第37話・8(閑話)闇に潜む者

 ミンストネル国の影の組織のお話。

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 闇両替屋のトミー(偽名)が傭兵の一団にすり寄っている。


 何時ものへらへら顔で商売先(犠牲者)に近づいて行った。相手は朴訥な男の様だ、うるさそうにしているがトミーの術中にはまりトミーしか見ていない。

 彼らの常とう手段は、大勢で囲んで脅し偽銀貨と交換させる手口だ。常に小悪党が狙えない強そうな相手を人数で圧倒して脅すやり方をする。


 あくまでも強そうな相手だけだ。集団で脅せる相手しか獲物にしない。予想に反して相手が強ければ、見切りも早いし、逃げっぷりも素早い。


 トミーが狙ってる相手は、女子供をのけると男が3人しかいない、それに対してトミーとその仲間らは10人以上居る。トミーに気を取られ気が付いた時は、周りを武装した男らが囲んでいた。となる訳だ。


 先ほど門で衛兵が何人か騒がしくしていた、恐らくこの傭兵たちが袖の下でも渡して、ミンストの事でも聞いていたのだろう。ミンストが油断できない都会だと聞いているはずだ。

 他所の国から来た傭兵に見えるから。恐らくダンジョンに挑もうととでもいうのだろう。早速洗礼を受ける事になりそうだ。可哀そうだとは思うが、私にとって何時もの事、トミーらの邪魔はしない。


 「まてっ!!」切り裂くような気合と声がした。声の圧だけで動けなくなる。


 声の主を見た。初老の男だが、ものすごい圧を感じる。剣を抜いても居ないのに剣を喉元に突きつけられたような気がする。

 離れた場所でそうなのだから、近くでその圧倒的な気迫をぶつけられたトミーたちはたちまち腰が砕けそうになっている。


 「緑の枝葉?」初老の男が自分達を傭兵のクランだと名乗った。


 ああ、格が違う。そう思った時、トミーらは逃げ出した。相変わらず弱い者に強く、強い者に弱い奴らだが逃げ足だけは早い奴らだ。


 他国から来た傭兵を改めて良く見てみる。男3人と1才位の子供を抱えた女と5,6才位の女の子。見かけは傭兵だ。

 中身も傭兵の様だがとてつもなく強そうな爺さんと、もう一人手練れそうなのが反対側に居る。二人共金剛身のスキルが使える様だ。


 女を注目して見た時、私の魔力視に女が魔力を纏っているのに気が付いた。今の騒動で何かスキルか魔法を使おうとしたのだろうか?

 女は直ぐに魔力を消した。手練れは女が一番かもしれない。オウミの魔女と比べても引けを取らないレベルだ。この国で魔力をあれほどスムーズに出し入れできる者は居ない。


 恐ろしいほど強そうな一団だ。傭兵でクランを組んだ仲間とか家族辺りだろうか?

 1才位の子供は今の騒動でも愚図る様な気配がない。5,6才の女の子も動揺する様子は無い。


 んっ! なんだか違和感がある。女の子の顔が見えているのにぼやける様な、何だろうこの違和感は?

 思い出した! スキルだ。スキルで隠れたり、姿を薄くしたりすると魔力視でこんな風に見える。


 女は二人共魔女クラスか! それとも魔女かもしれない。警戒心が高まるが、心を静める。彼らに気付かれてはいけない。

 それに子供の方は魔道具かもしれない、しれないがバカ高い魔道具など使える程金持ちか?


 ベロシニア子爵の話が浮かんでくる、攫われたエルフの子か?


 ゆっくりと、先ほどまでの歩き方で前へと進む。彼らからたっぷりと距離を取り、見えない場所まで移動して、急いで駆けだす。

 緊急案件だ! 魔女とエルフと見られる女と子供が、手練れの男らを連れて我が国に潜入してきた。


 小走りに急ぐ、町中を抜け、スラムに近い雑多なエリアに入った。


 入ったのは、人の出入りはそれなりに在るスラムに近い建物だ。ここは、店を持たない小商いの商人や町の雑用で糊口をしのぐような者が雑居している。

 独特のリズムでノックした後、3階の端に在る部屋に急がない様に気を付けて入る。そこは「探し物、失せ物、相談事、万事屋よろずやにお任せ下さい」と薄汚れた看板を掲げているが、実際の仕事はミンストネル国の影働きが屯する場所だ。


 「小頭は居るか?」4人ほど居る男らに聞いた。

 「いいえ、でももう直ぐ帰って来ると思います。例のベロシニア子爵の件でダンジョンから帰って来ているか、確認しに行っただけですから。」


 「分かった。」返事をした後、彼らに命令する。


 「緊急事態だ、宿を当たってくれ、傭兵クランで”緑の枝葉”と名乗る一団の宿泊先が知りたい。」

 「1才位の子を連れた女と5,6才の子供が居る傭兵団だ。女は魔女かもしれない。気を付ける様に。」


 「魔女! 分かりました。」そう言うと3人が部屋を出て行った。


 残った一人は書類を出して、今の事を記入している。ただし符丁で書かれているので、見ただけではただの仕入れについて書いた物としか分からないだろう。


 小頭が帰って来たので、傭兵クラン”緑の枝葉”の件を教えた。

 「お頭、宿を突き止めたら、どうしますか?」


 「女の子の方をもっと調べたい。顔を隠しているのは間違い無いだろう。」


 「ベロシニア子爵が懸賞金を掛けたとか言うエルフの子供ですかい?」

 「分からん、オウミの魔女が子供に化けて潜入してきたのかもしれん。」


 「目的が分からんから、先ずは監視して彼らの目的を調べる必要が有る。」

 「飛竜の件じゃあないですか? 今オウミの奴らが探るとしたらその位だと思いますぜ。」

 「かもしれんが、その件はそこまで秘密に動いている訳でも無いから、動き出してからでも奴らなら邪魔できるだろうし、竜騎士が飛んでくればそれだけで撤退する事になるからな。」

 「飛竜の卵は時期的にまだ先ですしね。」


 「それより、宿が分れば一度宿の者に成りすまして調べてみるぞ。」


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 宿でポリィーに追い払われた6人の怪しい者達の閑話でした。

 マーヤは気が付いていませんが、ベロシニアが流した”攫われたたエルフの女の子”と賞金のダキエ金貨が背景に在ります。

 頭も警戒のため町を回っている最中に闇両替屋とマーヤ達の件に遭遇しています。


 マーヤは魔道具で髪と耳と目に肌色まで隠したと思ってますが、魔力視を持つ者には違和感として感じられ、露見してしまいます。

 魔力視を持つ者は少ないですが神聖同盟の各国に居ます。


 宿の件は目を付けたこの国の影の組織が、宿の従業員に成りすまして探りを入れたのが真相です。宿としても国が相手ですから、宿帳を見せる位の協力は惜しみません。


 夜の襲撃は宿の監視用に作られている仕掛けを、影の組織が使って調べようとして撤退したのが真相です。宿も自衛のため怪しい客を監視するように色々工夫しています。客が強盗に早変わりする事など普通に起こる事ですから。


 このお話の段階ではまだ表立って捜査していません。ミンストネル国が今後何らかの動きに出るかは分かりません。


 次回は、いよいよミンストのダンジョンに挑みます。

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