第440話 空中ラストバトルの相手に申し分なし!

「ほう、なかなか恰好良いではないか」


 戦闘用の、ポーターではなくいかにも勇者といった白い鎧を着せられた僕、

 リア先生が見惚れているが、うん、それは立派な装備にだろう、

 だって中身は僕だし、僕ごときだし。


(こんなものまで持たされちゃった……)


 そう、三代目『ミストポークレット伝説の剣』である。


「いざとなったら私の合図でそれを使ってくれ」

「あっはい、魔力を込めて光らせれば良いんですね」


 大丈夫かしらこんなので、

 まあいっか演習だし、怒られたらリア先生、

 いやリア騎士団長のせいだ、それも今日で終わりだし。


「ええっとホワイトドラゴンさんよろしくお願いします」

「ガウウゥゥ……」「ひっ」「名前はタムタムだ」「あっはい」


 ということで早速乗ってスタンバイ、

 あっ、当然後ろです、持つ所がちゃんとあって良かった、

 安全紐も腰にくくりつけてもらって、っと……


(今更だけどリア先生って飛竜にも乗れるのか)


 でもこっちじゃ見た事無かったから王都で飼ってたんだろうな、

 それを今日この退役式のためにわざわざ、うん、ありがたい。


(それに乗せて貰える僕も本当ならありがたいんだけれど……)


「あわわわ」

「しっかり捕まっていろ、私の合図まではいがみついているだけで良い」

「はいっ!!」


 ドラゴンが羽ばたきはじめ上空へ、

 うん、あっという間にコロシアムの上だ。


「さあ我らが王国騎士団長、リア様の登場であります!」


 うん、満員のコロシアムをこの俯瞰で見るのは新鮮だ。


「さらには特別に王国飛竜隊の皆さんもいらしております!」


 えっ、と一瞬振り返ると、

 四体か五体くらいの薄茶色なドラゴンがついてきていた!

 うん、これだけの頭数でも立派すぎる戦力だ。


「それでは第二部の開幕演習、リア様と対戦なさるのは、このお方です!!」


 反対側からもコロシアムの向こうからドラゴンがやってきた、

 しかもあっちは黒い、ブラックドラゴンと呼ぶべきか、でかい!

 こっちのドラゴン寄りふたまわりくらい大きいぞ、そして乗っているのは……!!


(恰幅の良い、バケツヘルムを被った、イジュ……モッコス将軍だ!!)


「さあ上空から来場すましたモッコス将軍です!!」


 しかも僕みたいに、あちらの後ろにも誰か乗っている!

 これまた被っているのはバケツヘルムだが小柄の女性みたいだ、

 おそらくこれは、彼女はイジュ、モッコス将軍の可愛らしい奥さんだろうな。


(向こうも後ろに、灰色のドラゴンを五体連れて来ている)


「よし、まずは挨拶だ」


 リア先生の声の直後、

 モッコス将軍と頷き合ってせり出した貴賓席へ、

 国王陛下の前で飛びながら並んで敬礼、僕も、モッコス夫妻も、互いのドラゴンも。


(すっげえ躾けられてるなあ)


 うむっ、という感じの陛下、

 でもこういう挨拶って終わった後にするのでは?

 そんな余裕も無くなるくらい激しい模擬戦が待っているのだろうか。


「さあ陛下へのご挨拶も終わり、各ドラゴンが配置へと向かいます!

 なお、客席は昼休みの間に魔法防御壁が張られておりますのでご安心下さい」


 いつのまに!

 ベルベットちゃんか元盲目聖女ふたりの仕事かな?

 あとはマジカルリスタートの転移テントが張れるふたりか……


「さあミスト、派手な花火を打ち上げようじゃないか」

「ふぁ、ふぁあいいぃぃぃ」


 始まる前からビビりの最高潮に

  だめ貴族だもの。   ミスト


「さあそれではいよいよ第二部開始を告げる、

 リア騎士団長率いるホワイトドラゴン軍と、

 伝説の勇者モッコス将軍率いるブラックドラゴン軍が戦う演習です!!」


 審判はどこだ?

 見当たらないけど開始の合図は……?!


「それでは、はじめっっ!!!」


(場内実況のカテリナさんが、そのまま言うんだ!!)


 その直後、上へと急加速するドラゴン、そして!!


「グエエエエッッ!!」


 口から炎の玉を吐いたあああ!!


(ひええええ!!!)


 モッコス将軍側からも、でかいのがあ!!


「熱っっっつ!!!」

「ミストは喋るな、舌を噛むぞ!!」


(この花火、派手すぎるよおおおおお!!!)


 こうしてリア先生、いや、

 アルドライド王国リア騎士団長の、

 申し分のない相手との空中ラストバトルが始まったのであった。


(負けても真っ黒焦げとか、ないよね?!?!)


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 一方その頃、コロシアムの使っていない倉庫では……


「ルビエン様、無事全員、気絶させました」

「ご苦労様、やはり攻撃してきましたね」


 メイドエルフ三人の前で報告した獣人メイド、

 その後ろにはミストを連れだそうとしていた兵士たち八人が気を失っている、

 それを見てレジーがルビエンに語りかける。


「ここへ閉じ込めて『貴方達は何者ですか』と尋ねたとたん攻撃してくるとは、

 やはり敵が紛れていたという事でしょうか、それとも」

「気絶が解かれればわかるでしょう、この者達自体が敵なのか、それとも……」


 獣人メイドの他のひとりが髪を掴んで顔を確認すると、

 その表情は憑きものが落ちたかのように、安らかであった……。


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「リア先生、後ろ!!」

「わかっているから喋るな!」


 灰色のドラゴン二体が僕らを追尾して炎を吐いてくる!

 一方、モッコス将軍の方にもこっちの薄茶色ドラゴン三体が……!

 すれ違い様、あっちの操縦席の叫び声が聞こえてきた!


「後ろ! ケンちゃん、後ろ!」

「ケンちゃんって呼ぶな!!」


 あーモッコス将軍いやイジュー先生のニックネームかな?

 知り合った時とかの、あるよねまったく本名と関係のないあだ名。


(ってそんなの気にしている場合じゃないや)


 明らかに体格差のあるドラゴン相手の空中戦、

 リア騎士団長ラストバトル、その結末や、いかに?!

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