第482話 残酷な、最低最悪のネタばらしに絶望する 前編
「「私達、だめ専なのです」わ!」
(えっ、ええっ、ええええええーーーーー……)
その言葉を頭の中で繰り返す。
『だめ専』
『ダメ専』
『駄目……専』
意味はわかる、が、
それを確認するためにソフィーさんベルルちゃんに問う。
「ええっと、『だめ専』って、ダメな男専用、いや、駄目な男専門で好きな女性の事だよね?」
「そうです、私たちの正体は、『だめ専』です!」
「わたくしたち、『ダメ男』でないと駄目なのですわ!」
お、落ち着こう、
まずは『だめ専』の定義からだ。
「僕の知っている限りのだめ専って、暴力振るったり、働かず借金漬けだったりするような」
「通常、真っ先に思い浮かぶのはそういうタイプの男性のようですね」
「でも、わたくしどもはそういうタイプは好みませんわ、攻撃的な方は力で捻じ伏せられますし」
なら、そうじゃないタイプっていうと……
「あっ、頭が悪かったり、何をやっても上手く行かないようなタイプ、とか?」
「ミストくん、言い方をもう少し、やわらかくしましょう」
「ですわ、能力が人一倍、劣っている方と言うべきですわ」
単なる悪口じゃん!!
「つまり、僕が、人より一番劣っているから、それが、たまらないと」
「そうですね、ミストくんの場合はこの国、一番のだめ貴族でしたから」
「わたくしども、そういった方が好きで好きでたまらない、特殊趣味を持っておりますわ」
な、なんていうことだ……
最高の聖女様がどうして僕の事を好きなのかと思ったら、
単なる悪趣味、一言で言えば『悪食(あくじき)』だっただなんて……!!
「それって、学院で会ってから……?」
「そうですね、一目惚れではありませんが、存在を知ってから観察しているうちに、
徐々に徐々に心が惹かれて行って、三年の時にはベルルちゃんも加わって」
なるほど、じゃあ直接面識がなくっても、
外から見ているだけで面白おかしくって好きになって行ったのか、
じゃあ告白を受けてもらえるまで、僕が知らないのも納得が行く。
「ミストくんへの気持ちが最終的に決定打というか確実なものになったのは、
告白を私が受けた翌日の、馬車でフォレチトンへ向かう出発の時ですね」
「えっ、何かあったっけ?!」
ええっと、Sクラスの男前三人が待ち構えていた時だったよな。
「んもう、棺桶を持ってきたでしょう?!」
「あっそうだ、あれに入れようと」
「ミストくん、嬉しさのあまり、ミストくんが死んだことにしてあれで移動しようとしてたんでしょう?」
えっ?!
「ですわ、ミスト様、アルドライドでは死体は運搬料が無料になるからと、
自らを死んだことにしてソフィーお姉様に運んで貰うつもりだったですわ?」
「う、うっ……うん」
違うけど!
入れようとしたのは、ソフィーさんなんですけれども!!
「それがもう、おかしくておかしくて、そのあたりの駄目っぷりに、
私は『この人です!!』って心の中で叫んでしまったの、あれが私の心を射止めた最後の一撃ね」
「ですわ、わたくしも、このような発想をするダメな方は、他には絶対いないと思いましたわ」
なんだかよくわからないけど、
気に入ってもらえたらしい……うぅ。
「な、なんでまた、だめ専に」
「ミストくん考えてみて、完璧な教会で生まれ育ち、完璧ゆえに妬まれ、命まで狙われ、
そこへ完璧な男性達が婚約者として現れ、命を守って貰うのと引き換えに完璧な妻であり続けなければならない……」
それのどこが、と一瞬思ったが、うん、窮屈そうだ。
「ですわ、何もかも完璧な夫が全てしてくれて、わたくしもそれに合せて完璧でなくてはいけない、
そんな完璧を強いられる人生、どこが楽しいのですわ? そんなもの退屈な拷問のようなものですわ」
退屈っていうけど気も抜けないんだろうな、
その点、僕は公爵なのに気が抜けっ放しという。
はっ、もしかしてソフィーさんベルルちゃん、ここだと気を抜けるってこと?!
「つまり、そういった環境から逃げるために僕を選んだと」
「違うとは言いませんが、一番の理由はミストくんが面白くて好きだからです」
「ですわ、完璧でない、ではなく、だめ過ぎるからですわ、もうそれは才能と呼べる程に」
言っていた『才能』って、だめ男の才能かぁ。
うん、泣きたい、これはとんでもない屈辱だぁ。
「ミストくんは本当に飽きさせないで、私達を生涯楽しませてくれます」
「十年前も家族の前で申し上げましたわ、『負の才能も才能』だということですわ」
「あっ、すでに家族に理由を言っていたって、そういう事だったんだ!!」
僕の『負の才能』が好きだから、結婚するっていう理由を!!
「貴族としては最もだめなミストくんの面倒を見る、このような退屈しない娯楽、
それを一生続けるのが私の喜びであり、ミストくんを好きな、愛する理由です」
「じゃあ、ベルルちゃんも」「わたくしの場合は少しきっかけが違いますわ」
えっ、きっかけ?!
「わたくし、幼いながらに『人の価値』というのを考えた結果、
いつか『人間をペットとして飼ってみたい』と思いましたの」
あー、あれか、例の無理矢理に移植手術させられた事件のせいか。
(って、ペットって!!)
「そ、それで、僕を?!」
「人の命、その重さはよーくわかっておりますわ、
ですから飼っても許される人間はどういう人間か考えに考え抜いた結果が……」
だめ貴族、と。
「じゃあ、僕は、ペット?!」
「ペットという言葉をはっきりと使いたくありませんわ、人間ですもの」
「つまり人間を飼うと、だったら奴隷で」「それは対等ではありませんわ、飼ってはいけないものですわ」
なんとなくベルルちゃんの言っている基準がわかる気はする。
「つまり、ちゃんとした貴族であれば、飼っても許されると」
「その関係であれば、上手くできれば可愛いと褒め、出来ずダメでも可愛いと褒め、ですわ」
「すなわち、ダメ貴族に何かやらせて、成功すれば良し、失敗してもそれはそれで良し、と」「可愛いですわ」
あーこれ完全な駄犬や駄猫に対する反応だ、
それで言ったら僕はさしずめ、駄貴族、駄公爵か、
うん、大陸一、いや世界一高価なペットかもしれない。
「つまり僕は、愛玩動物か何かかと」
「立派な旦那様ですわ、でなければ人を飼って良い訳ありませんもの」
「あっはい、立派なペットです……」「でもわたくしの夫ですわ?」
歪んでる……
大聖女ともなると人をペットにする、
そのペットを公爵のみならず合同教会のオーナーにまで!!
「……はっ、リア先生!」
「ついに知ってしまったか」
「リア先生も、同じにしたんですよね?」
こちらは大聖女ふたりとは違い、
少し罪悪感があるような表情だ。
(年齢のせいもあるかもしれないけど!)
「ああ、だめ男を育てる、意外と悪くは無かったぞ」
「そ、そうなんですか」
「前が完璧すぎる男とつきあっていたんだ、もうこの落差を楽しもうと割りきったら、本当に楽しかった、退屈はしなかったぞ」
とはいえ結構あきれさせていたような。
「エッ、エスリンちゃ~~~ん!!」
見ると眼鏡を直しながら解説してくれる。
「私、言いましたよ、学院のように人にSクラスからGクラスまで位があるとしたら、
GクラスのミストさんはSクラスのソフィーさんベルルさんを選ぶことはできませんが、
逆なら、Sクラスのソフィーさんベルルさんなら、相手の男性をSからGまで好きに選べる、と」
つまりソフィーさんが、ベルルちゃんが、
あえて最底辺のGクラスとなる僕を選ぶのも自由、
そしてあえてその一番下を選びたがるような物好き、悪食(あくじき)だったと。
(うう、こ、こういうときは、困った時は第十二夫人だ!)
「ヒャ、ヒャッコさ~~~~ん!!」
「ひゃひゃひゃひゃひゃ、ワシを呼ぶのじゃ?!」
空中を浮いてやってきたのは……
十年前、ジッポンで捕まえた『黒髪の魔女』だった!!
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