第10話 初配信

「ユウくん、心の準備はいい?」

「少し待って、まだ緊張が収まらない……」


 俺とサリナは予定通り初のダンジョン配信を行うためにダンジョンにいた。

 サリナはモデルの仕事とかで人前に出たり人前で話すことにも慣れているようだが、俺は違う。


 そもそも大勢の人前で話すことが今までなかった。というか、鍛錬に時間を費やしていたから自分から避けていた。

 もっと積極的に人前に出たりしていればこんなに緊張することはなかったはずなのに。


 過去の自分を殴りたい……。


 とはいえ、最初の配信だ。

 そこまで多くの人が見に来るはずもない。だから、あまり気にしなくてもいいはずなんだけど、どうしても緊張してしまう。


「ユウくんは考え過ぎなんだよね。あまり配信のことは気にせずに、どう喋ろうとか深く考えないでいつも通りの自然体のユウくんとして喋ったりしてればいいんだよ」

「そう? 無愛想に見られないかな?」

「そんなこと思う人いないよ。だって、近くにいる私が一緒にいて楽しいと思っているんだから! 大丈夫! 気軽にいこっ!」

「ああ、そうだよな。それじゃ、いつでも開始していいよ」


 サリナは俺といて楽しいと思ってくれていたんだな。

 一緒にいてくれるから良く思ってくれているのは知っていたが、改めて口にして言われるとより一層嬉しく感じる。


 サリナの言葉のお陰もあり、俺の緊張は少しばかり和らいだ。


「それじゃあ、いくよ?」

「うん」


 サリナはDプロの撮影開始ボタンを押す。

 すると、撮影と同時に配信も開始させる。


 配信が開始しても俺はできるだけカメラを気にせずに普段通りダンジョンを進んでいくようにした。

 だが、隣にいるサリナが急に黙り始めた。


「あの、ユウくん……?」

「どうした?」

「ちょっとおかしいことが起きているんだけど……」


 サリナはそう言うと、ダンストの自分たちのチャンネルページに記載されている現在の視聴人数の欄を俺に見せてきた。


「え……? 視聴人数5000人!? いや、まだ伸びてる。6000人いった」

「これどういうこと? 最初の配信ってあんまり見に来てくれないんじゃないの?」


 驚くことに俺たち――ユウサリちゃんねるの初配信には多くの人が見に来てくれていた。やはり、サリナの知名度があれば最初の配信でも多くの人が見に来てくれるんだな。


「やっぱり、サリナの知名度のお陰もあるんじゃない?」

「いや、コメントを見てるとユウくんを見に来た人も多いよ」

「え、そうなの?」

「うん、ほらこれみて」


 サリナが配信のコメント欄を俺に見せてくれる。

 コメントの中には、サリナに関するコメントと同じくらい俺に対してのコメントも書かれていた。


 俺はサリナが人気モデルだから俺に対しての悪意あるコメントなどが来るのではないかと危惧していたのだが、実際にはそういったものは全くなく、『この男の人って、ネットで話題のユウさんだよね!?』とか、『この二人が組むなんて凄すぎ!』といったコメントが書かれていた。


 俺が良く思われていたことを知り、ホッとした。

 これで悪いコメントが多かったらこれから先、サリナと一緒にダンジョン配信をしていくのが大変になっていただろうからな。


「なんかホッとしたよ」

「ユウくんも大人気だね。ほら、もう視聴人数1万人超えたよ」

「え! 数字は言わないでくれ、余計緊張しちゃうから」

「ごめんごめん。私も少し緊張するけどとりあえずいつも通りやろっか!」

「ああ、そうだな」


 今日は初配信だからあまり深くまで潜るつもりはないが、それでも魔物は多く現れる。

 ダンジョン深くの魔物と比べると全然弱いがそれでも油断してしまえば危険な状況に陥ってしまうこともあると聞く。なので、初配信だからと配信ばかり気にして足元をすくわれてしまってはいけない。


 それに、もうサリナに怪我を負わせたくないからな。


 そんなことを考えながら進んでいくと早速魔物が姿を現した。

 ゴブリンが七体現れ、俺たちを睨みつけ、唸りながら威嚇している。前回戦った時よりも数が多いな。


 地上に近ければ近いほど魔物は弱くなるが、その分、集団で行動することが多くなるのだ。それもあって、弱いからと油断はできないのだ。


「いくよ!」

「ああ、油断禁物な」

「もちろん!」


 俺とサリナは前回同様に互いの動きと敵の位置を把握しながら武器を構えながら走り、上手く連携し魔法も使ってゴブリンを圧倒する。


「【重力グラビティ】」


 俺はそう唱えながら敵に左の手のひらを向ける。

 ミノタウロスと戦った時は武器にこの魔法を使ったが今回は数が多いので敵の足を止めるためにそのまま使った。


 ミノタウロスほどの強敵ならそのまま使ってもあまり意味を成さないだろうが、ゴブリンに対しては有効だ。


 俺の魔法を食らったゴブリンたちはうめき声を上げながら、重力に耐え切れずに両膝を地面についていた。

 それを確認したサリナは魔法を使い、すべてのゴブリンを切り裂く。


「【雷の斬撃ライトニング・スラッシュ】」


 斬撃を受けたゴブリンたちは光の粒子となり消え、小さな魔石だけを落としていった。


「さすがだよサリナ」

「ユウくんが重力で敵の足を止めてくれたからだよ!」

「とりあえず配信初めての戦いは勝利だな」

「やったね!」


 俺たちはお互いを褒め合い、ハイタッチをした。


 配信のコメント欄でも盛り上がっているようだった。


【ライブチャット】


:重力系の魔法ってゴブリン相手とはいえ、両膝を地面につけさせるくらい強力な魔法だっけ?


:いや、そんなはずはない。戦いにはあまり使えない魔法のはずだが……


:この二人の戦い方、相性良いな


:この二人、最強のコンビになりそう!


:ユウさんも凄いし、サリナちゃんの攻撃も強かったな!





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