第396話 スペシャルウィーク二日目も満員ですよ!

「ええっと、アルドルラド・ゴッフルデルド・ミュシュマレフト・ラファンデイディフィアン……あひっ、舌噛んだ」


 国王陛下の名前を覚えるので必死な僕、

 せっかく闘技大会が開始前から満員だというのに、

 もし今日、国王陛下が来て『我の名は』とか言われたら、と急に焦っている。


(不敬は無いって何度か言われたけど、あれはあの時、その時々だからね)


 こういうのって本当は学院時代に学ぶ事、

 いや下手するとその前の学校で覚えさせられる事だぞコレ?

 それを今更、特別観客席で必死になって覚える領主しかも公爵内定者という。


(本来なら物凄く恥ずかしいのはわかっています、ええ、だめ貴族ですから)


 そんな僕にも容赦なく来賓客が挨拶に訪れる。


「ミスト=ポークレット侯爵!」

「あっはい、ええっと、ルメルーノ公爵、ようこそおいで下さいました!」

「私の姉を助けてくれて感謝する、あの女神像は噂以上だったみたいだよ」


 ええっと確か、この人は中立派でしかも別派閥寄りだった公爵家だ、

 だから身内を女神像内部まで入れるコネを使いたがらなかったって、

 さっきまで読んでた小冊子に書いてあった、という事は……


「ルメルーノ公爵が味方になっていただけると助かります」

「ほう話が早い、我々の派閥も受け入れてくれるか!」

「そ、そのあたりは、ここの立ち話では何なので」


(あーあ、もう両手でガッチリ握手されちゃってるう!!)


 これ絶対、時期尚早ってやつだ!

 僕の左右に居るソフィーさんベルルちゃんは終始笑顔だけれど、

 後でぐちぐち言われる奴じゃなかろうか。


「では私は派閥の皆に話してくる、またあらためて今夜に!」

「は、はあ、はい、では、また」


 うっわ、ルンルン気分で自分の席へ戻っていった、

 そしてそのエリアの貴族に何かこっちを見ながら話して……


「えっとソフィーさん」

「心配いりませんよ、今現在生き残っている公爵家は、

 遅かれ早かれ我々の味方になります、むしろお手柄です」

「ほ、本当にぃ?」「ただ、今夜の話し合いは私が主導で行います」


(あっ、これ尻拭いって奴だ!)


 慌てて今度は公爵一覧を見直す僕、

 国王陛下の名前も大事だが公爵間のパワーバランスも再確認しておこう、

 あーもう面倒臭いなあ、僕って本当に公爵としてやっていけるのだろうか?


「みなさーん、おはようでやんすー、親分は多分、寝坊で遅刻でやんす~」


 あーこの声はタッシバさんだ、

 相方の、いや親分のザッキーはまだ来ていないらしい。


「時間が来ちゃったので、始めるでやんすよ~~!!」


 その言葉の直後に花火魔法が打ち上がる、

 開始の合図だ、公爵図鑑は後にして目の前に集中しよう。


(と思ったら音響装置を持った獣人がやってきた!)


「それでは春期定例闘技大会、ここフォレチトン、

 ならびにここミストシティ領主様であらせられる、

 ミスト=ポークレット様より、開幕宣言でや~~んすっ!!」


(聞いてないんですけれどもーーー!!)


 まあいいや、満員だから何言っても許して貰えるだろう、

 僕は立ち上がり、息を整えて音響装置に向かって言葉を発する。


「えーみなさん、今日はこの僕、あっ、おはようございますっ!」


 軽く笑い声が、

 掴みはこんなものでいいかな?!


(わざとじゃないけど!)


「いやあ今日は本当に残念です、冒険者の僕が、ギルド認定勇者の僕が、

 この大会で闘ってまた強い所を見せたかったのですが、残念ながら適した相手がいない!

 という事で、今日勝った人を見繕って、次回の対戦相手を検討したいと思います!!」


 意外と盛り上がるコロシアム!

 えっ待ってこれ本当に次回闘う流れになってなーい?

 適当な言い訳で今日は出ないって事を伝えたかっただけなのにい!!


「ミストくん楽しみです」

「ミスト様、次回の戦い、婚姻後の初戦ですわ」

「う、うん、まあ、そこは、頑張る、かな?」


(やっべーどうしよう、こうなるとちゃんとした相手に負けて貰わないと)


「ありがとうでやんしたー! それではいよいよ第一試合、

 おやび~ん! はじまっちまいますよ~~、早く起きて~~!!」


 悲痛な叫びは果たして届くのか?!

 などという司会の事は置いといて、

 片方のゲートから褐色の戦士がやってきた。


「まずは第一試合、砂漠の国からやって来たリーダー、

 アムムルさんでやんす~、一国のリーダーがオープニングマッチに登場でやんすよ~!!」


 おお、いきなり植民地とはいえ一国の代表者が!

 でも顔は少し浮かないというか、うん、これはアレだ。


(オークレースの借金の形に、出場させられてるな)


「続きましてナスタン国の近衛隊長、ダラスさんでやんす~~!!」


 あー前回負けた。

 今度は相手が一枚落ちる(多分)が、大丈夫だろうか。


「うむ、おはぎもヨモギ餅も桜餅も美味いのう」


 そんな子供の声が聞こえたので斜め後ろを見ると、

 チヨマル坊ちゃんがお母さんの隣でジッポンの例のデザート、

 しかも黒以外に、緑やピンクのを食べている、ずるーい。


「アンナも食え食え」「いただきまぁす」


(うん、仲良さそう、でも持ち帰らせないよっ!)


 相変わらずジッポンの王子に軽く嫉妬

  だめ貴族だもの。 ミスト


(ベルベットちゃんも隣り、でなくて良かったぁ、でもどこへ?!)


「それではいよいよ、第一試合開始でやんすよ~~!!」


 あっ、見なきゃ。

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