第54話・2 (閑話)オースネコン国王

 神聖同盟の国々の王様は、突然起こった事案の対応に追われます。

 今回は、オースネコン国の王様の心の内です。

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◆オースネコン国

 王都の名前オースとは、古語では南と言う意味だそうだ。

 ネーコネン一族の中で南に住む一族の国ぐらいの意味なのだろう。


 王様の名はエルランド・オースネコン・ネーコネンだそうで、ネーコネン一族の一人なのは名前を見れば一目瞭然。

 王都オースの町は万一の戦いに備えて城壁こそあるが、商業都市として栄えて来たため城壁を越えて市街地が広がっている。


 この頃では城壁内に住むより、城壁外の市街地に住む方が生活も便利に成り、広い家に住めるので益々市街地が広がっている。

 ミンスト市とは大河ワーカムを船で行き来している。

 下りは4日、流れを遡る事になる上りでは倍の8日掛かる。

 風魔術を行使できる人がいなかった時は、下りで6日、上りだと12日ぐらいかかっていたそうだ。


 昔に比べ河川の整備も進み、街道も広くなった。

 それでも馬車での移動だと最早でも10日はかかるのだから河川交通の重要性は高い。


 さて、王都オースの城壁内の館に住むエランド王の元にミンストネル国のエドワルド王から使者と共に手紙が着いたのは10月の26日昼5時(午前10時)だった。


 *風魔術を行使できるエルフの眷属を雇っている小型快速船だとミンスト市から2日で着く。


 執務室で、使者と挨拶だけの会談をしてその手紙を受け取った。

 国と国の定期的な連絡でも王から王への手紙は直接手渡しするのが礼儀として決まっている。

 国の最高機密事項が含まれる手紙なので、手渡しする習慣が制度化されたのだ。


 その時は何時も行っている、神聖同盟国内での共通認識のための連絡事項だと思っていた。

 それでも側近にも知らせられない機密事項を含む手紙なので、執務室で一人で手紙を読んだ。


 手紙に書かれている事は最近の国際情勢が更に緊迫した危機に直面している事と我らの念願への手がかりが見つかった事の吉凶両方が書かれて有った。


 凶、はスタンビードの発生であり、その元凶の闇魔術師の件だった。

 吉、はエルフの王女マーヤニラエルのミンストネル国訪問だった。


 そして、驚くべき提案がミンストネル国のエドワルド王から有った。

 闇魔術師討伐隊の結成とマーヤニラエルとの友誼を深めるため、ネーコネン一族の王族の集結だ。


 とんでもない事態と提案に頭を抱えたくなったエルランド王だが、手紙に書かれている内容は今後の神聖同盟の国々とって大きな変化をもたらしそうだった。

 お金儲けが大好きなエルランド王は、お金の匂いに”ニタリ”と顔を歪めながら考えた。


 『ふむ、短期的には闇魔術師討伐隊の結成は必要だろう、だがエルフの子を含む傭兵クランに討伐は任せるべきだと思う。』

 『金が出るが、会議の開催国として儲けもありそうだ。』


 『長期的な王族の結集は賛成しても良いが、我が国に適当な人がいない。』

 『長期的な目的なので、今すぐの参加は必要無いだろう、金もかかるしな。』

 『行く行く人材が揃ったら、参加しやすいように闇魔術師討伐隊の結成会議は積極的に賛同する事にしよう。』

 『我が国に神聖同盟の11ヶ国から王族が集まるとすれば、部屋が足りなくなる。』


 そこで少し考えた。


 『ロマナム国、ル・ボネン国、ベルベン国の3国はどうやら始めから排除している様だ。』

 『ロマナム国は戦争当事者だし、ル・ボネン国は裏切者だ。』

 『ベルベン国は何度言っても戦争を止めない。』

 『ミンストネル国王が開催時期を11月26日にしたのもミオヘイネン国がぎりぎり間に合うぐらいだろう。』

 『建前では誘うが、3国も相手がオウミの関係者なら参加出来無いだろう。』


 『8ヶ国ならばなんとかなるだろう。』

 『足りなければ、王宮周辺の貴族の館を借り上げさせれば良い。』

 『金は参加国が負担してくれるだろう。』


 神聖同盟各国から集まる王族への対応に目途を付け、スタンビードへと考えを進めた。


 『前からダンジョンが欲しいと思っていたが、スタンビードの発生を考えると無くて良かった。』

 『ミュリネン国にあるダンジョンからの輸出品はほとんど我が国を経由して各国へと輸出される。』

 『我が国はダンジョン産の物資を右から左へと動かす事で利益を得て来た。』


 そこまで考えを進め、一つの決断をした。


 『将来もダンジョンなど無い方が良い。』


 『我が国の商人は川湊から大河ワーカムを上流にも下流にも行ける。』

 『オース商人は商売になるなら何処へでも行くと評判だからな。』

 『我が国の優位はダンジョンを持つミンストネル国やミュリネン国よりはるかに高い。』


 河川交通では、川上へ遡る船には風の魔術が使える魔術師が居るかいないかで数倍速さが違う。

 櫂で漕ぐには大きな船では、漕ぎ手が大勢必要になる。

 川下への移動でも、風の魔術は安定した運航にやはり必要だ。

 オースネコン国は、エルフの眷属を船の運航に関わる魔術師として数十名雇っている。


 『彼ら以外の風の魔術が使える魔術師か魔法の使える魔女の様な使い手がもっと欲しい。』

 『今後も河川交通で栄えるためにも使い手を育てる事が必要だ。』


 『エルフの眷属以外で、風の魔法が使えそうなオウミ国の魔女は雇えないだろうか?』

 『今回魔女について多くの知識が得られた。』

 『魔女を縛るのに、夫と子供を国元へ置いて裏切りを失くしている事も分かった。』

 『この事は、今後の対応で一家丸毎移住など 選択の幅を広げられそうだ。』


 オースネコン国の商人は儲けに対して貪欲だ、その気質は王も同じだった。

 一見儲けとは関係なさそうな事にも将来性が在ると見ると大金をつぎ込む事もある王だ。


 今年の春終わった戦争でもそうだ。

 オウミ国とロマナム国との戦に人は出していないがお金は出していた。

 立場は中立を表明しているが、それもミンストネル国と言う壁が在っての話で、基本はミンストネル国と同じく竜騎士と魔女の存在を危惧していた。


 そのためのオウミ国への中立宣言とロマナム国への資金提供だった。

 だが状況はオースネコン国に有利な状態で終わった。

 中立宣言で、戦争中も続いていた商取引が終戦で一気に取引量が増えたのだ。


 交易が再開されて動いた商人たちよりも戦争中から取引の有ったオース商人の方が動きは早かった。

 そのほとんどが、オウミ国から魔女の薬を輸入する話を進めていると聞いている。

 馬の背に乗せられて少量の輸入に成功した事は知っていた。


 噂に違わぬ薬の効能だったが、オウミ国で銅貨10枚の薬がオース国では銀貨10枚にもなる。

 今後魔女と繋がりが出来れば、国が主導して輸入できるかもしれない。

 魔女の引き抜きさえできるかもしれない。

 王は、竜騎士は兎も角 魔女の薬が将来手に入りそうだとほくそ笑んでいた。


 こんな時は商売の事を考えると気持ちが上向くが、最後に先送りにしていた厄介毎(闇魔術師の事)を考えねば。


 エルゲネス国とのかかわりのある闇魔術師だと言う事が厄介だった。

 エルランド王は儲かる事は大好きだが、厄介毎は大嫌いだ。


 『闇魔術師はエルフの男だそうだが、問題はエルゲネス国から来ているエルフの眷属たちだ。』

 『他にもゴーレム馬の制作や魔道具に関わる者が滞在している。』

 『問題に成るのは、彼らが全てエルゲネス国出身者だと言う点だな。』


 そこまで考えて、ダキエの樹人関係の者が居ない事に気が付いた。

 ダキエからは灯りの魔道具や嘘判別の魔道具に魔印象などを輸入しているがエルフの眷属は居ない。

 たまにドワーフの一団が回ってくるぐらいで、それもここ十年近く途絶えたままだった。


 『聖樹の変なんて嘘だろうと思ってたけど、女エルフらが樹人の王様たちを倒したのは本当の事だったんだ。』

 『エルフの王太子が逃げて来たのは知ってるし、ダキエで大きな変化が有ったとは思っていたが、妖精族とドワーフ族が滅んだとは思っても居なかった。』

 『詳しく知りたいし、ダキエからエルフの眷属を招く必要がある。』


 海の向こうだと言っても灯りなどの魔道具は輸入するしか手に入れる方法を知らない。

 かと言って、エルゲネス国からの人材に頼っていると、今回の様な場合最悪船が動かなくなる。


 『闇魔術師討伐隊などを結成すれば、彼らが反発するかもしれない。』

 『スタンビードの発生が闇魔術師だと言うのは、どの程度証拠が在るのだろう?』

 『手紙に拠れば”次はミュリネンだ”と言ったらしいが、ミュリネンのダンジョンでスタンビードが発生すれば、我が国への影響はどのぐらい在るのだろう?』


 色々考えたが、今の時点で考える必要は無いし、悪い方向へと考えが向かう事は良くない。

 この件については側近に丸投げで良いだろう。


 エルフの子や魔女に手を出す事は、被害が大きくなるだけで儲けが無い事が分かっただけ儲けものだ。


 『正直、魔女の実力がエルフの眷属並みだとは思っても見なかった。』

 『当然マーヤニラエルと”友誼を結ぶ”事は狙うが、最低でも300年先のことなど正直どうでも良い。』


 『今回の手紙は全体として歓迎できる内容だ。』そう結論付けた。


 ある程度の考えを纏め、側近を呼びだした。


 11月の26日開催を目指し、オースの王宮で闇魔術師と戦う討伐隊の結成に向けての準備を行う事になった。

 エランド王は直ぐに了承した事をミンストネル国のエドワルド王へと知らせた。

 返事を早く届けるために、川を遡って3日でミンストネル国へ着く小型高速連絡船を使った。


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 エランド王 別名 オース一のオース商人

 次回は、ミュリネン国王です。

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