第69話・5 仕組まれた会談(5)

 騒動は王の介入により証人尋問の場となった。

――――――――――――――――――――――――

 「その方らに事の顛末に付いて問う、正直に答えよ!」


 侍女と侍従長は跪いたまま深く頭を下げ、「「ハハーッ!」!」とかしこまった。


 空間把握で確認すると、侍女の方は悪夢の支配は薄く、自責の念からほぼ自主的に告白するようです。

 侍従長は悪夢の支配が強く、自分から自白は無理そうなので 強制的(侍従長の心の中に在る何らかの思惑で都合の良い物を取り出して強めた)に自白させるようです。


 「その方らに問う、傭兵クラン”緑の枝葉”に麻薬毒を飲ませたか?」


 王様の問う声はとても厳しく、そして具体的な言葉でした。


 「はいっ」侍女は肯定した。

 「さようでございます。」侍従長は認めた。


 二人が罪を認めると、一瞬王の周りでどよめきが起こった。

 だけど直ぐに王の前へと飛び出てきた人がいた。


 「なんと! うそでございます、二人は嘘を言っています。」


 ディルメント伯爵は二人の言葉になりふり構わず王の前へひざまずくと訴えた。

 王はその様子を見ていたが、どうするか考えているようだった。


 「ディル、その方は余の忠臣じゃ じゃがこの件は政治的な配慮が必要な事柄なのじゃ。」

 「その方はしばらく黙って見ているが良い。」


 王に言われれば黙るしかないのか、ディルメント伯爵は言葉を飲み込むと王の近くで頭を垂れてうずくまった。

 ディルメント伯爵を黙らせて、王は二人に更に聞いた。


 「誰からか指示でもあったか?」


 「ディルメント伯爵様から薬を飲ませ、陛下との会談中に暴れだすぐらいの時間に調整するようにと言われましてございます。」


 侍従長が話した。

 侍女も頷いて、話を肯定して言った。


 「はい、私には部屋に来たら直ぐに飲ます様にと 侍従長から言われました」


 ディルメント伯爵は蹲ったまま身動きもしなかった。

 周りの人たちからは、冷たい視線がディルメント伯爵に注がれている。

 普段から嫌われている人なのかもしれない。

 

 「カーよ、その方らは今回の事件何か心当たりはあるか?」


 王は私とカー爺の前に跪いている二人からこちらへと視線を移し、カー爺に問うてきた。


 「はっ、実は最近 我らは何度か襲撃を受けて居り申す。」

 「それは全て魔女のポーションを寄越せと言うものでして。」

 「その襲撃にディルメント伯爵の孫の一人、商務省第一書記官ルーティルトが関わってます。」

 「今回の件も恐らく同じ事の続きだと お恐れながら申し上げます。」


 「それは裏付けのある事か?」


 「もちろんです! 我らは第一書記官ルーティルトが闇ギルドと名乗る集団に依頼した事実を証拠として提出できます。」


 「そうであるか!」


 少し考えているようでしたが 話始めた声には為政者の威厳が込められていた。


 「この件については良く吟味する必要が在る、寄って!」

 「この件が預かる!!」


 王様が預かると言い出した。

 どうゆう意味だろう? 私にはよく意味が分からなかった。


 「その方らは、引き上げるが良い、とがめだてはせん。」


 カー爺へそう言った。

 このまま無事に帰れるの?

 興奮剤の件は? そっか王様が決めるんだ!

 預かるの意味がやっと分かった。


 「表立っての知らせは無くとも、その方らには追って知らせる、それまで宿で待つが良い。」


 そうカー爺に言った後、周りの家臣に向かって言った。


 「皆もこの件については他言無用じゃ!」

 「しかと申しつけたぞ!!」


 そう言ってここに居る全員にこの件について黙るように命令した。

 私は家来じゃないから関係無いけど、言いふらしたりは初めからするつもりはありません。


 王様は「我は戻るぞ!」と言い放つと、クルリと身を翻しさっさと歩きだした。


 蹲っていたディルメント伯爵も起き上がり、王の後に従った。

 侍女と侍従長も黙ってその行列の最後に加わった。

 結界から出る分には誰でも出れるから、結界はまだ張ったままです。


 王様が来た道を引き返す姿を見ながらこれで終わったのかな? と疑問に思った。

 何せ、王様が預かっちゃったから、誰もこれ以上話を進める事が出来なくなった訳だしね。


 「ねぇ カー爺、私たち勝ったの?」訳が分からなくてカー爺を見上げて聞いた。


――――――――――――――――――――――――

 次回は、この件についての考察です。

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