未来、過去、あるいは現在

捻挫

未来、過去、あるいは現在



「――と、言うわけだ」


「え?」「ア?」


「いや、百歩ゆずってゲンの『え?』はわかる。なんなら、歩みらなくても俺たちは理解し合える。だが、ミクの『ア?』はダメだ。理解し合える気がしない」


「え? 今、私何か言ったかしら?」


「いやいや、もう二回目の反応が『え?』の時点で、一回目の『ア?』はわざとだろ……普通、久しぶりにあった幼なじみにいきなりメンチ切ってくるやつがいるか?」


「いないわ。少なくとも、久しぶりにあった幼なじみに開口かいこう一番『――と、言うわけだ』と、何の説明もなしに言われない限りは、いないわ」


「! こいつ開き直りやがった……ゲンはメンチ切ってくる幼なじみをどう思う?」


「うーん、僕はどちらかと言うと、久しぶりにあった幼なじみにいきなり『――と、言うわけだ』って言われた側だから何とも言えないんだけど、あえて言うのなら、何の説明もなしに僕たちに説明しようとしたカコも、それに過剰かじょうみついちゃうミクも悪いと思うよ」


「クッ! あわとは行かなかったか。おい、言われてるぞ、ミク」


「は? 言われてるのはそっちでしょ、カコ?」


「まあまあ、二人とも落ち着いて。今は人が少ない時間だけど、他の人もそれなりにいるんだから、ね?」


「そりゃそうだ。命拾いしたな、ミク」


「それもそうね。これで終わりだと思ってるなら大間違いよ、カコ」


「はぁ、二人ともよくやるよ。それで、カコが僕たちを人の少ない時間の学食がくしょくに呼んだ理由は教えてもらえるのかな?」


「そりゃ、もちろん。大学生の時間は貴重だからな。だが、付き合いの長いおまえらなら、俺がわざわざ言わなくてもわかるんじゃねぇか? 特にそこの女とかな」


「ほんと、いちいちしゃくさわる言い方ね。まあ、今はいいわ。時間が惜しいのはこっちも同じだもの。それで、呼び出した理由ね……たぶん履修りしゅうり合わせじゃないかしら」


「その心は?」


「去年もこの三人で集まって同じことをやったわ。それも私たちが今いる学食でね」


「カコ、どう?」


「……悔しいが、正解だ。やっぱりそいつの記憶力はあなどれねぇな」


「おおー、すごいね。僕の方はサッパリわかんなかったよ。やっぱりいつ見てもミクの記憶力はすごいね」


「!!」


「? どうしたの、ミク? 顔赤いけど?」


「なっ、なんでもないわ。合っていたなら、話を進めてちょうだい」


「そう、ならいいんだけど。ミクはこう言ってるけど、カコはどう?」


「うーん、そうだなー……こうして三人、集まれたのも何かのえんだ。本題に入る前に、俺たちがあまり会えなかったここ一年の話をするってのはどうだ?」


「それはいいね。いくら僕たちが同じ大学の、それも同じ学部に通ってるって言っても、大学生にもなると互いに話す機会がなかなか取れないからね。これもいい機会なのかもしれない」


「私も賛成よ。余裕があるときにこういうことをしておかないと人生なんてあっという間に過ぎていくもの。多少なりとも、話しておきたいことだってあるし……」


「へぇ、僕たちに話しておきたいことがあるんだ?」


「そうね。誰かさんの単位とか、単位とか、単位とか」


「ww その誰かさんってのはきっと世界一の幸せ者だ。ミクにこんなにも想ってもらえてるんだから」


「おいおい、その誰かさんはきっと重い、重いって迷惑してると思うぜ」


「そう。そんな軽口かるくちを叩けるなら、放蕩三昧ほうとうざんまいのあなたでも単位くらいは信用しても良さそうね。単位くらいは、ね」


「二回も言わんでいいし、それくらいはな。それで、天下のミク大先生はどんな状況か聞いてもいいのか?」


「そんなことでいいなら、じゃんじゃん教えてあげるわ。私の単位は上限いっぱいのフル単で余裕の『オールS』よ」


「……」


「? どうしたの、カコ? 急に顔をうつむけて」


「……いやー、まじでミクさんパネーっすわ。まじリスペクトっす。さっきはナマ言ってすんませんした。この通りっす」


「うわー、世界一安い謝罪だー」


「うんうん。わかればいいのよ、わかれば」


「ミクさん、これからもおねしゃす」


「君ら、ほんとそれ好きだよね。そんなにやりたいならいっそ付き合っちゃえばいいのに」


「「それはない!」」


「そう、ならいいんだ……」


「それで、ゲンはどうだったんだ?」


「僕? 僕は可もなく不可もなくって感じかな。たぶん、カコの単位落とさない低空飛行スレスレってわけでもないし、かと言ってミクのオールSみたいに突き抜けてるわけじゃない。それこそ普通ってやつだよ」


「ふーん」「はーん」


「え? 何その反応?」


「なんとなく、ゲンはそう言うと思った。ミクはどうだ?」


「私もそんな感じよ。それこそ、これを答えるのに私の記憶力なんていらないわ」


「なんか僕だけ肩透かたすかしを食らった感じだけど、二人の十八番おはこも見れたことだし、じゃんじゃん行ってみよう」


「あ、これわりとショック受けてるときのやつだ」


「カコ、なんか言った?」


「いや、なんでもないっす」


「ならいいんだ。さっきはミクだったし、今度はカコ行ってみよう」


「まあ、ここは無難ぶなんに春休みの過ごし方なんかどうだ? 幼なじみのよしみで勉強を教えてもらうことはあっても、それ以外の時間では忙しかったからな。三人で会う機会もほとんどなかったし」


「それもそうだね。よし、それで行こう。じゃあ、ミクの春休みはどうだった?」


「春休みの間はずっと家にいて、パソコンの前で資格の勉強をしてたわ」


「うん、大学生らしいと言えば、らしいね。というか、それが本来の大学生なんだろうね」


「そうだな。それに、天下の大学生が休みになっても知識を集めてんのがミクっぽい」


「それは言えてる。じゃあ、気を取り直して、カコ! は……うん、やっぱいいや。えっと、僕は「ちょっと待った!」


「ん? どうしたの、カコ?」


「いや、おまえ今、俺のことスルーしようとしたよな?」


「え! そっ、そんなことないよ! 小学校からカコの幼なじみやってる僕がカコのことスルーするわけないだろ! ミクも言ってやってくれよ」


「そっ、ソウダー オサナナジミのワタシタチがそ、ソンナ? そっ、ソンナことスルワケないよ」


「はぁ、ミクは頼むからもっとやる気を出してくれ。棒読みをするにしても必要最低限のやる気ってやつはあるだろ。あと、おまえら二人とも『そ』に詰まりすぎだ」


「いえ、そもそもあなたが私たちに春休み何をやっていたか、いや、違うわね……『ナニ』をやっていたかなんて聞かなくても知っているわ」


「え? もうおまえら知ってんのか?」


「そうね、誠に遺憾いかんながら、私たちじゃなくても、この大学に通っている学生なら、そのくらい皆知ってるわ」


「そ、そんなバカな」


「それに、今をときめく人気者のカコさんには、イタいイタい二つ名まであるくらいよ。それくらい、あんたは派手にやりすぎたの」


「そ、そんなわけねぇ! 今の時代に二つ名なんて時代遅れもいいところだ!」


「それがあるのよ。私の口からじゃとても言えない、それはそれはずかしい二つ名が。ゲン、ここはお願いできる?」


「もちろん。誰だって二つ名なんて言いたくない。それが、幼なじみのものなら、なおさらだよ。でも、誰かが言わなきゃならない。だとしたら、僕が伝えなきゃならない」


「そ、それだけは頼む。この年になって二つ名なんて勘弁かんべんしてくれ……」


「……ごめん。でも、今から言うよ」


「そんな! 待ってくれ、少しだけ! 少しだけでいい! 俺にも心の準備をする時間があったって「構内こうないに広まっているカコのイタいイタい二つ名は……」


「「……」」


「……ドゥルルル「「今はドラムロールいらない!」」


「え! いらないの?」


「いらないわ。続けて」


「そう……ならいくね。カコのイタい二つは……」


「「「……」」」


「『時代遅れのプレイボーイ』です!」


「!!!」


「……ショック、だと思う。でも、僕たちは知ってるよ。君が僕たちの前ではいろいろと残念でも、君がすごくモテることを。それが君の一部で、君がそれを誇りに思っていることも。第一、カコはこれまでずっと向き合ってきたんだ。僕たちだって、それぐらいのことわかるよ。だから、二つ名のことはカコをやっかんだやからがつけたものなんじゃないかな」


「ゲンの言う通りよ、カコ。あんたはモテるわ、それも非科学的なくらいに。一時期、私に出来る友達の大半が、あんた狙いだったこともあったぐらい、あんたはモテるわ。だからこそ、つけられるかせもあるの。二つ名はそのかせにつけられた名前だと思いなさい。まあ、少なくともかせをそのままにしておく幼なじみなんて私の幼なじみにはいないわ!」


「ありがとよ、二人とも……俺は! 俺は必ず二つ名を何とかしてみせる!」


「そのいきよ、カコ!」


「そうだ、頑張れ、カコ!」


「ああ、頑張るよ」


「あ、そうだ! 一応言っとくと、初めて二つ名のことを聞いたときは僕もびっくりしたよ。今まで何度かカコがらみの厄介ごとに巻き込まれたことはあったけど、二つ名は初めてだったからさ、思わず面食めんくらっちゃった。だって、皆そこかしこで『プレイボーイ』、『プレイボーイ』ってうわさしてるんだよ。幼なじみの僕でもさすがに笑っちゃったよww」


「……」


「はぁ、カコの顔を見て、ゲン。イイ雰囲気が台無しだわ」


「あ、ごめんごめん。完全にオーバーキルだった。てへぺろ」


「はぁ、俺も知ってたよ。おまえがそういうやつだってことぐらいな。それに、なんかいろいろスッキリしたわ。というか、ゲンはいつまでさっきの引きずってんだ」


「わからないわ。そう言えば、ゲンは春休みの間、どうしていたの?」


「うーん、確か……勉強して、息抜きして、バイトして……これと言って特別なことは何もしてないね。良く考えたら、これも普通ってやつになるのかな?」


「「はいはい」」


「僕の扱い雑じゃない?」


「でも、次はセオリー通りに行くならゲンが話題を出す番だけど……何かあるの?」


「そりゃあるよ。僕にも、二人に聞きたいことの一つや二つ、いや、三つや四つ? いや、そんなもんじゃないな……」


「どんだけ俺たちに聞きたいことがあんだよ。全部聞いたら、日が暮れちまうぜ」


「あら、三人で見る夕日もいいものだと思うけど、あまり時間もないしね。ここはゲンの一番聞きたいことを一つだけ言ってもらうのはどうかしら?」


「うんうん、それいいね。何もこれが今生こんじょうの別れってわけでもないし。それにしても、一番聞きたいことかー……」


「……そんなに聞きたいことがあるんなら、パッと思い浮かばないもんなのか?」


「それがそう簡単な話でもないんだよ。たくさん思い浮かんでるからこそ、ひとつだけをすくい上げるのが難しいんだ」


「そういうもんかね?」


「そういうものよ」


「あ、そうだ! じゃあさ、二人の一人暮らしについてとか、どうかな?」


「一人暮らし、なー」


「あら、カコ。こっちを見てどうしたの?」


「いや、この中に一人、おおよそ生活しているとは言いがたいやつがいるんじゃないかなー、と思ってな」


「へー。それで、何が言いたいの、カコ?」


「いや、俺は別にそれがミクだとは言ってないぜ。ただ、その誰かさんの部屋がきっと今頃、立派な汚部屋おべやになってるんじゃないかと思って、心配してただけだ」


「よし、いいわ。おもてに出なさい、カコ」


「ほー。そっちがそのつもりなら、受けてたつぜ、ミク」


「あのー、その件は僕からカコに話すから聞いてほしいんだけど……」


「ん? ミクの問題でなんでゲンが出てくるんだ? ははーん、ついに同棲どうせいでも始めたか?」


「いやいやいや、そうじゃないよ。ただ学期の終わりとか、年度の変わり目とかに僕が勝手に部屋の掃除とかを手伝ってるだけだよ」


「ミク、今の話ホントか?」


「ええ、残念ながら事実よ」


「ま、それもそうか。おまえらに限って一足飛びに同棲どうせいはないし、ゲンが世話になってる家を出るわけもないか。考えが飛躍ひやくしすぎたわ」


「わかってくれれば、それでいいよ」


「そうね。勘違いしてくれれば良かったのに」


「? ミク、今わりと大胆だいたんな言い間違えをしなかったかい?」


「そう? 気のせいじゃないかしら?」


「そっかー。僕の気のせいなら、それでいいんだ。気のせいなら、ね」


「はぁ、全くおくゆかしいことで。そんで、ゲンの方はどうなんだ、叔母さんとはうまくやってるか?」


「まぁ、うまくやってるよ。叔母さんもそこまで家事が得意なわけじゃないし、そこを僕がカバーしてるだけだから。ほら、普通でしょ」


「「……」」


「え? まさかのノーコメント?」


「いや、ただなんか言ってんなーって」


「右に同じよ」


「……なんか、二人ともヒドイね」


「そんなことよりも、ミクだけじゃなくて、叔母さんの面倒まで見てんのか。こりゃ、いよいよ『オカン』と呼んでも差しつかえないレベルまで来てんなー」


「そうかしら? ゲンは家庭的って言うよりかは事務的だし、どちらかと『女将おかみ』の方がイメージに近い気がするわ」


「それも言えてんな。家に帰って着物姿のゲンに迎えられても全然違和感ねぇし……あれ、つーかなんで俺の頭の中でゲンが女っぽい感じで再生されてんだ? 俺のアタマがおかしいのか? それともこの世界がおかしくなったのか?」


「残念、おかしくなったのはあなたのアタマの方よ。前々からおかしいとは思ってたけど、ついにこの日が来たのね。叩けば直るかしら?」


「ミク、叩いちゃダメだからね」


「ゲン、それは『叩くな』の対義語だ」


「そう、ゲンは叩けと言うのね!」


「ほらな」


「ミク、待って! いや、ウェイト!」


「何かしら? 叩く以外に妙案みょうあんでもあるの?」


「いや、それはないけどさ。とりあえず英語に思いとどまってくれて良かったよ。これでカコの残念さがたもたれたね」


「おまえに今、サムズアップされても、素直に喜べない俺がいる」


「気にし過ぎは身体に悪いわよ」


元凶げんきょうその二が何言っても、疲れるだけなんだよなー。わかる? いや、わかってくれ。わかれ?」


「それで、結局のところ、カコの一人暮らしはどんな感じなの?」


「はぁ、スルーかよ。まあ、そうだな……ひとつ言うとしたら、女の子には苦労しない、かな?」


無駄むだにキザったらしいね」


「そうよ。そんなんだから、あんたは『時代遅れのプレイボーイ』なのよ」


「おい、どう考えても今のはネタだろ。なんで、ゲンまで俺を叩く側に回ってんだ? 話が違う」


「ごめんごめん。つい本音がれちゃって」


「これは普通に本気ね。私も見習いたいわ」


「はぁ、ゲンを敵にまわすとホントろくなことがないな」


「それは私も思うわ。というか、あんたの方こそ、ちゃんと暮らせてるの?」


「まあ、なんとかな。なんだかんだ言ってちゃんとしてる子が多いし、そういう子たちに助けられて、なんとかやってる」


「うわー、事実は女の子をえしてるだけなのに、なんかカッコいい」


「私はカコのそういうとこ、昔から嫌いよ」


「二人に言われると、耳が痛いな」


「まぁ、カコの乱れた暮らしぶりはわかったし、そろそろ履修の相談でもする?」


「それはちょっと待って。カコの聞きたくもない話も聞いたし、私はちょっとコーヒーを買ってくるわ」


「おまえら、ホント容赦ねぇな。それと、ミク。俺のコーヒーも頼む。おまえのブラックと違って、甘いなつな。金は後で出すから」


「いやよ、今出しなさい」


「大先生はずいぶんとケチだな。コーヒー代くらいで前払いか?」


「あら、もう忘れたの? 私、言ったでしょ、『あなたの単位くらいは信用してる』って。 裏を返せばあなたのそれ以外は信用してないの。だから、前金まえきん寄越よこしなさい」


「そうかい、大先生。そんなにお金が欲しいってなら、持ってきな」


「あら、殊勝しゅしょうなことね。相応のお金を払ってくれるなら、私が動くのもやぶさかではないわ。現実と違って嘘みたいに甘いコーヒーを買ってきてあげるわ。ゲンは何か飲む?」


「うーん……僕はいいや、まだ家から持ってきたのが残ってるし。ありがとね、ミク」


「お礼なんていいわ。ゲンには普段からお世話になってるもの」


「いやいや、僕の方こそミクにはお世話になってるから」


「見つめ合う二人。イラつく俺。は! さては、これが信用の差ってやつだな?」


「そうよ。カコの扱いなんてせいぜいそんなだし、あんたはそこで甘々のコーヒーがやってくるのを一生待ってばいいのよ」


「コーヒーにどんだけ時間かけんだよ! 待ったとしてもせいぜい一時間だ」


「なら、一時間を過ぎた頃に戻るわ」


嫌味いやみしか言えないのか、おまえは!……ふぅ、やっと行ったか。あいつがいないとせいせいするな」


「ww また、そんなこと言って。照れ隠しもいいけど、カコのそういうところを許してくれるのは、ミクと僕くらいのものだよ?」


「そんなことはおまえに言われなくてもわかってる。心配すんな、フォローぐらいする」


「そっか。なら、いいんだ」


「……いや、このままだと良くないな。だから、今からあいつに感謝されることをしようと思うんだ。ゲン、協力してくれるよな?」


「? 急に協力だけ取りつけようとして、どうしたの、カコ?」


「いや、別に大したことをしてもらおうってわけじゃない。ただ、ちょっと大学での恋愛歴を教えて貰おうっていうそれだけの話さ」


「いや、それ人によっては大したことだし、それがどうやったらカコがミクに感謝されることにつながるのか見えないんだけど?」


「少なくとも、それは俺の口から言えないな。そんなことを言った日には、俺もゲンもミクにしばかれて終わりだ」


「いやいや、ミクがそんなことするわけ………いや、ミクならするね。僕も高校で痛い目見たし」


「あー、確かに高校でそんなこともあったな。ゲンが俺たちに黙ってカノジョと付き合って別れてたことがバレたときの話だろ?」


「そうだよ! あのときのミクがやたら怖くてさ、今でも夢に見るんだよ……うっ! あのときの話したら、なんだかアタマ痛くなってきた」


「いやー、あれは俺たちに隠してたゲンが全面的に悪かったしな。なんなら、何も知らなかった俺までとばっちり食らったし、それが怖すぎて俺も完全に記憶飛んじまってる。ゲンに言われてやっと思い出せるレベルだ」


「え? でも、カコが問い詰められたのは僕に女遊おんなあそびを教えたからじゃなかっけ?」


「……なら、俺も全然悪いな。おまえにときどきそういうこと教えてた記憶はあるし」


「でも、僕カノジョだった子とは遊びとかじゃなくて、真剣にお付き合いしてたんだけど?」


「いや、そりゃ、なおさら悪いだろ」


「あら、二人とも何のお話をしてたの?」


「「!!」」


「い、いや、僕たち大した話はしてなかったんだ。そ、そうだよね、カコ」


「あ、ああ。俺とゲンはただ最近の大学生について話してたんだ」


「そう、二人は最近の大学生の何について話していたの?」


「それは……そう! 最近の大学生における性の乱れについて! は、ムリあるな。すまん」


「はぁ、あなただけなら未だしもゲンもいてその話題はありえないでしょ。カコ、あなたアタマは悪くないのに、ときどき偏差値がグッと下がるのよね。幼なじみとして、将来が心配になるわ。ほら、コーヒーとおつり


「ほっとけ。まぁ、コーヒーのチョイスは悪くねぇ。それに、これもいい機会か。俺はな、ゲンの大学での恋愛歴を聞き出そうとしてたんだよ」


「! そう、だったの。それで?」


「いや、それをまだ聞く前にミクが帰ってきたんだ。そうだよな、ゲン?」


「まぁ、そうだね……」


「それで……ゲンはどうなの?」


「まぁ、隠すことでもないかな。僕もここ一年は忙しかったし、カノジョなんてつくる暇なかったよ。というか、どういう訳かわからないんだけど、大学に入ってから女の子の警戒がすごいんだよね。僕に対して怖がってるというか、距離を置いてるっていうか……どうしてかサッパリわかんないんだけど」


「なんにせよ、良かったな、ミク」


「な、なんのことかな?」


「はぁ、顔赤くして目泳ぎまくってるおまえとやり合う気にはなんねぇな」


「な、なにを! やろうってんなら、やるぞ!」


「ww 草生えるww」


「っ!! やってやる!」


「ミク、ストップ、ストップ! カコもそのスカした顔をやめてあげて、完全にオーバーキルだから」


「そうだな。貸し一つだからな、ミク」


「あら、算数もできないの? 天元突破てんげんとっぱに一つ足したところで意味はないのよ、カコ」


「「……」」


「……二人でにらみ合うのはいいんだけど、そろそろ履修について決めない?」


「「……はぁ」」


「ん? 二人が被るなんて珍しいね。これは雪でも降るかな」


「それなら、履修の前にハッキリさせておくことがあるわ、ゲン。それもあなたのことについてよ」


「ほー、奇遇きぐうだな。俺にも白黒つけなきゃなんないことがあるぜ、もちろんゲンについて、だけどな」


「へー? 内容まで被るなんてこれはいよいよ槍でも降る凶兆きょうちょうかな」


「ま、それに近いな。ミク、たぶんおまえが思ってることは俺と同じだ。くさってもおまえとは幼なじみだからな。こんな大事なときに、言いたいことくらいわかる」


「そう、言いたいことが同じだって言うのなら、私から言うわ。ゲン、あなたはあなたが思ってるほど、『普通』じゃないわ」


「え? 『普通』じゃない? 僕が?」


「そうよ。あなたは『オールS』の私と『プレイボーイ』のカコに挟まれて、自分のことを『普通』だと思ってるかもしれないけど、あなたは間違いなく『非凡ひぼん』な存在よ」


「いやいや、僕なんて大して成績も良くないし……」


「あなた、私のやたら厳しい履修とカコの雰囲気だけの履修に付き合っても成績『普通』なのよね?」


「そう、だけど……?」


「私の履修は厳しい先生が担当してる科目をわざと狙って選んでいるのよ、それにカコの履修は授業が楽しそうか、楽しくないか、その雰囲気だけで選んでいるから、地味に苦戦する科目が多いわ。それなのに、私たちに履修を合わせたゲンの成績は『普通』なのよ。それは『非凡ひぼん』と言えるわ」


「いやいや、でも、春休みは特別なことなんて……」


「おまえ、『普通』に勉強して、息抜きして、バイトしてたんだよな?」


「そうだよ? そんなこと、皆やってることだろ?」


「ミクは資格の勉強、俺は息抜きの遊びに限って、やっと春休み中に実現できた。それをおまえはバイトまでいれて『普通』にこなしてるんだぜ。それは『非凡ひぼん』だろ?」


「そうか。だとすると、叔母さんとの暮らしをしながら、ミクの面倒を見るって言うのは『普通』じゃなくて『非凡ひぼん』だったんだね」


「そうよ。私たちはずっと心配だったのよ。あなたが自分を『普通』だと思い込んで、どこまでも『非凡ひぼん』に突っ走っていくのが」


「それにな、『普通』だと思い込んでいたら見えないこともあったんじゃないのか? 例えば、突っ走ったその先とかな」


「それは……あるかもしれない」


「知ってると思うけど、参考までに言うわ。私が目指しているのは高みよ。この覚える力でどこまで行けるか試してみたいの」


「じゃあ、俺も参考までに。いや、実家継ぐなんて参考にならないか……でも、それまでに遊ぶってのは参考になるかもな」


「そんなの参考にならないわ」


「どう考えてもなるだろ?」


「「ア?」」


「はぁ、二人は僕が考えるとすぐそうやってジャレ合うんだから、でも決めたよ。今から言うね」


「これまで待った甲斐かいがあったわ」


「そうだな。ここに来て、待ったはなしだせ?」


「わかってるよ、もうわかってる」


「「……」」


「僕は――」


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