第一章:ぼっち
1-1はぁ、生きるの辛い
あたしの名前は紀文優津子(きぶんゆつこ)、今をときめかなった女子高生らしき生物。
いや、ちゃんと入試には合格して女子高生だけど、ひと月ほどで引きこもりになった訳で現在薄暗い部屋でごろごろしている。
スマホを片手に昼間からごろごろしていると頭が痛くなってくるので、仕方なく起き上がる。
「はぁ、生きるのが辛い……」
なんで世の中はみんな同じ格好をしてみんな同じ時間に学校行って、無理やり仲良くなって大人になっても役に立たなそうな勉強をしなければいけないのだろう?
読み書きそろばんとかお父さんは言ってたけど、それだけできれば生きてはいけるんじゃないだろうか?
幸い義務教育だけは受けたから文字は読めるし、最低限の事は分かっているつもり。
でも高校になると一年生の最初はなんか中学のおさらいみたいな授業だし、慣れない環境で知らない人たちに取り囲まれていると気分が悪くなってくる。
何処の中学校出身だとか、どんな趣味が有るとかわざわざ他の人に話す必要ってあるの?
そんな事をわざわざ言う為に高校に入った訳じゃないし、あたしは別に他の人と関わるつもりはない。
それでもあのうざい熱血教師は「これから一年間一緒のクラスだ、みんな仲よくしよう!」なんてテンションでしつこい。
昭和かよ?
だからあたしの足は学校へと向かわなくなった。
そして数カ月、そろそろクーラー入れないと死にそう。
部屋から出るのは嫌だけど、死なないために親たちが出かけた後のリビングへ遠征に行くとしようか……
あたしは起ち上がり静まった正午過ぎの下の階へと行くのだった。
* * *
「えーと、ポテチは…… あった。 後コーラも」
食料確保しながら暑くなってきたリビングを見渡す。
お父さんは海外赴任でつい先日飛ばされた。
最低二年は帰って来れないらしいけど、あのお父さんなら大丈夫だろう。
お母さんもパートに行っている時間だから三時過ぎじゃないと帰って来ない。
お兄ちゃんは大学一年だから張り切っているし、妹はまだ帰ってくる時間じゃないなぁ~。
そんな事を思いながら戦利品を持って二階に上がろうとすると、お兄ちゃんのだろう雑誌が目に留まる。
ゲーム雑誌だけど、今だに雑誌かよ。
こんなのタブレットで見れるのに、紙媒体だなんてめんどくさいのに。
そう思って思わずそれを手に取ってみる。
そう言えば本を開くのって久しぶりだな?
ぺらぺらとページをめくっていると、とあるページに目が留まる。
「マジカリングワールド?」
なんかやたらと画像が奇麗な写真が載っている。
何のゲームか気になって読んでみるとVRMMOらしい。
確か、このシリーズってもう六年くらい前のゲームじゃないの?
あたしが小学校の小さい時に第一作が出て、その後に開発されたヘッドギアで第二弾がバカ売れしたやつ……
「ゲームかぁ、こっちの世界と違ってあっちの世界は自由なんだろうなぁ~」
なんのしがらみも無く、出てくるモンスターをしばきアイテムをゲットする。
昔、お兄ちゃんとやって結構面白かったイメージがある。
どうやらそれの最新作が出る様だ。
「懐かしいなぁ~、でもアイテム探したりレベルアップしたりと面倒なんだよなぁ~」
あたしは興味を無くし、その雑誌を元の場所に戻す。
そう言えばゲーム機どこやったっけ?
何種類かあったはずだけどいつの間にかどこかにしまわれて忘れて、気がつくと新しいゲーム機を買っていてと。
「まあ、今はスマホのお手軽ゲームがあるから今更凝ったゲームはねぇ~」
そう言いながらあたしは二階の我城へ戻るのだった。
* * * * *
「あ、暑いぃ……」
今日はやたらと天気が良いようでクーラーをつけないともう持たない。
だるいし、ポテチもコーラも既にない。
やる事無くなっちゃってスマホのゲームを起動すると、時間が経たないとエネルギーがたまらないから遊べないとか。
課金すればすぐにエネルギーがたまるけど、こんなモノに死んでも課金なんかしてたまるか。
以前課金してはまっていたゲームなんか突然運営停止になって全てパアになったからね。
あの時の絶望感ときたら、二度とソシャゲで課金なんかするもんかと誓ったものだ。
「はぁ~暇だなぁ~」
言いながらカーテンの隙間から外を見ようとして午後の日差しに危うく灰になる所だった。
日光強すぎ!
引きこもりにいきなりの太陽光は危険だ。
仕方なしにスマホでいろいろ流し見していたら……
「ん? これってさっきの……」
マジカリングワールドの最新作の宣伝がやっていた。
暇なのでその広告を飛ばさずに見ていると、リメイクの部分もあるようでなんかどこかで見たような画面もあった。
「懐かしいなぁ、お兄ちゃんとよくやったけどだいぶ画像も奇麗になったなぁ…… そう言えば、これって最新のやつだからハードも最新のやつかぁ。なになに、仮想現実の世界であなたも自由を手に入れろ? へぇ~そう言えばこれってフルダイブ方式のゲームなんだ……」
この時代技術革新で頭にヘルメットみたいなのをかぶって五感が全てゲームの世界に入って遊ぶのが流行っているらしい。
ネットではもの凄く良いとか、もう現実世界に帰ってきたくないとか言われている。
でも人間だからご飯食べたりトイレ行ったりはしなきゃならないので時間で強制的にログアウト喰らうのが残念だとかも書いてあったな。
流石にバーチャルな世界でご飯食べたりトイレには行けないもんね。
あたしはその画面を見ているうちにその光景に見入ってしまった。
一分近くあるその広告は長いけど懐かしさもあって思わずじっと見る。
「マジカリングワールドかぁ…… 前の古いゲーム何処にしまったっけ?」
言いながらごそごそとクローゼットの中をあさる。
いらな物とかなんだかんだ言って詰め込んでいたから多分ここにしまったはずなんだけど……
「あった!」
これって確か頭にかぶって目の前に画像が出る奴だったな。
コンセントに電源を挿し込んで、コントローラーを手に持ってそれをかぶってみる。
電源を付けて見てしばし。
「うーん、やっぱ壊れてたかぁ~。ああ、思い出した、最後の方ってなんか動きがおかしくなってそれでしまい込んだんだっけ……」
久しぶりにマジカリングワールドやって見よかと思ったけど、壊れていたら遊べない。
私は残念なそのゲーム機を頭から外し床に置く。
「ま、壊れてたんじゃ仕方ない。ゲームは諦めよう」
そう言ってまたこのゲーム機をクローゼットに押し戻すのだった。
* * * * *
「暇だ、暑いぃ……」
あたしの部屋にはなんとクーラーが無い。
本当は高校になったらクーラー入れてもらえるはずだったけど、引きこもってしまいそのお話は止まってしまった。
仕方なく以前の文明の利器を取り出す。
ぱちっ
今年で何回目だろう、クローゼットの奥から引っ張り出した扇風機は電源を入れるとちゃんと動いた。
お風呂上りとかで扇風機の前で声を出して宇宙人ごっこしたりもしたなぁ。
でも今はこの暑さを何とかする為に頑張ってもらいたい。
中の強さでボタンを押すとなんかおかしい。
「あれ? ボタン押してもすぐ戻っちゃう?? まさか壊れたか!?」
弱だと弱すぎ、強だと強すぎるので真ん中の中のボタンを押すけどすぐに戻ってしまう。
仕方なしに弱を押してベッドに転がる。
転がる
転がる……
「だぁ~っ! あっついわぁあああああぁぁぁぁっ!!」
駄目だ全然効かない。
仕方なしに強のボタンを押す。
「おぶっ! 風、つ、強すぎ!! うわぁ、埃が舞うぅ、ああ、置いておいたものが倒れる、吹き飛ばされるるぅううううぅっ!!」
大惨事。
やっぱ扇風機の強って凶悪だ。
慌てて停止ボタンを押す。
「はぁはぁ、これが台風災害ってやつか? でも困った余計に熱くなってきた……」
なんかじっとりと汗までかいて来た。
そう言えば数日間お風呂に入っていない。
なんか肌もベトつくし、髪の毛もごわごわになって来た。
「はぁ、仕方ないそろそろお風呂に入って来るか……」
あたしはまたまた下界へと遠征する羽目になったのだった。
* * *
「今どき二十四時間入れるお風呂って無駄だよねぇ~」
言いながら湯船につかっている。
なんだかんだ言ってあたしも女の子、お風呂が嫌いなわけじゃない。
ただ、引きこもっていると時間の経過が狂ってきて段々と面倒くさくなる。
気付くと数日お風呂に入っていなく、体が痒くなってきて初めてお風呂に無いると言う生活。
アレが来ている時は余計にやばいので、ちゃんとトイレの洗浄機でよく洗ってはいるけどね。
「さて、そろそろ出るか……」
久々のお風呂は確かに気持ち良かった。
脱衣所に出てふと思う。
「しまった、着替えを持ってくるのを忘れた…… 流石にさっきまで穿いていたパンツはもうヤバいよなぁ……」
せっかく奇麗になったのに汚れた下着をまた穿くのは嫌だった。
しょうがないのでバスタオルを巻きつけて部屋に行くか……
「おふっ! バスタオルが切れている!?」
うちは自分用のバスタオルがある訳じゃないのでタオル入れの棚にあるのを使う。
体を小さいタオルで拭いてから大きなバスタオルを使うスタイルなので大きなバスタオルの数は少ない。
最悪今みたいにバスタオル切れをおこす事もある。
「流石に裸のまま二階にまで行くのはなぁ~。 仕方ない、ここは緊急処置だ」
いいながら小さいタオルで腰と胸に巻き付けて脱衣所を出る。
今の時間なら誰にも見られないで済むだろう。
意を決して扉を開けると……
「うわっ! 憂津子なんて格好してんだよ!?」
「あれ? お兄ちゃんもう帰って来てるの??」
廊下に出たら大学生の兄がいた。
何か大きな包みを持って。
「いいから早く何か着ろ、一応お前も年頃の女の子なんだからな!」
「一応とはなんだ、これでもちゃんとしたJKだぞ?」
「JKならなおさらそんな恰好してんじゃない! 誰かに見られたらどうするんだよ!?」
「他の誰に見られる事無いからこれで二階に上がろうとしてるのだけど…… あ、お兄ちゃんになら見られても平気だから」
「いや、妹にそう言われても嬉しくないんだが……」
「なんと! こんな美少女がこんなあられもない姿でいてなんとも思わないのか!?」
「せめて揺れるくらいないとなぁ~」
「にゃにぉおおぉぉっ!」
おのれ不遜な兄め!
こんな美少女がこんなサービス満点な姿でいると言うのになんとも思わないのか?
貴様不能か?
それともアッチ系か?
思わず中指を立てて文句を言ってしまった私の胸下のタオルが……
はらり~
「あ”っ/////!?」
「うわっ! って、なんか小学生の時のままなんじゃないか?」
かっちーん!
妹のこの高貴な生乳拝んでおいてその反応はなんだ?
誰が小学生だぁ!
「お兄ちゃんのばかぁああああああぁぁぁぁああああああぁぁぁぁあぁっ!!!!」
ばきっ!
あたしの怒りの鉄拳が見事にお兄ちゃんの下あごに決まってコークスクリューアッパーとなり天高くお兄ちゃんを殴り飛ばす。
お兄ちゃんはそのまま天高く飛ばされ星になるのだった。
「はぁはぁ、またつまらないものを殴ってしまった…… ん?」
廊下にはお兄ちゃんが持っていた大きな荷物があった。
何となく気になってそれを持ち上げてみるとそれほど重くはない。
ビニール袋に入ったそれを出してみると、それは最新式のあのフルダイブ出来るゲーム機だった。
ぽてっ!
「ん? これは……」
同封で何かが入っていた様で、落ちたそれを見ると「マジカリングワールド」と書いてあるソフトであったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます