第474話 イジュー先生、最後の授業。 後編

「はい、どうぞ」

「あっ、ありがとうございます」


 イジュー先生の奥様に、お茶のおかわりを貰った。


「ケンちゃんもどーぞ」

「だーかーらー、ケンちゃんゆーな!」


 イジュー=ピッカリ先生の、

 どこに『ケン』ちゃんがかかってるんだろ。


「それで、どこまで話したかの?」

「ええっと、ソフィーさんベルルちゃんが『普通』を造るって」

「そうだ、それじゃ!!」


 お茶をぐびぐび飲み干し、一息つく先生。


「ソフィーやベルルがポークレット家に嫁ぐ最大の理由、それはまあ置いといて」

「お、置いちゃうんですか」

「どうせ、もうすぐわかるのだろう?」


 先生は、ばっちりわかっていると。


「ええっと、僕の予想では」

「それは良いとして、もうひとつの大きな理由は当然わかっておるな?」

「ちょ、ちょっと待って下さい、一番以外の理由っていっぱい聞いた覚えがあるので」


 二番手以降、ベルルちゃんは甘い物目当てなんだよな、あとは……


「あっ、合同教会!」

「そうだ、大教会と聖教会を仲良くさせる、一年前ではとても考えられぬ話だ」

「つまり、それを『普通』にすると」「まあ、そういう事だな」


 食べ終わったでかい箱の弁当を片付ける奥様、

 再びお茶を注いであげる、って後ろにすでに空いてる箱があるな、二箱目か、

 仲人だって披露宴で食事してもらうはずなんだけれども。


「そういえば教会に限らず、訳有りカップルを沢山見ました」

「大教会の信徒と聖教会の信徒が『普通』に結婚できる場所、それがここだ、

 差別なく、区別なく『普通』に愛し合える場所、それはとても大切な『普通』だ」


 そういう意味では自由教と、それのイコールにほぼ等しい合同教会って、

 そういった『普通』の世界を造り出すためには必要不可欠な存在だったんだろう、

 その橋渡し、繋ぎ役に便利に僕を使われた、今更だけど、どこまで計算していたんだろう?


(ここまできたら、まあいいや)


「でもその『普通』は、他所から見たら異端だと」

「これからも大変だろう、今日までは、結婚式までは国王陛下の顔を立てて大人しくしておったようだが」

「あれでですか」「本来ならとっくにフォレチトンで宗教戦争だ、最もソフィーとベルルが即、鎮圧するだろうがな」


 うちの奥さん、半端ねえ。


「つまり、誰もが宗教も何も関係なく『普通』に過ごせる、の『普通』こそが大切だと」

「ああ、だからミストはその『普通』を造って護る事に全力を尽くせ、さすればその『普通』は広がる」

「わかりました、先生の仰られる『普通』の意味がわかった気がします」


 ……そもそもソフィーさんベルルちゃんが教えていてくれた事だよねこれって、

 うん、良い意味で確認になった、さすが僕の恩師、仲人、担任のイジュー先生だ。


「すでに絶対仲が良くならないと言われていた精霊教会と真教会を取り持った話は聞いている」

「先生のお耳にもですか、少し前まで殺し合いをしていたみたいですが」

「それを止めて和平に導いたのが『ミスト=ポークレット新公爵』であるという事は南西の亜人地区全員、知っておるぞ」


(僕、なんにもしてなーーーい!!)


 功労者に仕立て上げられていた事はまあ、

 うっすら聞いていた気はするのだけれども!!

 実際にやったのはボリネー先輩とリア先生の弟さんだよな確か、あとお抱え冒険者。


「ええっと、とにかく平和が普通になる世の中を造る、そういう意味で『普通を造る』って事なんですね」

「うむ、つまりはまあ、そういう事だ」

「わかりました、先生の言う『普通』これが当たり前になるよう、努力します」


 とはいえソフィーさんベルルちゃんが全部、道を作ってくれたんだよな、

 実際に何もしていなかったとしても、こういった事の把握だけでもしておかないと。


「まあ、後はソフィーとベルルを普通に愛せ」

「あっはい、それはもう、ちなみにソフィーさんとベルルちゃんは僕の事を」

「普通には愛してはいないだろうな、『普通』には」「ええぇぇぇ……」


 うちの奥さんの愛は、普通じゃなかった

  だめ貴族だもの。 ミスト


「普通じゃない愛って」

「その答えを聞いて来るが良い、最後の授業は以上だ」

「わかりました、では、失礼致します……奥様も、ありがとうございました!」


 僕はイジュー先生夫妻に頭を下げ、部屋を後にした。


「あっ、リア先生! 普通の服だ」

「話はもう、終わったか」「はい」

「そうか、では行こう……覚悟はできているな?」


 その問いに僕は……黙って頷くしかなかった。


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 ミストが出て行った後の控室では――


「ねえケンちゃん、答え、教えてあげなくて良かったの?」

「……あんな残酷な理由、とてもじゃないが、言えねえな!!」


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「……という事なんですが、『ケン』ちゃんって」

「ああ、それは旧姓だ、婿養子で結婚前は『イジュー=ケンブリック』という名前でな」

「そうだったんですか、それでケンちゃんと」


 コロシアムの来賓正面玄関には、もうみんな集まっていた。


(何気にみんな教会服や私服、愛人はメイド服なのは仕方ないか)


 そしてエスリンちゃんの私服が、かわいい。


「ミストくん、一応、馬車で合同教会までパレードという事になっています」

「そして合同教会から公爵邸までもパレードですわ」

「それってすぐじゃん!」「だからある程度は遠回りをする、良いな?」


 リア先生の言葉に断れるはずがない。


「ではミストくん」「ミスト様」「うん、行こう」


 こうして外へ出た所に待ち構えていたのは……!!

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