第20話:最終日とお土産。

 翌朝、食事を終え荷物を纏め、宿を出る。そしてオリエンテーションの最後の学習となるとんぼ玉制作体験に来た。


(まぁ前世で聞いた話だけど、あんまり今までの体験学習が不人気で女子にでも人気がある奴にしようとの事だった)


「なぁ、翔……」


「どうした雨音?」


「いやさ、これ男連中には微妙じゃ無いか?」


「まぁ言いたい事は分かる、でもほら女子に渡そうとしてる男子や、きゃいきゃい喜んでる女子見てて気分はいいだろ?」


「言いたい事は分かるが、男子見てて笑ってるのはBL疑惑が……」


「あ゛?」


「怖っ! 怖いよ!」


「じゃあ変な事言うなよ……」


「すまんすまん口が滑った」


「BとLじゃねーけどほら、あそこに居る男子なんて。同じ班の女子見てソワソワしてるじゃん、見てて微笑ましくね?」


「あーあの二人な……」


「知ってるの?」


「あぁ、同中だからな。あの二人いつの間に……」


「え? 中学の時からよ」


 説明が終わり、自由な作業時間になったタイミングで、弓場さんと檸檬がやって来る。


「マジか、アイツ俺らの前じゃ『彼女居ませんよ~』ってアピールしてた癖に……」


「それはご愁傷様だな」


 歯ぎしりしてる雨音の肩をポンポンと叩きながら励ます。


「それで翔はなんでそんなニヤケ顔なの?」


「ああ、俺はこういうの前にやってて、好きだからさ。それでワクワクしてる」


 前世のオリエンテーションで唯一楽しめた奴なのだ。


「はえ~じゃあお手並み拝見だね」


「それで、佐伯君は何コースにしたの?」


「ん? 上級者コース」


「「「え?」」」


 そんな驚くか……。


「まあみてなって……」


 ガラスをバーナーで炙り柔らかくした後に棒へガラスを着けていく、そのままくるくると回し形を整える。


「そうしたら、模様用の色を入れる」


 今回は青と白で流線形を作るので下地をつける。


「それで熱したガラスをもう一度、っと完成だ」


 冷却用の砂に入れ、冷えたら完成となる。


「「「おーーー」」」


「まぁ、後は気泡を入れたりちょっと模様を描いたりも出来るけど……そこまで材料も無いしね」


 今回は体験学習なので簡単な形のみの制作だ、上級者とはいっても少し大きめの形だったりするだけだ。


「という訳で手伝ってやるし、やってみようぜ」


 それから形作りや色合いの付け方で四苦八苦してる内に今回のメンバー分のとんぼ玉を作る。


(真白は、青地に雪だるまとかで良いか、檸檬は向日葵を、蕾は、コスモスで良いか)


 溶かして、模様を入れて溶かしてを繰り返す。


(藍那は藍色のガラスに菫の花を、弓場さんは紫に牡丹の花を、雨音は単純な模様で良いか)


 そうして簡単コースの雨音は終わり、中級者コースの檸檬と弓場さんは良くわからないキャラクターを作り終えた。


「それじゃあ、冷えるまで休憩時間だからな~」


 担任の先生の言葉にはーいと答えレストハウスへ入って行く、ここはお菓子から意味不明なお土産も売ってるので家族に買って行く人も多いのだ。


「うーむ……どうするか……」


「ん? 何悩んでるの?」


 丁度良く檸檬が来たので聞いてみる。


「由愛にお土産を買うつもりなんだけど、何が良いかなぁーって思ってね」


「お菓子じゃダメなの?」


「俺もお菓子で良いかな~とは思ってるんだけど、どれにするかで悩んでる」


「あーわかる、美味しそうなのも多いし。あっちも良い、こっちも良いで悩むよね」


「だから、ここは由愛の崇拝する檸檬様に買ってもらって、どんな地雷でも笑って流してもらおうと」


「ほーん、私の選ぶのが地雷とな? よしその挑発乗った!」


 意気揚々と腕まくりする檸檬。流石、いろんなお菓子を食べてるだけある。


「それでじゃあ由愛へのは任せて……両親のはコレで良いか」


 よくある『○○な恋人』に似た『灰色の変人』っていうのを選ぶ、生地に炭が練り込まれて灰色のラングドシャクッキーだ。


「よし! これだあぁぁぁぁぁ!!」


 ビシッと取ったお菓子は、綺麗な金平糖だった、どうやら隣でやってるとんぼ玉をイメージして作られていて綺麗な形をしている。


「普通に良さそうなの来たな」


「へへーん、私を崇めなさい」


「はは~、非常に助かりましたぁ~」


 恭しく受け取りかごに入れる。


「それじゃあ買って来るね」


「はーい、いてらー」


 そうしてレジに並んでる途中、ふと目についたお菓子を手に取る。


 そのまま会計して、檸檬の元へ戻る。


「お待たせ」


「お、早かったね」


「そこそこ空いてたからね、檸檬名は何も買わないの?」


「うーん、びびっとくるお菓子が無かった」


「そうか、あの金平糖は?」


「うーん、自分で買うには高すぎるかな~って」


「確かにな、少し高かったけどまぁ由愛の為だしな」


「おっ、お兄ちゃんしてるね~」


「からかうな、恥ずかしい」


「えぇ~良いじゃん良いじゃん」


「あ、そうそう。これ、由愛のお土産選んでくれたお礼な」


 先程の金平糖の入れ物より小さくて数も少ないが、小さなビンに詰められた金平糖を渡す。


「これ……」


「レジ横に小さいのが売ってたからね、由愛も檸檬とお揃いなら喜ぶと思ったからな、じゃあ俺荷物置いてくるよ」


 ぽかんとしてる檸檬に早口で説明して、バスへ向かう。


「いやほんと、こうゆうの慣れんな……」


 そのぼやきながらバスへいつもより速足で向かった。

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