作目が1作目の数年後の物語というパターンだ。
その点、【ルーンファンタジー】ってすごいよな。
「なんだ、貴様らは」
怪しい二人組に向かって問いかける。
俺の後ろでは不思議な雰囲気の少女がいて、不安げに俺の袖をぎゅっと握っている。
「我々か? そうだな、フサルク星人とでも呼ぶがいい」
フサルク星人と名乗った彼らは全身が灰色で、鎧のような体をしていた。
構造は人のそれとよく似ているが、明らかにこの星の人間ではない。
そして、俺の後ろで縋りつく少女もまた、彼らと同じように灰色の体躯をしている。
「その女をこっちに渡してもらおうか、原住民」
まさか1作目が終わったその日に次の話が始まるなんて想像もしてなかったんだぜ。
◇ ◇ ◇
アルバスとの死闘の後を描いた続編【ルーンファンタジーⅡ】は、フサルクという異星人との戦いを描いた物語である。
話の中心となっていくのはフサルク星から逃げ出してきた一人の少女、フロスヴィンダ。
シロウとの激戦の後、気をよくしていた俺は偶然にも彼女と遭遇してしまい、追っ手であるフサルク星人と向かい合うことになったのだった。
(やっべぇぇぇ! ササリスが宝石を換金してくるって言って離れたからって、完全に気を抜いてた!)
シリーズ2作目ってそんなに1作目と近い時系列の話だったのね!
てっきり1年後とかそんな感じかと思ってたわ!
アルバスがこの世界を去ったその日のうちに始まる物語だったんですね!
「さあ、姫君。おてんばはもう十分でしょう。帰りますよ、あなたを必要とする場所に」
「丁重にお断りいたします!」
フロスヴィンダが俺にしがみつく。
まずいですよ!
(フロスヴィンダを見捨てるわけにはいかない! フサルク星に連れ帰られたらその時点で詰みだ!)
フロスヴィンダは聖痕と呼ばれる傷が体に刻まれたお姫様である。
フサルク星の王は彼女を丁重に育てていたが、その目的は宇宙を支配する儀式の生贄に捧げることだった。
要約すると、フロスヴィンダを引き渡すと、宇宙が滅亡するということである。
「なんのつもりだ、原住民」
近寄ろうとするフサルクから、フロスヴィンダを庇うように俺は立ちはだかった。
(フロスヴィンダを連れていかれるわけにはいかない。かと言って、ここで彼女を助けるのも話がこじれる!)
お前はストーリーの中心人物なんだよ!
シロウの方にいけよ!
なんでこっちに来てるんだよ!
おかしいだろ!
はあ、仕方ない。
ひとまずここは助けるだけ助けて、近くの町で保護してもらおう。
砂漠の町にもいつの間にかたどり着いていたシロウたちだ。
主人公補正に限りなく近い何かで、他のフサルク星人より先にフロスヴィンダを見つけ出してくれるはず。
……ふむ。
意外とありなのでは。
シロウが旅先で出会った不思議な少女。
彼女の話を聞くうちに、シロウは新たな謎に巻き込まれていくことになる。
たとえばこんな感じ。
◇ ◇ ◇
シロウが旅の途中で出会ったのは、全身が灰色の、額に傷跡がある不思議な少女だった。
「なんだって⁉」
「で、ですから、この星に来てすぐのころ、助けていただいたんです。シロウさんとよく似た人に」
シロウとよく似た人物。
それが誰のことなのか、彼にはすぐにわかった。
「クロウだ」
砂漠で激闘を繰り広げて以来、何の手がかりも無かった人物。
その彼が、昨今、各地で騒動を起こしている謎の異星人が探している少女と過去に接触している。
「お願いします、シロウさん! 私を、旅につれて行ってください!」
「え」
「あの人にもう一度会いたいんです! 会って、ありがとうって伝えたいんです! だから、お願いします!」
シロウにはクロウの考えがわからない。
なぜ彼が、このフサルクの少女を助けたのかも、いま何をしているのかもわからない。
ただ、それでも、一つはっきりしていることがある。
「わかった。約束する」
それは、もう一度クロウと会って、話をしなければいけないということだ。
「君を、必ずあいつと会わせる。約束だ」
◇ ◇ ◇
うん、うんうん!
ありじゃないか?
(謎が謎を呼び、ストーリーを進めていく。その牽引力となる謎の一部に、宿敵である俺がいる)
いい。すごくいい。
(何がいいって、シロウが俺を追いかける展開だ!)
やっぱりダークヒーローたるもの、主人公に痕跡を追いかけられてこそだよな!
主人公の進む道は、既に彼が通った道。
そんな人物こそ超えるべき壁にふさわしい。
(よし、決めた。この方向でいこう!)
差し当たりまず最初にすることはこのフサルクの姫君、フロスヴィンダを助けることだ。
「お前らに彼女を引き渡すより、こっちの方が面白そうだ」
妖刀ネフィリムを抜き、片手正眼で構える。
ふむ。それなら、適当に近接戦で時間を稼いでルーン魔法で一人を撃退。
もうひとりは生かして、情報を持ち帰らせる展開にするか。
見えてきたな!
シリーズ2作目における俺の立ち位置が!
「なっ⁉」
「速いッ!」
属性空で身体能力を強化し、フサルク星人との距離を一息で詰める。
あらゆる概念を切り裂く妖刀が、フサルク星人の鈍色の体に斬りかかる。
「調子に乗るなよ、原住民ッ!」
フサルク星人が近くにあった木製の看板に手を掛けた。
すると彼が握った部分から何やら模様が広がって、看板を侵食していく。
見る見るうちに看板を覆いつくした不思議な模様は、すぐさま輝き出した。
光が収まっていくと、姿を変えた看板が彼の手に握られている。
鉄槌だ。
フサルク星人が、身の丈より大きい鉄の槌を俺に向かって振り下ろす。
「潰れろッ!」
地面が揺れた。
鉄槌と大地の接触点を中心に、衝撃波が円形に拡散する。
「ふっ、他愛もない」
「どこを見ている」
「なっ⁉」
円形に広がる衝撃波。
しかしその威力をその身に受けずに済む場所がすぐそばに存在する。
「てめぇ、いつの間に俺の背後を!」
攻撃者本人を壁にした、真後ろである。
(ん、ちょうど
魔法の力、見せてやる。
「
指先で描いた折れ線が、激しい炎となって、鉄槌を握るフサルク星人を焼き尽くす。
「ぐっ、その魔法は、まさか!」
炎に吞まれながら、体を溶かされながら、鉄槌のフサルク星人が驚愕の声を上げる。
「まさか、お前は……っ!」
最後まで言い切る前に、鉄槌のフサルク星人は消滅した。
心臓があった場所に、
「おっと」
二人組のフサルク星人のもう一方、細身の男がすかさず
「想定外だったよ、まさかルーン使いがこの星にいるなんて。それとも、知っていてこの星を選んだのですか? お姫様」
フロスヴィンダは答えない。
「まあいい。ひとまず帰って報告させてもらいます。でも、忘れないでくださいね、姫様」
開いた口の向こうに、不思議な空間が広がっている。
「俺たちは必ずあなたを連れ戻します。では、また」
ところで、ローマ字の総称をアルファベットと呼ぶように、ルーン文字を総まとめにしたものを、人はこう称する。
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