第401話 オークレースも上の空

 ――嫌な夢を見た。


 王都の城、国王陛下謁見の間、

 そこで僕は皆の前で、陛下のフルネームを告げる。


「本日はお呼び下さりありがとうございます、

 アルドルラド・ゴッフルデルド・ミュシュマレフト・

 ラファンデイデファンフォン・リヒャデバウト……

 エレククス・グランガロス」「不敬である!!!」


 どこをどう間違えたかわからないまま、

 国王陛下が剣を抜きあっという間に僕の首が刎ねられる!!


(あぁ、やっぱり、憶えきれなかったかぁ……)


 空中で見えるのは不気味にほくそ笑むソフィーさんとベルルちゃん!


「やはり駄目でした、計画通りです」

「ですわ、これで最後の後始末は完了ですわ」


 後始末……その言葉に、僕は全てを悟った。


(ああ、そうか、今のフォレチトン、アルドライドに、

 最後の最後で仕上げとして、僕さえ居なくなれば……綺麗にハッピーエンドとなるんだ)


 僕は首だけになったまま涙を流しながら、

 床に転がって……絶望し、そして、目が覚めた。


「ふぁああっっ?!?!」


 ベッドから跳び起きると、

 慌てて扉から獣人メイドが入って来た!


「領主様、いかがなさいましたか」

「い、いや、ちょ、ちょっと怖い夢を見て」

「頭を舐めましょうか」「いやいい、っていうかなにそれ」


 獣人基準の慰めかな?

 確かにボリネー先輩の家へ泊まった夜は全身を、

 ってそんなこと思い出している場合じゃないや。


「丁度朝です、朝食をお運び致しましょうか」

「ええっとソフィーさんやベルルちゃんやリア先生は」

「今夜は遅くなられるそうです、ソフィー様とリア様は」


 という事はベルルちゃんだけ普通に帰ってくるのか。


「んー、特に朝食を誰かと食べるスケジュールは」

「ありません、昼食はコロシアムのお弁当かと」

「えっ、今日は売れ残るの?!」「そういう話では無いかと」


 あっ、この獣人、意外とちゃんと頭良いかも、

 狼系かな、ボリネー邸の記憶だとメスなのにバックを取りたがる……


「じゃあ朝食を」

「獣人料理でよろしいでしょうか」

「構わないけど生肉はやめてね」


 とまあ串焼きと丸パン焼きとミルクの朝食を終えると、

 メイド服じゃなく普通に着飾ったエスリンちゃんがやってきた。


「今日は一緒にオークレースの観覧です、その、エスコートして下さい」

「うっ、うん、わかった」


 僕もノーリさんミランダさんのコーディネートで領主らしく着飾り、

 エルフメイド三人に護衛されながらすぐご近所のコロシアムへ、

 正面来賓入口に飾られている『ミストポークレット伝説の剣』を見るたびに恥ずかしい思いをする。


(こんなの飾ってるから首を刎ねられるんだよ……夢の中で)


 コロシアムの客席に入ると朝にも関わらず半分以上は埋まっている。


(ええっと今日ってそんなに大きいレースだっけ?)


 途中で手に取ったパンフレットを見ると、

 今日は『オーク短距離王決定戦』だって、

 あれだ、スペシャルウィークで長期滞在しているお客が多いからか。


(この日のために来たんじゃなく、来てるからついでに観よう、みたいな)


 ジッポンの一行はまだ来てないみたいだ、

 そういや僕が貰ったクノイチもまだ見てないな、

 席に着くと一般エリアから学友(主に低クラス)が何人か僕に手を振っている。


(お金貸してとか言われそうだから、手を振り返すだけにしておこう)


 今日の全12レース、その出走オーク表を見る、

 うーん、これなら昨夜、時間をかけてじっくり予想するのも手だったな、

 それならあんな嫌な夢も見なくて済んだかも……いやそんな事はわからないか。


「おっはよーございまーっす! 本日も爽やかな朝、爽やかな実況はこのわたくし、

 不毛なオーク実況者こと南国スキャンティーズのサトリョッタめが……」


 さあいよいよ第一レースだ、というのに気分が乗らない、

 やはりあんな夢を見たから……どうしよう、エスリンちゃんに相談するかな。


「エスリンちゃん」

「は、はいっ」

「その……オークレースどうやって買ってるの?」「か、勘でっ」


 勘かぁ~。


(ってそんな会話している場合じゃない)


「ええっとごめん、エスリンちゃん」

「はい」

「ちょっと抜ける、ううん、メインレースくらいまで抜ける」


 せっかくのエスリンちゃんとの青空らぶらぶオークレースデートだけれども、

 今のこんな精神状態じゃあ、とてもじゃないが楽しめない。


「コロシアムでのオークレースって結婚後も何度も何度もやるみたいだからさ、

 その時に、近いうちに、僕が怒られてでもまた、ふたりっきりの観戦の時間を作るから」

「……何か大切な用事でも」「うん、そうだね」


 僕は慌てて全十二レースの予想をほぼ適当に済ませ、

 オーク券の申込書に記入する、うん、だいたいこんなもんだ。


「じゃあ買ってから出るから、遅くともメインレースには帰ってきたいけど」

「わかりました、後はお任せ下さい」「では我々は」

「メイドエルフは……エスリンちゃんを護ってて」


 一人で出歩いても大丈夫、だよね?


「若、それでしたら」「我々が若を護衛致します」「うっわ、クノイチさん!!」


 いつのまに、どこに居たんだ……


「じゃ、じゃあ、よろしく頼むよ、そ、それじゃ」


 こうしてオークレース券全12枚購入後、

 コロシアムをこっそり抜け出したのであった。

 後ろで音響装置によるサトリョッタの声が!


「それではここで主催のミスト=ポークレット侯爵に……あれっ?!」


(そういうのは前もって打ち合わせしてーー!!)


 まったく間が悪い……

  だめ貴族だもの。 ミスト


(よし、まずはリア先生からだ!!)

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